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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
帝国防衛編 <Last Battle>
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7.大陸北部、数十万の魔物の軍勢に挑む二人

 荒涼とした平原を歩く、二人の影が見える。


 大陸北部の平原は、気候が寒冷なため背の高い木々は少ない。寒々とした風が二人を撫でるように通っていく。

 ざっ、ざっ、と規則正しい足音がしばらく続いている。無言のユーベルに耐えかねたのか、サイラスが口を開いた。


「魔物は……まだ見えないっスね」


「そうですね」


「……」


 ユーベルはそれっきり口を開かない。


 そういえばユーベルと二人で行動することが多いな、とサイラスは考えた。ウィル、アルフレッド、リズの三人は帝都にいる間はなかなか会えないことが多い。元々彼らは貴族位なのだし、ウィルに至っては皇族だ。帝都での彼らは他の貴族と何やら用事があるようだった。


 そういう意味では、今までのユーベルはもう少し饒舌だった気がするな、とサイラスは思い出した。ユーベルはなるべく人目を避けて暮らしたいのだ。ウィルの頼みとはいえ、やはり力を使うことをためらっているのかもしれない。本人は「生物的な意味で」人間ではないことを、気にしているようだから。


「あっ。見えたかもしれないッス」


 サイラスは目を細める。


 遥か遠く。地平線の向こうに、うっすらと土煙が見えた。左右に視線を動かすと、それは見渡す限り続いている。魔物が黒い筋のように、地平線に沿って大地を埋め尽くしている。

 魔界の扉から湧き出した無数の、そして大小さまざまな魔物たちが、我先にとこちらへ向かってきているのだ。


「本当に一人で大丈夫なんスか?」


「大丈夫ですよ。サイラス様」


 ユーベルは淡々と答える。


 まだ魔物ははるか先にいる。魔物の群れは三方向から帝都に向かっているとデューン皇子は言っていた。すなわち、デューン皇子が食い止めようとしている南西からの魔物、オクタス皇子が相対する大陸中央からの魔物、そしてサイラス・ユーベルが向かう北のルートを進んでくる魔物だ。


 魔界の扉のある南部から、一度北上してから帝都へと進んでいるため、ほかの魔物よりも移動には時間がかかっているらしい。戦闘になるまではもうしばらく時間に余裕がありそうだ。ユーベルがある程度魔物を足止めしていれば、そのうち二人の皇子が駆けつけてくれる手はずになっている。


「サイラス様。私、不安なのです」


「なんスか?」


 珍しく、ユーベルからサイラスに話しかけてきた。


「この件が解決したら……向こうからやってくる魔物たちを撃退したら、ですが。また、皆さんと一緒に旅ができるでしょうか」


「ん?えぇ、もちろんッス。ユーベルさんも、まだ回ったことのない教会がたくさんあるんじゃないスか?神官なんだから、お祈りしないとですよね」


 サイラスは軽く答える。ユーベルの不安――皆で旅ができるかどうかについては、何も疑問はない。殿下に言えば一緒に海だって渡ってくれるのではないだろうか。今サイラスが不安なことは、「向こうからやってくる魔物たちを撃退したら」の部分だ。

 だんだんと魔物が近づいてきて、地平線を真っ黒に塗りつぶす範囲が広くなってきている。もうもうと上がる土煙も、はっきり見えるようになった。


「……サイラス様。あの魔物たちを撃退しても、私は変わらずに皆さんと旅ができるでしょうか?ウィルフォード様が私のことを配慮してくださっていることはわかっているのですが。

 ウィルフォード様のご兄弟が、あるいはほかの誰かが、私の力に興味を持ってしまったら……」


「大丈夫っス!!」


 ユーベルは不安が大きくなってきたのか、歩みが段々と遅くなる。サイラスはなるべく明るく声を出した。力を使うことを迷っているようだ。でもユーベルが心配している点は、やっぱり杞憂だ。


「ウィル殿下が、ユーベルさんのことは秘密にしてくれているっスから。それに」


 立ち止まったユーベルの正面にサイラスは回り込んだ。不安などないんだと、ユーベルにちゃんと伝わるように。


「あの魔物たちの対処は、俺がやったってことにするらしいッスよ?ユーベルさんは回復のために同行させるんだって、殿下が言いまわっていたっスから」


「!!……そうですか」


 フード越しにみたユーベルは、ふっと微笑んだようにみえた。


 地面を通して、魔物たちの行軍の気配が伝わってくる。無数の足音が地鳴りとなっている。サイラスが振り返ると、サイズの大きな魔物は姿が見えるくらいまで近づいてきている。


「それよりユーベルさん。あんな大量の魔物、さすがにユーベルさんでもきついんじゃ……」


「大丈夫ですよ。サイラス様」


 不安になったサイラスがもう一度訪ねると、ユーベルは大丈夫と即答する。さっきと、同じ答えが返ってきた。


「では、そろそろ始めます。サイラス様は少し後ろに下がっていてください」




サイラスが距離を取ったのを確認すると、ユーベルは少し体に力を込めた。


「んっ……」


 するすると、あの触手がユーベルの法衣の中から這い出して来る。あの法衣の中はどうなっているのだろう、とサイラスはいつも疑問に思っているが、さすがに聞いてみる勇気はない。

 黒く太陽の光を反射する触手が次々と生み出される。ユーベルは祈るように手を組むと、触手はさらにスピードを増して増えていく。


 魔物の行軍はもはやすぐそこまで近づいている。ギャアギャアと不快な叫び声が大きくなってきた。だが、サイラスには魔物の姿は見えず、魔物の声が聞こえるのみだ。ユーベルから伸びる無数の触手で、目の前が覆われてしまっているからだ。


「はっ!」


 ユーベルの掛け声とともに、触手は前方へと恐ろしいスピードで進み始める。触手に巻き込まれた周囲の空気に引っ張られて、サイラスの背中から風が吹きつけた。


 ドォォォン!


 無数の触手と無数の魔物が激突する。……いや、「激突した」のではなく、魔物の群れは、無数の触手に正面から串刺しになっていた。


「たしかに、数が多いですね」


 初撃で相当数の魔物が触手の餌食になったのだろうが、それをすり抜けた一部の魔物はこちらへと向かってくる。


「ユーベルさん!まだ魔物が!」


「はい、お任せください」


 ユーベルがそういうと、伸びきった触手の途中から、枝葉のごとく触手が伸びて近くの魔物へと突き刺さる。空中を飛んでいた魔物は空に、地を這う魔物は地面に縫い留められた。

 その様子はまるで黒い荊のようだ。


「……」


 ほんの僅かな時間に、地鳴りは消え、怖気のする叫び声は全く聞こえなくなった。ユーベルから伸びた触手だけが時間が逆さまに進んでいるかのように、するすると戻った。


「終わりました」


 そういうとユーベルはサイラスのほうを向いた。


「えっ!?お、終わった?ええええええ??」


 確かに、周囲に魔物の気配は感じない。あるのは魔物の死体、死体、死体。


「ユーベルさん、まだ先のほうに魔物が残っていたりは……」


「遠くまで、念入りに”対処”しておきましたから大丈夫です。

 サイラス様の功績になるのでしたら、躊躇する必要はありませんでしたね。ふふ」


 今度ははっきりと、ユーベルが笑っているのが分かる。


「いや、こんなこと、俺にはできないっスよ……?どうすんの、これ……?」


「サイラス様の活躍は、私がしっかり証言いたしますから」


「それにしても、こんな一瞬ではいくら何でも……」


「ではしばらく時間をつぶして……いえ、魔物を殲滅したサイラス様はお疲れでしょうから、体力の回復を待ってウィルフォード様の加勢に向かいましょう」


「ユーベルさん、聞いてます……?」


 サイラスとユーベルはしばらくしてから、ウィルがいるはずの南部の森、魔界の扉へと向かった。




 後日、北部の状況を確認した帝国兵からの報告書には、穴の開いた魔物の死体が数十万を数えたと記載されていた。そしてそのどれもが、心臓、頭部など、急所を一突きされていたという。



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