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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
聖女救済編 <Save the Saint>
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2.ブリストン聖教都市

 パーセル公爵領の一件のあと、デューン第一皇子から届いた手紙によって、ウィルたち一行は帝都からの遠征を延長することとなった。デューン王子の手紙に書いてあった、とある指令のせいだ。


 指令の内容は、パーセル公爵領と同様、近年納税額が低下しているブリストン聖教都市への訪問だ。ブリストン聖教都市は、パーセル公爵領と領地を接する大都市で、その名の通り神聖教という宗教によって統治されている。

 通常、帝国の領土は爵位を持った貴族によって各地が治められている一方、この都市は大聖女を頂点とした聖職者たちによって統治が行われている。一応帝国ということにはなっているが、過去に帝国が領土を拡大する中で、強固な抵抗にあったため、特別な自治を与えたという歴史がある。


 今でも都市に住むほとんどの市民は敬虔な神聖教徒であり、その頂点である大聖女は並の貴族たちよりもはるかに市民とのつながりは深い。

 一方、神聖教も教義に反しない限りは帝国中央の指示には従順で、これまでは納税も問題なく行われていた。しかしパーセル公爵領と同じく、ここ数年で納税額が低下の一途をたどっており、何かきな臭さをデューン第一皇子も感じ取っているのだろう。


「それで?私がまたメイドの格好をしなければいけない理由を教えていただけますか?殿下?」


 ウィル達一行はデューン第一皇子の指令を受け、すぐさまブリストン聖教都市へと出発した。数週間程度の旅を経て、先ほど到着したところだ。リズはパーセル公爵領中心街へ入った時と同じく、メイドの格好をしている。この前より心なしか服もこなれているようだ。


「いやぁ、リズ姉さんはメイド服もよく似合うんスね……あ痛っ!?」


 パーセル公爵との会見の時と違うのは、あれからウィル達についてきたサイラスもいるということだ。人懐っこい性格をしているせいか、すぐに3人と打ち解けて、冗談もかわせるようになっている。もしかすると本人はいたって真面目にリズをほめたのかもしれないが、迷惑でしかないリズに殴られて頭をさすっている。


「ともかくリズ殿のおかげで、今回は商人として街へ入れましたな」


 そういったのはアルフレッドだ。今回は関所を通るときに、正体を明かすことはしなかった。中心街で商人としての身分証を無理やり作らせて、帝都ではなくパーセル公の印章を押してある。前回の反省を生かして、ウィルもまずは聖教都市内を平民として回ってみようと考えていた。


「とにかく、まずは聖教会への巡礼かな。」


 この都市も人の流れは活発で、その結果商売や文化的な交流も盛んにおこなわれている。中でも都市中央に位置する聖教会は、神聖教徒以外にも開放されているため、観光地としても大変な人気である。神聖教徒はもちろん、きらびやかな教会内の装飾を見学に、周辺の領地や東方王国からもはるばるやってくる者までいる。


聖教会から放射状に伸びているいくつもの通りのうち一つを、四人は進む。行き交う人々の雰囲気もパーセル公爵領とは打って変わって明るく、多くの人が神聖教のシンボルである太陽をあしらったペンダントを首から下げて歩いている。

 ウィルだけでなくリズや、アルフレッド、サイラスもきょろきょろと物珍しそうに周囲を見回していた。


「……ん?」


 と、サイラスは人影に気づいて前に出る。さすがは元盗賊というべきか、トントン、と軽い足さばきで走ってゆくと、脇道に入っていった。


「おねーさん、大丈夫スか?」


 脇道には、うずくまっている女性と、それを心配そうに見つめる5歳くらいの男の子がいた。親子だろうか?


「うぅ……」


 女性は返事も難しいほど苦しい様子だ。男の子もおろおろとするばかり。


「お母さんの、病気の具合が悪くなっちゃったの……。今から聖女様に病気を治してもらおうと思っていたのに……」


男の子は今にも泣きそうだ。リズが優しく話しかける。


「坊や、名前は?私はリゾルテ。リズって呼んでね。」

「……ティム。」

「じゃぁティム。私たちがお母さんを聖女様のところへ連れて行ってあげる。」


 なるほど、とウィルは感心した。親子を連れて行く、という形なら自然と教会に入ることができる。どうもこの親子は聖女様と会う方法を知っているらしいし、こちらの身分を隠した状態で神聖教のトップとも言える聖女とコンタクトを取れるのは嬉しい。


「本当?」

「本当よ。じゃぁサイラス。こちらの方をおぶってあげて。」

「えっ?俺っスか?アルフレッドの旦那の方が力あるじゃないですか……」


 サイラスは自分から首を突っ込んでおいて、力仕事は他人任せのようだ。まさか子供がいると知ってやる気がなくなったのではないだろうな。


「しょうがありませんな。ではご婦人、失礼いたします。」

「あ……ありがとうございます。」


 母親は話すこともやっと、と言った感じだが、アルフレッドは丁寧に手を貸し、器用におぶった。さすがはアルフレッド。

ウィルもリズもサイラスには冷ややかな目線を向けている。サイラスは気まずそうに目を逸らした。


「じゃぁティム、私と手を繋いでいきましょう。」


 リズは優しく男の子に話しかける。


「うん。」


 母親を教会まで連れて行ってもらえるということで、男の子も少し安心したようだ。


「そういえば私たち、聖女様の教会がどこにあるかわからないの。道案内してくれる?」

「うん、わかった!こっちだよ!」


男の子に案内されて、一行は聖女がいるという教会に向かうのだった。


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