24.女神の降臨
「!?」
顔をあげ、周囲を見渡す。
最初に異変に気づいたのは、ピーター主教だった。
悪魔の襲撃からはウィルフォードの障壁で防がれているとはいえ、生きた心地のしない主教は、目を閉じてひたすら女神シーラに祈りを捧げていたのだ。
目を閉じれば、恐ろしい悪魔を見なくて済むからだ。
ふと、閉じているはずの目の前に、何かの気配を感じた。
それが何かはわからなかったが、温かくそれでいて途方もなく神聖な気配だ。身体の奥から湧き上がる、それに対する感謝の感情が抑えられない。
そっと目を開いたとき、まだ悪魔が数匹、ガリガリと障壁の破壊を試みていた。しかしピーター主教の目はそのはるか先、ブリストン大聖堂に惹きつけられた。
……。
夜の闇のなかに、鋭く輝く光球が見える。
光球からはあらゆる方向に光の筋が伸び、周囲を照らしているようだ。
一目でわかった。この光は。
「だ、大聖女さま! め、女神様が……」
「私たちをお救いにいらしてくださったのね」
いよいよ光は強さを増して、大聖堂の周囲は真昼のような明るさだ。
しかしまぶしくはなく、照らされた顔は春のように暖かい。
ピーター主教は光球の中に、一生をかけてお仕えしてきた女神の姿を見た。
「ひっ、、ひぃっ。」
ピーター主教はひざまづいて、額を石畳にこすりつけた。
圧倒的な聖なる気配に、体の震えが止まらない。
首から下げていた太陽のペンダントを両手で握りしめ、女神への感謝の言葉をひたすら紡ぐ。目から涙がどんどんとあふれてきて、石畳に吸い込まれていく。
いつの間にか、人間を襲っていた悪魔の動きが止まっていた。
「殿下、あれは……?」
「女神、なのだろうか」
ウィル達も呆然と立ち尽くしている。だが、ピーター主教の様子を見ると、何が起こったのか何となく理解できた。
ブリストン聖教都市にいる、すべての存在が、大聖堂の方を向いて、その光に目を奪われていた。
****
「うぅ……」
あちこち痛めつけられたユーベルの体は、もはや痛みを感じなくなっている。
私は死んだのだろうか。そういえば頬が温かい。太陽に照らされているようだ。
体は仰向けに倒れたまま動かないが、瞼だけは自分の思うように動かせた。目を開けると、すぐ上空から、光が降り注いでいるのが分かった。
「シーラ……さま……?」
自然と、女神の名が口にでた。
そしてそれは、間違っていないと思われた。
ユーベルが女神の名を口にした瞬間、光球から黄金に光る神気の波動が周囲に発せられる。
波動はゆっくりと、カーテンのようにゆらゆらと形を変えながら、光球の周囲から広がっていく。
「ギャァァァァァ!」
黄金の波動に触れた悪魔たちは、叫び声をあげて崩れ去っていく。
あの塔の悪魔から伸びた無数の白い蛇も、最初はユーベルに食らいついていたものが、次はユーベルの触手に巻き付いていたものが、順番に崩れ去った。
やがて黄金の波動は、塔の悪魔から生えた巨大な悪魔の腕をとらえ、消し去った。残っているのは、塔の悪魔だけだ。
塔の悪魔に到達した神気は、そこに何もないかのように、すっと広がっていく。
「ォォォォォォォ……」
塔の悪魔の悲鳴なのだろうか。不安を呼び起こすような声がわずかに聞こえたが、数瞬後、塔の悪魔がいた場所には、崩れ去ったブリストン大聖堂のがれきだけが残っていた。
そして聖なる波動は速度を増して広がる。
それがブリストン聖教都市一帯を覆いつくすまで、わずかな時間しかかからなかった。
無数にいた悪魔たちは逃げる間も無く、隠れる場所もなく、消え去った。
最初から、あの恐怖が無かったかのようだ。
ブリストン聖教都市の石畳からは、女神の力の残滓が小さな光の粒となって立ち上り、しばらく都市全体がぼうっと金色に照らされていた。
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