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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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16.わずかな良心

 ブリストン大聖堂のシンボルである中央塔の地下には、1階の聖堂よりもさらに大きな地下室が作られている。その存在を知るものは上位神官の極一部に限られる。


 そして、その目的を知るものは、わずか十二人。最上位の神官である主教たちだけだ。そして、ついにその目的が実現しようとしていた。


「ついに完成したのですね……!召喚の魔法陣が!!」

「そうだ。ユーベルが別世界から女神によって呼び寄せられたことを知ってから何年も研究を重ね、ついに別世界への扉を開くことに成功した」


 主教たちは口々に魔法陣の完成を喜ぶ。こことは違うどこか、そこに暮らす存在を喚び出し、使役しようというのだ。


 女神が大聖女に与えた赤子ですら、女神の奇跡に匹敵する治癒の力と、想像を絶する戦闘力を持っていた。新たに呼び寄せる存在は、どれほどの力を秘めていることか。


 興奮のボルテージが上がってゆく主教たちのなかで、一人恐怖に駆られる人物がいた。ピーター・ノエル主教だ。彼がこの地下室の存在を知ったのは、わずか数刻前だった。


 夜になって突然大聖堂に呼ばれたかと思うと、見たこともない通路からこの地下室へ案内された。

 道中クレイグ主教の会話を聞いていて、ついに主教たちの邪悪な試みが現実となることが、それだけではなく大聖女や、女神が大聖女に与えたもうた娘ユーベルの命がいよいよ危ないということが、わかった。


「やはり、私はもう付き合いきれない」


 ここで声高に女神の教えを説いたとしても、おそらく邪魔者として召喚された魔族の最初の餌にされるだけだろう。道を踏み外した主教の最後としてはお似合いだが、大聖女様だけは安全を確保しなければ。


 地下室には光は入らない。壁伝いに一定の間隔で備えられた蝋燭の明かりだけが部屋の中を照らしている。ゆらゆらと揺れる炎は、床に描かれた巨大な魔法陣を写しだす。主教たちが炎にゆらめく魔法陣に魅入っている今が最後のチャンスだ。


 ピーター主教はこっそりと元来た道を引き返した。




****




 ピーター主教はコンコン、と大聖女の部屋のノックをしてみたものの、こんな時間ではもう寝ているだろう、という思いもよぎる。しかし想像に反して中から返事が返ってきた。


「どうぞ」


 恐る恐るドアを開ける。鍵がかかっていないのはいつもの通りだ。だが最近はほとんど大聖女様にお会いしにくることは少なくなってしまった。それは、自分の中に生まれた罪悪感のせいだろう。

 主教たちの中では唯一、大聖女様と寝食をともにした経験のある自分が、最も大聖女様にお世話になった自分が、今やただの犯罪者ではないか。


「大聖女様」

「あら。ピーター。珍しいわね」


 大聖女様はいつも、全て包み込んでくださるような表情を、自分に向けてくれる。

 こんな時間に部屋を訪れるなど、ただごとではないと感じているだろうに、まるで散歩の途中で偶然出会ったかのような軽さだ。


「お久しぶりです。以前お会いしたのは新年のご挨拶でしたね」

「そんなに前だったかしら?いやね、歳をとると時間がすぎるのが早くなって」


 弱々しくなってしまったが、大聖女様の懐かしい声に、このままずっと会話していたくなる。こうして話していると、地下で現れようとしている恐ろしい魔族のことなど忘れてしまいそうだ。だが、あれは現実だ。


「大聖女様、危険が迫っています」

「……」


 ピーター主教の顔つきから、冗談ではないと理解したのだろうか。大聖女は答える。


「私のことは良いのです。ピーター、あなただけでもお逃げなさい。できることなら、ユーベルを連れて行ってあげて」

「そうおっしゃると思いました。ですが、私は大聖女様をお助けしにきたのです。さ、こちらへ」


 ピーター主教はベッドのそばで膝をつき、大聖女を背中におぶった。立ち上がると、想像以上に軽かった。


「ユーベルは別のところにいます。大聖女様もお逃げください」

「そう……」


 大聖女はおそらくピーター主教がユーベルのことを何か隠していることを気づいたのだろう。しかしそれ以上は何も言わなかった。


「さ、行きますよ」


 ピーター主教は、はやる気持ちを押さえ込み、歩き出した。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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