18.大聖女を探して
ウィルフォード皇子と別れたユーべルは、大聖堂へ帰ろうと屋根伝いに移動をしていた。
あの宿屋へ向かっていた時とは打って変わって心が軽い。あの皇子は大聖女様にご迷惑が掛からないよう、とりなしてくださると言ってくれた。強欲な主教たちの件も、何とかしてくれるという。
「大聖女様……」
夜が明けたら、真っ先に大聖女様に会いに行こう。これまで犯してしまった過ちを謝罪しよう。これからは、もっと人間の親子として何でも打ち明けよう。
大聖女の名を騙ってしまったことは、謝るしかない。叱責されるかもしれないが、それでも大聖女様に何も隠し事をしなくてよいと考えると、ユーベルは晴れやかな気分だった。心なしか、足も軽くなる。
「?」
ふと、ブリストン大聖堂の方から嫌な気配がした気がしたユーベルは、足を止めて大聖堂をじっと見つめた。
……気のせいではない。大聖堂の中央塔がぐらぐらと揺れている気がする。
さらにじっと見ていると、大聖堂の壁や窓を突き破り、突然黒い影があふれ出てきた。
「ドォォン……」
「!?」
少し遅れて、爆発音が聞こえてくる。先ほど出てきた何かによって、大聖堂が破壊された音のようだ。ついに中央塔が傾き、倒れてしまった。
黒い影は恐ろしいスピードで膨張し、大聖堂をのみこもうとしている。このまま膨張が進めば、大聖女のいる奥屋まで飲み込んでしまいそうだ。
「そうだ!大聖女様!」
大聖女様が危ない。ユーベルは全速力で大聖堂に向かった。
****
大聖堂へ近づくと、悲鳴がそこかしこから聞こえてきた。住民たちは羽の生えたゴブリン--悪魔に襲われているらしかったが、ユーベルは大聖女のことで頭がいっぱいだった。もしかしたら大聖女も襲われているかもしれないと思うと、気が気ではない。
大聖堂はほぼ倒壊して、代わりにあの黒い影がそそり立っている。黒い影は中央塔と同じくらいの大きさになっていた。
円錐をさかさまにしたような形をして、周囲には苦悶の表情を浮かべる顔が浮かんでは消えている。その人間の顔らしきものがこちらを見ているような気がしたが、なるべく刺激しないよう崩れた聖堂を回り込み、大聖女の寝室がある奥屋へと急ぐ。
ユーベルが大聖女の寝室にたどり着いたとき、奥屋は半分ほど黒い影に飲み込まれていた。
「よかった……部屋はまだ無事ね」
ほっとして扉を開けるユーベル。しかし彼女が期待した人物は部屋の中にいなかった。
「大聖女様?」
部屋は荒らされた様子もない。ベッドを調べると、まだ暖かい。少し前までここにいたのだろう。しかし、部屋を見回しても人の気配はない。どこかに隠れているわけでもなさそうだ。
「大聖女様!!ダイアナ様!!いらっしゃいませんか!?」
ユーベルはこれまで発したことのないほど大きな声で、大聖女を呼ぶ。黒い影が近づいてきたため、奥屋にいた神官たちは逃げ出したのだろう。大声に答えるものは誰もいなかった。……反応したのは人間以外の、何かだ。
「ギェェェ」
おぞましい声を出しながら、住民を襲っていた悪魔が1匹、大聖女の部屋の入り口に姿を見せた。ユーベルが上げた大声に反応したのだろう。敬愛する大聖女の部屋を汚された気がして、ユーベルはすぐさま悪魔の頭部を触手で貫いた。
悪魔はビクッと体を硬らせると、そのままだらんと力が抜け、死んだようだった。部屋を汚さないよう、悪魔を部屋の外へ投げ捨てたが、廊下に放り出された悪魔はしばらくすると崩れ去り、跡形もなく消えてしまった。
「……大聖女様」
今にもこの薄汚い悪魔に、大聖女が襲われるかもしれない。早く見つけなければ。
「もし逃げたのなら、まだ近くにいるはず」
ユーベルは奥屋の外へ走り出した。
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