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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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8.主教たちの集い

 聖教都市の四大大聖堂の一つ、ギリンガム大聖堂のある部屋に、十二人の神官が集まっていた。年齢は皆高く、金色の刺繍が輝く白い法衣は、神聖教の実質トップである主教であることを示している。


「全員集まるのは久しぶりですね」


 口火を切ったのは第一席のクレイグ主教だ。


「すでに皆さんご存知とは思いますが、先日、帝国から第四王子がブリストン大聖堂を訪問されました。当初の想定通り納税の催促です」


「その件は多少追加で税金を支払って誤魔化すと、すでに結論が出ているのでは?」


 クレイグ主教の向かいに座っていた、別の主教が口を挟む。十二人は部屋の四辺に三人ずつ、中央を向いて座っている。テーブルはない。もともと神聖教の教義について議論を交わすためにこの形になったと言われているが、大昔のことで定かではない。とはいえ、テーブル無しに体を向かい合わせることは、存外腹の中をさらけ出す気分になるものだ。


「然り。王子にも、おって中央に書簡を出す旨を回答した」


「ではなぜ主教全員をお呼びになった?何か問題でも?」


「その点については、私が」


 次の問いに答えたのはウォーレス主教だった。


「先日ウィルフォード王子と謁見したのはクレイグ主教と、ピーター主教、そして私だ。その際に大聖女について意味深に探りを入れてきた。最悪、大聖女の替え玉について、王子が勘づいている可能性がある。」


「まさか、どこから漏れた……?」


「大聖女の先が長くないことが広まれば、教徒の結束にかかわる」


「いや、偽りの女神の奇跡を与えていたことが公になる方が、教会の対面に悪影響だ」


「ではすぐさま情報の出どころを探るべきだ」


「それよりも情報の拡散を防ぐほうが先ではないか?」


 主教たちに動揺が広がる。と、一際大きな声を出したのは、ピーター主教だった。


「少し!よろしいだろうか!?」


一瞬、全員がピーター主教に注目する。ピーター主教は声が震えていた。彼は他の十一人とは少し異なる事情で主教となったため、立場が弱い。席次も第12席。最下位だ。



「大聖女のコネだけで主教に成り上がった貴公が、なにか?」


 隣に座っていた主教がぽつりと呟いた。


 ピーター主教は真面目に神官としての功績を上げ、純粋に女神シーラへの信仰の高さ故に主教の座へ上り詰めた珍しい人物だ。しかし、もともと大聖女と同じ孤児院の出身だったため、主教を含む他の神官たちからは「大聖女に取りなしてもらったのだろう」と陰口を言われることも多かった。


 特に今いる他の十一人は、皆神聖教への多大な貢献によって主教となったものたちだ。彼らのいう「貢献」とは、どれだけ多くの喜捨を、つまりは金を神聖教にもたらしたかどうかなのだ。


「事実を公開すべきです。大聖女様の代役で教徒たちに奇跡を偽るなど、やはりあってはならない。正直に大聖女様のお加減がよくないことを公にし、癒しの奇跡を使った集金を、戦争のための蓄財をやめるべきです!」


 確かに、ピーター以外の主教の活動によって、神聖教は大きな組織となり、富を増し、貧しいものへ食事を行き渡らせることができるようになった。しかし、そのうち必要以上に富を集めるようになり、いつからか集金自体が目的と化してしまっている。


 ピーターの言葉に、他の主教の反応は冷ややかだ。


「ピーター主教。終わった話を蒸し返さないでいただきたい。大聖女の代理を立てた時だって、あなたは納得したではないですか。」


 クレイグ主教が穏やかな口調で諭す。後に続いたのはウォーレス主教だ。


「左様。女神シーラの教えを大陸に広めるには、帝国からの独立が必須。そのためには、先立つものと……武力が必要だ」


 武力。神聖教が中央への納税を渋り集めた資金は、神聖教の軍事強化に秘密裏に使われている。しかも、神聖教が目指していたのは、軍隊の創設ではなく……


「幸い、魔族召喚の儀式は最終段階を迎えている。数日中に完了するだろう」


 過去に女神への信仰を語るために始まったこの主教たちの集まりは、今や悪事の隠蔽と、女神への信仰を裏切る儀式を相談する、醜い集会と成り果てていた。


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