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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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7.第四皇子、主教と会う

 ウィルが商人としてブリストン大聖堂に向かってから何日か後、一行は再びブリストン大聖堂にやってきていた。


 ウィルが神聖教の外交部門を通じて、第四王子の名前で面会を申し込むと、数日後には主教の名で返信が返ってきた。大聖女は都合が悪く謁見できないが、主教数名が応対するということだった。場所は再びブリストン大聖堂が指定されており、それを聞いたアルフレッドはあからさまに落胆した様子だった。他の聖堂で会談が行われれば、観光もできると考えていたらしい。


「アルフレッド様、今日は観光ではないのですから、そんなに消沈しなくても……」

「まぁ、わかってはおるのですが。」


 帝国護衛騎士として最上位の存在であるアルフレッドに対して、普段は敬意を持って会話するリズも、少し呆れた様子だ。


「ブリストン聖教都市といえば、四大大聖堂。まだ行っていないアルバラ大聖堂、ギリンガム大聖堂、エ

ロー大聖堂のどれかに行きたかったですな。そういえばアルバラ大聖堂で思い出したのですが……」

「そ、そうだ、今日はどうして大聖女様はいらっしゃらないのでしょうね?殿下?」


 これ以上アルフレッドに喋らせると長くなると察したリズは、無理やり別の話題にそらした。ウィルもこれには同意見だ。話に乗ることにする。


「神聖教の大聖女はいわばシンボルのような意味合いが強い。今日のように事務的な、しかも金銭の話は、実務を取り仕切っている主教たちと話したほうがいいだろう。」

「それにしたって、帝国の王族が来たって言ってるんスから、トップが挨拶するのが礼儀ってもんじゃないんですかね?」


 サイラスが憤慨してくれているのは嬉しい一方、そういう本人は最初僕のことを殺そうとしてたのに、と考えるウィル。まぁ前のことを蒸し返してもしょうがない。


「格で言えばこちらも皇帝陛下ではないからな。さ、主教が来たみたいだぞ。」


 先日、平民として相対したクレイグ主教の外に、今日はさらに二人の主教が歓待してくれるようだった。



****




「ようこそいらっしゃいましたウィルフォード第四皇子殿下。まずは自己紹介から。私が主教第1席のクレイグと申します。」

「主教第3席のウォーレスと申します。」

「主教第12席のピーターでございます。」


 三人の主教は順番に名乗った。今日初めて会った二人の主教は、背も高く厳格そうな顔つきをしているのがウォーレス、中肉中背で髪が薄く、気弱な印象を受ける顔立ちをしているのがピーターというらしい。


「うむ、よろしくたのむ。後ろの者達は私の護衛騎士と臣下だ。右から、リゾルテ、アルフレッド、サイラスという。」

「アルフレッド様というと、帝国最堅と名高い、あの?」

「歴史ある神聖教の主教様がご存知とは、光栄の至りですな。」


 アルフレッドの名声は帝都から遠く離れたこの都市にも届いているらしく、主教たちはアルフレッドの武勇を褒めそやした。



 通りいっぺんの挨拶を終えた後、主教たちとテーブルを挟んで座ったウィルはこう切り出した。


「さて、先ぶれとしてお出しした手紙で述べたが、今回は神聖都市からの納税について確認しにきたのだ。」

「と、申しますと?」


 ウィルのちょうど真正面に座っているのはクレイグ主教だ。第一席、と名乗っていたということは、十二人いる主教の中でも最上位ということなのだろう。ウィルは、終始穏やかな笑みを浮かべているクレイグ主教を見据えて続ける。


「これまで帝国中央と神聖教は良好な関係を保ってきたと考えている。神聖教は帝国の庇護下に入ることで周囲からの介入から逃れ、代わりに帝国は神聖教を擁する名誉と金銭を得てきた。しかし、近年この関係に歪みが生じている。」

「……」


ここまで話せば、主教たちであれば察することはできただろう。しかし彼らの表情は変わらない。想定済みというわけだ。


「ブリストンからの税額がここ数年大幅に減ってしまっている理由を説明してもらおう。」


「その件については、すでに帝都に報告しているかと存じますが。改めて私からご説明を。」


 口を開いたのは、隣にいたウォーレスだ。しかし、内容は特に目新しいものはない。曰く、教徒たちが困窮している、規模が拡大する神聖教の運営維持に費用が嵩んでいる。。等々。


「それで、女神の奇跡を使って小金を稼ぎ始めたのかな?」


 ウィルがそういうと、クレイグが少し眉を寄せたように見えた。帝国の王族が、そんな細かなことまで調べてきたとは考えていなかったのかもしれない。


「女神の奇跡を有償とするか無償とするかに興味はないが、習得した利益に応じた税金は払ってもらおう。また、わかっているとは思うが東方のオリエンス王国の要人へ女神の奇跡を行使することは禁止だ。オリエンス王国を利することは、”お互いに”良い結果を生まないだろう。」


 オリエンス王国は帝国の東方に位置する国で、王政を敷いていることから帝国では「東方王国」と呼ばれることもある。国力は帝国と伯仲、さらに領土拡大への意欲も高く、帝国との小競り合いも少なくない。

 こうした国に対して、多少の金銭程度で要人の回復を行い、国力の維持に協力されてしまってはかなわない。


「ご忠告、しかと心に刻んでおきます。殿下。納税の件についても、皇帝陛下に”良いご報告ができるよう”、改めて見直しを行わせていただきます。」


 要は多少追加で税金を払うから、今回は見逃してくれというわけだ。政治的に強い立場ではないウィルは、もうこれで手を打つことにした。



「では、首尾良く見直しが終わることを期待している。……そういえば、」


 ウィルは席を立ち、部屋から出ようとドアノブに手をかけたところで振り返って言った。


「大聖女様がおられなかったようだが、本日はどうされたのかな?」


 何か公表できない理由があるんだろ?という意味の問いかけだ。しかし主教たちはこの質問を想定していたのだろう。クレイグが答える。


「大聖女様はお忙しい。いずれの機会に殿下へご挨拶させていただきます。」

「その時を楽しみにしている。」


 今日の結果、帝国中央へと多少は追加の納税があるだろう。100点とはいえないかもしれないが、デューン王子からの命令は遂行できたと言えるだろう。扉を閉じ、安堵のため息をつくウィルだった。




****




「殿下、少しお話が。」


 主教たちとの会談のあと、宿泊先へ戻ったところで、少し緊張した顔のアルフレッドが話しかけてきた。


「どうしたの?」


「主教たちと謁見した際、やはり何かの気配を感じたのです。」

「以前大聖女に会った時もそのようなことを言っていたね。リズはどう?」

「はい。実は私も同様です。今回は注意して気配を探っていましたから、間違いはないかと。大聖堂の建物の中に、魔物がいるのではないかと。」


「強いってこと?」


「……おそらく。いや、わからないというほうが正確かもしれませんな。不明瞭な報告で申し訳ないのですが、殿下に言いたいのは、神聖教には気をつけたほうが良いかもしれない、ということです。」

「はぁ。パーセル公爵邸のようになるのはもう勘弁してほしいわね。」


 リズは頭を抱えている。


「二人が感じているものが何かはわからないが、あまり歓迎できるものではないだろう。それに、大聖女の件も気になる。」

「そうっすね。大聖女様はどのようなお顔をされているのか、一目見てみたいっス。」

「……顔の話をしているのではないんだけど。とにかく、次の一手は決まった。サイラス、こっそり大聖女に会いに行ってくれるかな」

「そうっスね、やっぱり一度会ってみないと……えっ!?」


 サイラスは食べかけのパンをぽろりと落とした。


「奇跡の癒しのため、大聖女はブリストン大聖堂にいるだろう。主教たちに気づかれないよう、大聖女と二人だけで会話するんだ。」


 ウィルは続ける。


「主教たちは何かを隠している。大聖女と話せば、何か手がかりが掴めるかもしれない。今日の主教たちとの会話を大聖女にしてみてくれるかな。納税のこと、奇跡の癒しのこと。あと追加で、リズとアルフレッドが感じた何かの気配について。」


 だが、珍しくサイラスは嫌そうな表情だ。


「でも殿下、リズ姉さんやアルフレッドの旦那が嫌な気配を感じたんスよね?……それって何かやべーやつと出会っちまうんじゃ??」

「この中で潜入に一番長けているのはサイラスだ。それに、危険があればすぐ逃げ出していいよ。スピードも我々の中では一番だからな。大聖女様に会いたいんだよね?」

「そう言いましたけど……はい。」


 こうしてサイラスは別行動を取り、ウィル、リズ、アルフレッドはしばらく宿で待機することになった。


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