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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
帝国防衛編 <Last Battle>
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5.書庫の妖精

 バタン!


 勢いよく扉が開く。部屋の中に流れ込んだ風が、長年かけて積もったホコリを舞い上がらせる。入り口から入ってきた外の光が、書庫の奥を照らした。

 また誰か来たのだろうか。数百年の間、一人もこの部屋に入るものはいなかったというのに。今日だけで二回目だ。


「今度は使い魔が居ない奴だと良いんだが」


 そう呟いた妖精は、入り口に立つ人影をみて、がっくりとうなだれた。

 なんだよ。さっき入ってきた皇族じゃないか。


「はぁはぁ。す、すみません!」


「またお前か。小僧」


 使い魔とすでに契約済みの皇族――たしか、ウィルフォードと言う名だった――は、走ってきたのか息を切らせて話しかけてきた。


「魔人を倒すために、協力してもらえませんか!?」


 何を言うかと思えば。


「だから、そのためには使い魔のいない皇族を連れてこいっていったろ?

 魔人を倒すには、十分な魔力を持った主人が必要なんだ」


 さっきだってそういった気がするんだが。あ、理由までは言ってなかったか。いずれにしろ、俺様の答えは変わらない。使い魔のいない皇族を連れてこい、だ。


「……いません」


 ん?なんだって?


「使い魔を持っていない皇族は、もういないんです!」


「じゃぁ、どうしようもねぇな!」


「そんな……」


 ウィルフォードは呆然としているようだった。


「残念だが、次の世代が生まれるまで待ってるしかないな」


「そんなに待てません!魔界の扉からどんどん魔物が湧き出しているようで……」



 魔界の扉が開いて、魔物が本格的に沸き始めたんだろうことは、こいつの話から理解している。だが、俺様もどうしようもないんだ。だって……


「俺様は今、誰の使い魔でもないんだ。要は魔力の供給元が居ないのさ。残った魔力じゃ魔人を攻撃するには不十分なんだ」


 そりゃぁ、アイツの使い魔だったころの俺様は、人間ごときが逆立ちしたって扱えないような膨大な魔力を持っていた。

 でもアイツとのつながりを封印されて、魔力の源を失って、数百年以上経っている。持っている魔力量で比べたら残りカスみたいなもんだ。



 少し考え込んでいたウィルフォードは、今度はこんなことを言い出した。


「では、魔人を倒す方法を、僕に教えてください」


 まぁ、それもわからんではない。俺様だって、そんなことは何百年も前に思いついたさ。そう、すでに何度も失敗している。


「無理なんだよ。もう何人にも教えてみたさ。でも、どんな天才だって習得できる奴はいなかった。俺様が発明した、魔人を倒す魔法はな」


「そんな。どうしてですか……?」


 魔人を倒す魔法。そう、魔法だ。魔力があれば誰だって魔法は使えるはずだ。でもこの魔法はちょっと普通と違うんだ。魔法が効かない魔人を倒すための、特注品だからな。


「で、でも」


 ウィルフォードは食い下がる。


「僕には才能などありませんが……。それでも、ダメもとで良いので教えてください!」


「やめとけよ。俺様だって意地悪したくて言っている訳じゃねーぞ?」


 過去にだってたくさんいたぜ。お前のような生真面目な奴が。俺は気前よく、教えを請いに来た奴には誰にだって教えてきた。

 でも、誰も習得はできなかったんだ。もうあきらめちまってるんだよ、俺様は。


「それでも……」


「くどいぞ!?」


 いい加減、イライラした俺様はウィルフォードに向かって魔法を放った。極小の、魔人を倒す魔法をだ。被弾したところで大したことはない。数日寝込むくらいだろ。

 でも、今から思うと、何かを少し期待していたのかもしれないな。


「ぐっ!?しょ、障壁っ!」


 俺様の攻撃の意思を感じとったウィルフォードは、自分の周囲に何やら魔法的な領域を展開したように見えた。こいつの固有魔法か?


 バチバチバチッ!!


 俺様の魔法は、ウィルフォードの”障壁”とやらに触れると、火花を散らして飛び散った。


「相殺した……!?」


 初めてだ。この魔法を、正面から防いだやつは。魔法の効かない魔人へダメージを与える、特別な魔法をだ。これは、もしかしたら。


「……気が変わった」


「へっ!?」


「小僧、ウィルフォードだっけ?俺様を魔人のところに連れて行けよ。俺様は自由に動けないからな。そうしたら道中、魔人を倒す魔法を教えてやる。」



 俺様はピンときたね。もしかしたら、ウィルフォードが居れば使い魔にならなくても魔法を発動できるかもしれない。


 そうすれば、やっとあの魔人に引導を渡すことができる。


 アイツから託された願いを、果たすことができる。





 ウィルが書庫から出ると、宮殿内はさらに混乱が進んでいた。断続的に聞こえてくる爆発音、時折聞こえる魔物の雄叫び。リズはシェリルの元へたどり着いただろうか?


「おい、あまり揺らすな」


「す、すみません」


 周囲に気が散って、ウィルは手に持っていたモノから意識が離れてしまっていたようだ。書庫から持ち出した正方形の物体……に閉じ込められた、妖精だ。

 妖精は透明な正方形の箱の中に入っている。箱の中では自由に動けるようだったが、要するに閉じ込められているのだ。


 妖精が言うには、これは初代皇帝がかけた、封印の魔法なのだと言う。あらゆるものを封印する、初代の固有魔法。どれほどの魔力を持っていたのかわからないが、数百年過ぎても、封印の効力は健在だ。


「宮殿まで魔物が押し寄せているってことは、大陸中に魔物が散らばっているんじゃねーのか?」


 箱の中で妖精はふわふわと浮きながら、腕を組んでいる。偉そうだ。初代皇帝にもこんな尊大な態度を取っていたのだろうか?


「そのように報告が入っています。ですので、一刻も早く、魔界の扉をなんとかしないと」


「そうだな。早く俺様を連れて行くんだな。道中で魔法が使えるように鍛えてやるからよ!」


 妖精は魔人の元へ連れて行く代わりに、ウィルに魔神を倒す魔法を教えてくれるのだという。俺様のことは師匠と呼べ!と妖精は言っていた。


 妖精――師匠をなるべく揺らさないよう、大切に持ちながら先を急ぐと、向こうからリズがやってきた。一人だ。


「ウィル!」


「リズ!無事だった?シェリルは?」


「えぇ、もちろん。シェリル女王も無事よ」


 リズと合流したウィルは、お互いの状況を共有する。

 リズはシェリルや他の貴族家の令嬢たちを無事見つけられたらしい。令嬢たちに犠牲が出る前に保護できたのだ。令嬢たちはデューン皇子と皇帝の護衛騎士の元へ送り届けたのだと言う。護衛騎士が魔物から効率的に守ることができるよう、貴族たちは一箇所に集められているのだという。


「だから、シェリル女王も心配ないわ」


「よかった。ありがとう、リズ」


「どういたしまして。それで、その、手に持っている物は……?」


 リズも、ウィルが手に持っている透明な箱――に入った妖精が気になるようだ。


「うん、この方は初代皇帝の……」


「あーーっ!お主は!!陛下の使い魔ではないか!?」


 ウィルが師匠を紹介しようとしたとき、叫び声をあげたのはリズの左手だった。正確には、ヴァルキリーの意思を宿した、ヴァルキリーの小手だ。


「しばらく外に出ないうちに、小手も喋るようになったのか?……よく見るとヴァルキリーの装備に似てるな」


「”似ている”んじゃない!わしはヴァルキリーの本物の小手じゃぞ?キサマもしっておるじゃろうに!」


「俺様が知っているヴァルキリーの小手は、しゃべらないが?」


「くっ。相変わらず口が悪いのぅ……」


 口をはさむ間もなく、妖精と小手が言い合いをしている。ウィルとリズは二人とも困惑した表情で顔を見合わせた。


「と、とにかく!シェリルが無事でよかった」


 まだ妖精と小手の言い合いが続いていたが、終わりはなさそうだ。ウィルはリズに話しかけた。


「えぇ。シェリルからウィルに伝言よ。『ご無事で』と」


 シェリルから渡されたポーションは私が持っていた方がいいだろう、とリズは考えた。ウィルに渡してしまったら、魔人の元へ行く前に使い果たしてしまうかもしれない。


「うん、伝言ありがとう」


 ウィルがそう言うと、今度は中庭に上空からの風が吹き付けてきた。風は一定のリズムで強弱を繰り返す。これは……


「ルクス!」


 ウィルは廊下から中庭に駆け出す。予想通り、ルクスが降りてきたところだった。


「ルクス!周辺の様子は!?」


 ウィルとリズはルクスの元へ駆け寄る。


「これ、小僧の使い魔か?ドラゴンを従えるとは……お前って見かけによらず凄いのか?」


 妖精はぶつぶつと呟いている。ルクスは妖精のことは特に気にするでもなく、ウィルの問いに答える。


「モンスターの数が多い。それよりも問題は、私では入り組んだ帝都に散らばった魔物を退治し切れないことだ。平野にでも集まっていれば、簡単なのだが」


 ルクスの武器は強力なブレスだ。だが強力すぎる。帝都に向けて放てば、魔物は消し去れるだろうが、建物も道連れになってしまう。

 爪や牙で魔物を狩ることはもちろん可能だが、一体一体仕留めていてはらちがあかない。


「やはり、元凶を叩くべきだ。魔界の扉を」


「そうだ小僧!はやく俺様を連れていけ!」


「護衛はわしに任せるんじゃ!のうリズ!」


「なんだか賑やかになったわね……で、どうするの?ウィル」


 ウィルが答えようとしたところで、今度はオクタスがやってきた。


「ウィル。ここにいたか」


「兄上!」


 オクタスはウィルが手に持っている透明な箱に入った妖精に視線を移動させたが、すぐに戻した。今はそれどころではないのかもしれない。


「宮殿内は護衛騎士たちが掌握しつつある。次は帝都の混乱を抑える」


「しかし兄上!どうやって……」


 ルクスが手を焼いているように、散り散りになって動き回る魔物たちを相手にするには、手が足りない。だがオクタスは落ち着いている。


「問題ない。皇帝陛下が出られる」


 オクタスがそう言った瞬間、遠くから落雷の音が聞こえてきた。


「始まったようだな」


「これは、父上の……?」


「そう。陛下の固有魔法。雷魔法だ。帝都を動き回る魔物は、全て陛下の雷に打たれるだろう。近いうちに、帝都内は安全になるはずだ」


 乾いた破裂音――落雷の音が連続して聞こえてくる。魔物一体一体に、逃げるまもなく電撃がお見舞いされているのだろう。



「我々に必要なことは、次の一手を打つことだ」



 オクタスは続ける。


「デューン兄の部屋へ向かうぞ」



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