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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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20.ウィル、異変に気づく

「殿下、これはただ事ではありませんな」


 ユーベルが去ったあとすぐ、神聖都市中に響いたであろうほどの大きな爆発音を聞いたウィル達は、宿の外で信じられないものを見た。

 神聖かつ荘厳な雰囲気をまとっていたブリストン大聖堂は、内部から黒い何かに食い破られ、中央塔は無残に崩れ去った。

 そして、崩壊した大聖堂の代わりに現れた巨大な黒い何かは、何やら邪悪な気配を垂れ流している。


「ユーベルが心配だ。僕らも大聖堂へ向かおう。サイラス、無理はしなくていいから、斥候を頼む」

「あぶなかったら、すぐ戻りますからね?」


 1秒を争う事態だとサイラスも理解しているのだろう、いつもの冗談もなしに一瞬で大聖堂の方へ姿を消した。


「殿下、先導は私が」

「そうだね、お願い」


 何があるか予想のできない事態だ。盾役のリズを先頭にして、ウィルは中衛、経験の多いアルフレッドは後方からウィルの護衛と状況把握を行う分担になった。

 三人は走りながら、現状について意見をかわす。


「大聖堂で何かあったのかしら?」

「あの気配、良い出来事ではないでしょうな」

「ユーベルに何かあったのかな?」


 あの、ただごとではない気配は、やはりユーベルなのだろうか?


「彼女でもさすがにこの短時間では大聖堂までは辿り着いていないと思います」

「つまり、ユーベルとは関係のない、突発的な出来事ということかな?」

「いずれにしろ、歴史ある大聖堂を破壊するとは、看過できませんなぁ」



 情報が足りない。

 ちょうど、そこへ先行していたサイラスが戻ってきた。


「殿下、まずいっス!あの黒いものから黒いものが出てきて……」

「サイラス、あなた少し落ち着きなさい」

「とにかく、悪魔みたいなモンスターが街の奴らに襲いかかってるみたいなんスよ。どうも、大聖堂の方からどんどん出てくるみたいで……」


 サイラスが説明している間に、奥の通りから、青年が必死の形相でこちらに逃げてきた。


「たっ……助けてくれ……!悪魔が!!」


 青年は、恐怖のあまり助けを求める声を上げながらそのまま走り去ってしまった。


「あっ!ちょっと!……っ!?」


 青年に声をかけようとしたリズは、すぐ後ろからきた気配に気付いて剣を構える。


「ゲェェェ……」


 不快な声を上げながら出てきたのは、背の高いゴブリンのような容姿に、コウモリのような羽の生えたモンスターだ。

 サイラスの言う通り、いわゆる悪魔のような姿をしている。


 羽を動かしているが、動作はゆっくりとしている。羽の動きと関係なく、何かの魔法的な力で宙に浮いているようだった。


「殿下、後ろへ」


 スッとアルフレッドもウィルの前に立つ。初見のモンスターは注意して当たるべきだろう。

 ウィルは四人に魔法障壁を張ろうとして……三人しかいないことに気づいた。


「サイラス?」

「サイラスは気配を消して、いなくなりましたぞ」

「あいつ……」


 今サイラスのことを気にかける余裕は無い。ウィルは自分と、リズ、アルフレッドに障壁を張った。不意の攻撃からは三人を守れるだろう。


「ギェッ!」


 悪魔はその尖った爪が主な攻撃手段のようで、先頭にいたリズを切り裂こうとして……盾に防がれた。

 幸い、リズからすればそれほど脅威では無いようだ。


「はっ!」


 リズの剣が煌めき、盾で体制を崩した悪魔を頭から縦に通り過ぎる。

 両断された悪魔は絶命し、灰となって崩れていった。


「この程度なら、多少数が多くても苦戦することは無さそうね」

「他にも強い魔物がいなければいいけどね……」


「いやー、大したことなさそうで安心しました!」


 いつの間にか消えたサイラスが、いつの間にか戻ってきていた。


「サイラス、逃げたんじゃ無いだろうな!?」

「そ、そんなこと無いっスよ!隙があったらモンスターに攻撃を加えようと、距離をとっただけですって!俺、リズ姉さんやアルの旦那と違って防御は苦手なんスから!」


 必死の弁明?を見る限り、本当に単に距離をとっただけのようだった。

 よく考えると、彼が加わってから本格的な戦闘は初めてだし、いままでリズやアルフレッドをみていたので、お互いが視界にはいって戦うものだとばかり思い込んでいた。


「ごめん、ちょっと疑ってたよ。でも、いきなりいなくなると防御魔法もかけられないからね」

「わかりました殿下」


 むしろ、魔法を発動するまでの一瞬で戦闘体制にはいり、距離をとった彼の速さは貴重なのではないかとウィルは思いなおした。

 気を取り直して、サイラスに防御魔法をかける。


「よし、次は何匹もきているようだし、頼むよ!」


あの一匹の跡を追うように、路地から何匹もの悪魔が現れた。リズが再び剣を構えたその時……


「ギィィィィイィィイィィィ!!」


 これまでと違った、さらに邪悪さを増した悪魔の叫び声が響き渡る。どうも、すぐ近くから叫び声が上がっているようだった。


「これは……?」


 声を聞くや否や、悪魔たちは吸い寄せられるようにそちらの方に移動してゆく。

 リズを狙っていた悪魔だけではない。横道から、あるいは民家の屋根を伝って、大量の悪魔が移動を始めた。悪魔に何かあったのだろう。


「追おう!」


 ウィルたちは走り出す。そこかしこから聞こえてくる、悪魔たちが石畳を蹴る音を追いかける。

 しばらく行くと、まるで餌に群がる蟻の大群のように、うじゃうじゃと悪魔が集まっているのが見えてきた。想像していたよりも遥かに数が多いようだ。


「殿下!人が襲われて……」


 最初に気づいたのはリズだ。

 目を凝らすと、白い服……神聖教の法衣だろうか、荷車を引く人物の姿が見える。直後、集まっていった悪魔がその前に立ち塞がった。悪魔は欲望のまま、襲い掛かろうとしているようだ。


「サイラス!行けるか!?」

「すぐきてくださいよ?」


 ウィルの命令に一言そう言うと、サイラスは石畳を踏みしめた。

 前に踏み出したサイラスが周囲の空気を置き去りにして飛び出していく。

 悪魔は法衣を着た人物を引き裂こうと長い爪を振り上げる。

 同時に、聞き覚えのある声色の叫び声が聞こえた。


「大聖女様!ダメーーーーーー!!」




いつも読んでいただき、ありがとうございます


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