13.呪われたリズ
ウィルフォード襲撃の翌朝。
リズはというと、自室で休んでいる。襲撃の際に受けた”何らかの攻撃”によって、強烈な脱力状態となり、自分では歩けないためだ。当初は致死性の毒かと思われたが、命に別状は無いようだ。アルフレッドがいうには、呪いの類ではないかということだった。
ひとまず落ち着いたところで、ウィル、アルフレッド、サイラスの三人はウィルの部屋で作戦会議を開いていた。
「ということは、大聖女と思っていたアレは、大聖女ではなかったということですかな?」
「そうっす。ユーベルっていう、大聖女様と血の繋がっていない娘らしいんスけど」
「大聖女には会えたということか?」
「はい。見事におばあちゃんでしたよ。自分はもう長くはもたないから、娘を頼むって、泣かれちゃったんスよね」
サイラスが昨日会ったのは恐れ多くも大聖女のはずなのだが、その辺にいるただの老婆と世間話でもしたような言い方だ。
三人はそれぞれ、昨晩あったことをお互いに話した。そして、癒しの奇跡を使っていたのも、昨晩ウィルフォードを襲ったのもユーベルであること、主教たちによってユーベルがいいように操られているらしいこと、大聖女の死期が近いことなどを共有した。
「大聖女が娘と言ったとはいえ、あれはどう考えても人間ではありませんでしたな」
「そうだね。僕の障壁魔法が破られたのは初めてだよ」
皇帝の血を引く王族は、個人個人で得意な魔法を持っている。それは一般の魔法より遥かに強力で、だからこそ皇帝としての存在にある一定の根拠を与えている。
ウィルの場合は防御魔法だ。特に彼自身に張ることのできる障壁は、魔法だろうと弓矢や砲弾だろうと、今まで傷一つ着くことはなかった。それを破ったとなれば、並の攻撃ではないだろう。
「今考えると、俺とリズ殿が大聖堂で感じた人ならざる気配は、ユーベルのものだったのでしょうな」
アルフレッドがふと思い出したように言った言葉に、サイラスが反応した。
「そういえば大聖女のおばあちゃんがいうには、ユーベルは女神様が別の世界から連れてきてくれたらしいんス」
「女神シーラの作りたもうた現世とは別の世界の住人は、神聖教では魔族と呼んで忌み嫌っておりますな。本当にそんな存在がいるのなら、ですが。しかし大聖女の娘が魔族などというのは、上層部なら隠したいでしょうな」
「でもおばあちゃんは、全部知ってたみたいスよ。すべて正直に話し合いたいって言ってましたから」
サイラスは大聖女のことを考え、憐れみの表情をにじませる。
「大切だからこそ、言い出せないこともあるのかもしれないね。いずれにしろ、ユーベルと会話してみたいな」
「そう言ったって殿下、どうするんスか?」
「必ず会える方法があるだろう?リズを大聖堂に連れていって、癒しの奇跡をもう一度頼んでみよう」
リズは呪いを受けている。正面から帝国の皇子が癒しを求めれば、神聖教側も無下に断ることはできないだろう。そして、呪いを解くために偽りの大聖女ーーユーベルと接触できるはずだ。ウィルはそのタイミングで、なんとかユーベルと会話ができないかと考えた。
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