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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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14.二度目の指令


「これはこれはウォーレス主教。先ぶれもなしに申し訳ない」


 流石に、襲撃を受けた本人が襲撃を指示した相手を翌日に訪問してくるとは思っていなかったらしく、ウォーレス主教の顔は引きつっている。


「……して、何か御用でしょうか?」


「昨晩、”何者か”に僕の護衛が襲撃されたんだ。何かよくない攻撃を受けてしまったらしくて、状態が改善しない。大聖女様に癒しの奇跡をいただきたいのだが」

「……」


 ウォーレスは計算しているのだろう。ここで護衛を回復させるデメリット。足元を見て皇族に大金を請求するメリット。天秤はメリットの方に傾いたようだった。


「大聖女様はお忙しいゆえ、調整には手間がかかります。金貨1000枚をお納めいただきたい」


 サイラスはあまりの金額に目を見張っている。内心、ふっかけたなと怒りが湧いたウィルだったが、全てがおわったら金貨は取り返せるだろうと考えそのまま支払うことにした。最初小切手での支払いを提示したのだが、ウォーレス主教は現金にこだわった。

 現金にしておく理由がなにかあるのだろうか。夜逃げするのでもあるまいし。

 疑問はさておき、流石に手持ちでは払えないので、アルフレッドと手分けして金策したあと、午後には奇跡を受けることができた。商人として親子を回復してもらった、あの同じ部屋だった。





「殿下、ありがとうございました。ご迷惑をおかけしてすみません」


「気にしないで。とにかく、回復してよかったよ」


 意識が朦朧としつつも、大金がかかったことはわかったようで、リズはしばらくとても恐縮していた。


「リズがいないと僕の直属の護衛がいなくなってしまうからね。とにかく、無事でよかった」


 こんなことでリズに気にしてほしくなかったし、リズがいなくて困るのは本当だ。あまり顔には出さなかったが、ウィルは内心かなり焦っていた。クレイグ主教が寄付を要求した時には、金貨で解決できることがむしろ嬉しいくらいだった。


「それにしても、途中でサイラスがいくら話しかけても、大聖女様、いやユーベルは全く無言でしたな」


「そんなこと言ったって、あの主教の前では情報を漏らさないようにって言ったのは殿下っスよ?話しかけられる内容に限界がありますって!そもそも、大聖女ってことであそこに座ってるんスから、返事できないんじゃないスか?」


「たしかに、バレないように会話は禁止されているのかもしれないね。とはいえ、クレイグ主教には、これからも僕らが周囲をウロウロするだろうということは伝わったはずだ」


「殿下、それではまた夜襲を受けるのではありませんか?危険です! ユーベルの攻撃を受けた私だから申し上げますが、次は殿下を守り切れる保証はありません」


 リズの危機感は本物だ。あの呪いを受ければ、防御など関係ない。立ち上がることすら困難な虚脱感に襲われてしまった。

 それに後で話を聞いてみれば、触手の攻撃はウィルの防御障壁を後一枚というところまで貫通したというではないか。


 今回の敵は危険だ。あの攻撃を何度も受けたら、たちまち主人は触手の餌食になってしまう。かと言って自分が身を挺して守ろうにも、呪いを受ければ1撃で戦闘不能になってしまう。

 ただ、リズの懸念はウィルも想定しているようだった。


「次にあの攻撃を受ければ、まず間違いなくやられるだろうね。だからこそ、もう一度襲撃にくるだろう。主教たちがユーベルのあの実力を知っているなら尚更だ」


 ではなぜ……と言いかけたリズに、ウィルは続けて答えを述べた。


「危険な賭けになるけど、ユーベル一人と会話するタイミングはその時しかない。サイラス、次は君の説得がキーになるよ」

「……命懸けのナンパっスね?」


「あ、あなたね……」


 リズはあきれて笑う気にならなかった。




****




 夜。大聖女の癒しを求めて今日やってきた人々の応対を終えたユーベルのもとへ、クレイグ主教がやってきた。


 ウィルフォード王子の暗殺に失敗した報告の後、主教たちの怒り様は凄まじかった。曰く、女神の代弁者たる主教の命令を遂行できないとは何事だ、なぜ差し違えて殺さなかった、誰のおかげで生きていけると思っている……


 空虚な叱責だ。今の私がこうしていられるのは、母である大聖女ダイアナのおかげだ。決してあんな金と権力の亡者どものおかげではない。

 だけど。

 母のためには、主教たちのいうことを聞くしかない。


「わかっていますね。今日こそ、必ず命令を遂行しなさい」


 必ず殺せ。昨日からもう何度も聞いた。女神様を信仰する敬虔な信者たちがこんなことを聞いたら、どう思うだろうか。大聖女様にも幻滅してしまうだろうか。


「聴こえていますか?命令を聞けないようなら大聖女の……」

「聴こえています」


 大聖女様を人質にする物言いをもうこれ以上聞きたくなくて、私は主教の言葉を遮って答える。


「……ご命令は理解しています。行って参ります」


 ただ、それだけ言って、部屋を出た。


 そう、命令は理解している。けれど、やりたくない。



いつも読んでいただき、ありがとうございます


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