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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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22.聖女の呼び出した悪魔 vs 主教の呼び出した悪魔

 ブリストン大聖堂の中から現れた黒い塔のようなものは、その体から悪魔を生み出し続けている。最初は一匹、二匹だったが、悪魔の生まれる勢いは増し続けている。いまでは悪魔が濁流のように塔から流れ出ているといってもいい。


 氾濫した河川の水のように、前方から押し寄せる無数の悪魔を、ユーベルの無数の触手が薙ぎ払う。

 命を失った悪魔は崩れ去るが、その空いた空間を次の悪魔が埋めていく。

 それでもユーベルは前に進み続け、ついに大聖堂の敷地までたどり着いた。



 ブリストン大聖堂はもともと女神を祭る式典などにも利用されるため、中央塔を中心として周囲数百メートルが扇状の石畳の広場となっている。

 多い時には数千人が広場に集まり、女神へ歌をささげることもある。しかし今聞こえるのは呪われた不快な悪魔の叫び声だ。


 住宅や商店の並ぶ市街を抜け、ユーベルが広場にたどり着く。

 同時にそれまで動くことのなかった黒い塔がもだえるようにうごめき始めた。黒い塔の周囲に浮かぶ、苦悶の表情をする顔の口が大きく開き、さらにはみちみちと口が裂けていく。

 中からぬるぬると粘液のようなものに覆われた、蛇のようなものが伸びてきた。

 体は皮をはがされた蛇のようで、うろこはなく、透き通るような白い皮膚を体液が覆っている。

 頭部には目はなく、ぱっくりと開いた顎から鋭い牙がのぞいている。


 にゅるにゅると周囲から伸びる目のない蛇は、いずれもユーベルに頭を向け、襲い掛かるタイミングを待っているようだった。


「……」


 塔の悪魔を間近で見たユーベルは、直感的に、これがもともとは自分と同じ世界にいた存在だと理解した。さらに、この世界にいるべきではないことも。

 そしてもう一つ、ユーベルとこの悪魔は相容れないことも。


「女神様。私に力をお与えください」


 大聖女の名を騙るような罪人に、ましてやこの世界の住人ですらない私に、女神シーラが何の力を与えるというのだろう。

 それでもユーベルは口に出さずにはいられなかった。

 この世の者ではない姿を大聖女に、あの皇子に見られてしまっていたが、それでも私は神聖教の神官であることをやめたくなかった。


 ユーベルは走り出す。黒い塔に向かって。

 同時に、祈りのために組んだ両手とは逆に、ユーベルの下半身から無数の触手がわらわらと姿を現し、黒い塔めがけて伸びる。


 黒い塔から伸びた蛇も、ユーベルが走り出すと硬直が解けたかのようにユーベルへ向かって襲い掛かった。



 最初の一撃を与えたのはユーベルだった。一番近くに来た白い蛇の頭部を、噛みつこうと開いた口から脳天へ向けて触手が貫いた。

 致命傷にはならないのか、それとも元から頭などないのかはわからないが、触手で貫かれた白い蛇はうねうねとくねり、逃れようとしている。


 ユーベルが触手を戻そうとすると、今度は白い蛇がその牙を触手に突き立て、離さない。さらに周囲から蛇が押し寄せ、ユーベルの触手に食らいつき、噛みちぎる。そこへユーベルの別の触手が巻き付き、蛇を引きちぎる。


 一瞬の攻防のあとは、無数の触手同士の殺し合いとなった。


 突き刺し、ねじ切り、引き裂く。


 噛みつき、つぶし、食いちぎる。


 以前は女神をたたえる教徒であふれた大聖堂の広場は今、おぞましい体液と肉片で埋め尽くされている。


 無限に沸き出る触手と蛇が、お互いを食い合う。

 しばらくすると、そのせめぎあいは徐々に塔の悪魔が形勢有利になりつつあった。

 ユーベルは蛇だけではなく、いまだ増え続ける悪魔の攻撃も受け止めているためだ。せめてこの悪魔だけでもなんとかしないと、ユーベル自身があの蛇によって食い殺されるのは時間の問題だ。


「……っ!」


 触手などいくら引きちぎられようと問題はないが、この勢いで自分が喰らい尽くされ塔の悪魔に取り込まれれば、流石に自分を維持することはできないだろう。

 そうすれば次は後ろにいる大聖女様が危ない。


「このっ!このっ!!」


 触手を振るい続ける。もう一度押し込み、塔の悪魔本体へ辿り着かねば。

 ユーベルの焦りによるものか、あるいは塔の悪魔の巧妙な誘導か、触手による迎撃を逃れた一本の蛇がついにユーベルの元へ伸びる。


「しまっ……」


グシャッ。


 ユーベルの周囲に、障壁が生まれた。見えない壁は白い蛇も悪魔も退けて周囲を護っている。ユーベルに食いつこうと迫っていた蛇は、障壁とぶつかった衝撃で押し潰れていた。


 後ろから、皇子の護衛ーーリズの叫び声が聞こえた。


「ブレイド・インパクト!」


 瞬間、衝撃とともにユーベルを後ろから襲っていた悪魔は散り散りに吹き飛んだ。

 ほとんどは衝撃でバラバラに弾け飛び、地面に打ち付けられる前に崩れて消えていった。かろうじて崩壊を免れた悪魔は、周りの悪魔を巻き込んで吹き飛ばされた。


「あなたは……」

「加勢にきたわ。大聖女様も無事よ」


「ふん!」


 さらに後ろから、悪魔たちを大盾で横殴りにするアルフレッド。近くの数匹はその場でつぶれる。まるで盾で掃き掃除をしているかのように、集まってくる悪魔をおしのける。


「ユーベール!!」


 アルフレッドが掃除したところへ、ウィルフォード皇子が現れた。後ろにピーター主教と、サイラスが荷車を引いてついてきている。


「大丈夫か?!大聖女様から、君のことを助けるように頼まれたんだ」

「大聖女様……」

「ユーベル殿がいなくなったあと、悪魔どもも数が減りましてな」


 ウィルに続いて、アルフレッドが説明を続ける。


「やはりあなたを狙っているようですな」


 リズとアルフレッドの攻撃で体勢を崩した悪魔たちだったが、やがて起き上がると再びユーベルの周囲を取り囲み始めた。


「僕らが本体を攻撃しようかとも思ったんだけど、大聖女様もお守りしないといけないからね。君の近くで、せめて悪魔を受け持つよ」

「後ろは私たちにまかせて。あなたは、あの塔の悪魔に集中して」


「……わかりました」



 危機的な状況で、ユーベルは不思議な高揚感に包まれていた。


 これまで大聖女以外に自分の味方はいなかった。

 その他には、自分の力を悪用しようとする主教たち、自分が変装した大聖女に会いにくる信者たち、「大聖女の娘とされているから」身の回りを世話する神官たち……。

 初めて、損得ではなく私の隣に一緒にいてくれる人間が現れた。


 一度は命を狙った相手だと言うのに、大聖女様を護るという約束を果たしてくれている。それだけではなく、この私の身すら案じてくれているのだ。


「……その、ありがとうございます」

「そんなこといいわよ!早く!」


 相変わらずウィルフォード皇子の護衛をしている女は棘のある言い方だが、こちらを嫌っているわけではないようだった。


「はい!」


 悪魔からの攻撃を受け持ってもらえることで、あの塔の悪魔に全力で挑むことができる。


 ユーベルは再び前に進み始めた。



いつも読んでいただき、ありがとうございます


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