23.聖女の祈り
ユーベルは走る。
前から、左右から、塔の悪魔から伸びてきた白い蛇がユーベルを襲う。
触手で振り払う。
近づいてくる蛇の目のない頭部を潰す。
だらりと力を失った蛇の胴体を踏み越える。
「あああああああ!!」
ブリストン大聖堂の敷地を駆け抜け、ついに塔の悪魔の目前まで辿り着いた。しかし、ただ一匹の悪魔の巨大さに目が眩むようだ。足を止めた刹那、塔に浮かんでいた苦悶の表情のうち一つが、目を大きく見開いた。
同時に、目から衝撃波が射出される。防ぐ間もなくユーベルは突然の攻撃をまともに受け、体をのけぞらせた。
「がはっ」
下半身から伸びた触手が樹木のように地面を捉え、体が吹き飛ばされるのをかろうじて防ぐ。上半身は体を地面に叩きつけられたように痛い。口の中に血の味が広がる。
体制を立て直さなければ。今の攻撃が一度で済む保証はない。のけぞった体をもとにもどすと、今度は塔に浮かんでいたいくつもの顔が、目を見開いていた。
複数の衝撃波が連続してユーベルを襲う。触手を自分と塔の悪魔の間に差し出し、盾にして防ごうとする。ほんの数発で触手は弾け飛び、再びユーベルを襲う。
「ぐっ!」
これ以上隙を見せるわけにはいかない。衝撃波が体を駆け抜ける。すでに人間の体は骨が砕けてしまっている。かろうじて触手を使って衝撃波を防いでいるが、このままではジリ貧だ。
「この……」
攻撃の合間を縫って、触手で衝撃波を発している目を潰す。衝撃波がやめば次はこちらの番だ。
守りに使っていた触手も含めて、がむしゃらに塔に突き立てる。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
グシャ……
「!?」
手応えがない。触手が動かない。ユーベルの攻撃は塔の悪魔に受け止められていた。
今度は塔から新たに巨大な手が生えてきていた。
大聖女を襲っていた、あの悪魔の腕を大きくしたような形をしている。住民を襲った時のあの長い爪で、ユーベルの触手をまとめて握りつぶしているのだ。
掴まれた。
悪魔の腕はずるずると触手ごとユーベルを引きずり始める。
「こ……このっ!!」
取り込まれるわけにはいかない。悪魔の腕を引きちぎろうと伸ばした触手が、またしても生えてきたもう一本の腕に掴まれ、握りつぶされた。
悪魔の腕に引っ張られたユーベルは、その場所に止まることができず、宙吊りになってしまった。
まだ自由になっているユーベルの触手に白い蛇が噛みつき、食いちぎる。
新たに伸ばした触手にはさらに多くの蛇が殺到する。
悪魔の腕に吊り下げられ、残った触手を白い蛇に噛みつかれ、ユーベルの体は空中に磔にされた罪人のようだ。
刑を執行するかのように、塔に浮かぶ顔の目が開かれ、衝撃派が放たれる。
衝撃波は触手に防がれることもなく、真正面からユーベルに打撃を与える。
「げほっげほっ……」
肺がつぶれ、鼻からぼたぼたと血が吹き出す。
息ができない。
いたぶるように次から次へと衝撃波がユーベルを襲う。
骨が折れた手足は衝撃波に抗うことができず、ぶらぶらと空中で踊らされている。首にも力が入らない。衝撃によってガクガクと前後に行ったり来たりを繰り返している。
もうだめだ。意識が遠のく。
……大聖女様。私に人間の人生を与えてくださったお母さん。
あなたの名誉を汚してしまってごめんなさい。
初めて私の味方になってくれた皇子。
こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい。
女神様。
私のような別世界の異物にすら、幸せを与えてくださってありがとうございます。本当は、大聖女の替え玉などではなくて、ひとりの人間として、ひとりの神官としてあなたにお仕えしたかった。
視界が真っ白になってきた。
女神様、もし、わたしのいのりをききとどけてくださるなら
わたしのおかあさんを
みんなを
たすけて くだ さ い
ユーベルは意識を失った。
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