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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
帝国防衛編 <Last Battle>
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4.想いを託すシェリル

「何だったんだ、アレは……?」


 ウィルは書庫から出て、自室に戻ろうとしていた。透明な四角い箱に入った妖精。あんなのが宮殿の書庫にいるなんて、今まで聞いたこともなかった。

 あのホコリまみれの様子を見るに、そもそも父上や兄上たちも入ったことのない部屋なのだろうが。


 使い魔になりたがっているようだったが、妖精の希望にはこたえられない。今、帝国にいる皇族たちはすでに皆使い魔を持っているからだ。

 使い魔にできないと答えた時のあの剣幕では、交渉の余地はなさそうだ。


「殿下。ウィルフォード殿下!こちらにいらっしゃいましたか!」


 妖精のことを考えながら歩いていると、ウィルは前から走ってきた兵士に呼び止められた。宮殿内を走り回っていたのだろうか?はぁはぁと息を切らして辛そうだ。

 肩で息をしているところ申し訳ないが何の用か聞いてみると、会議室へ皇族や主要貴族を呼び集めているらしい。

 なんでも、魔物の大群が大陸全土に発生しているらしいのだ。ウィルは急いで会議室へと向かった。





「……このように、大陸南部を起点として発生したモンスターの大群は、なんの統制もなく大陸中へ散らばっているようだとの報告が入っています」


 ウィルが会議室に入ると、すでに状況報告が始まっていた。

 帝国の上位貴族全員が着席できるほどの広い会議室には、もちろん皇族が座るための座席も用意されている。貴族たちとは区別のため、座席はどの貴族の座席よりも高い位置に作られている。


 ウィルはすでに座っていた兄たちの隣へ座った。


「ウィル、どこに行っていたの?遅かったじゃない」


 小さな声で話しかけてきたのはフェブリアだ。あと座っているのはオクタスだ。デューンはまだ会議に参加できる状態ではない。


「ちょっと書庫に」


「何か手がかりは見つかったか?」


「はい。書庫の奥に鍵のかかった部屋が……」



 ズゥゥゥゥン……



 ウィルが途中まで話したところで、突然宮殿に衝撃が走る。何か巨大なものが建物にぶつかったような……

 会議室の扉が勢いよく開き、走りこんできた兵士が叫ぶ。


「大変です!宮殿に魔物の群れが!皆さまは誘導に従ってお逃げください!!」


 騒然とする部屋の中でオクタスが立ち上がる。


「打って出る必要があるな」


「私は無力ですから、避難することにしましょう。ウルムガルド。貴族たちの避難の指揮を執りなさい」


「承知いたしました」


 フェブリアは傍に置いていた護衛騎士、ウルムガルドに指示する。アルフレッドの兄であり、護衛騎士最強と言われている彼が陣頭指揮をとるのだ。浮足立った貴族たちも落ち着きを取り戻すだろう。


「では、僕は」


「シェリル女王が来ているのでしょう?安全を確保しなくていいの?」


「魔人を打ち滅ぼす手がかりがあるのなら、それを手に入れるべきだ」


 フェブリアとオクタスがそれぞれ意見を述べる。どちらも重要で、急がなければならない。とても一人では対処できない。……そう。ウィル一人だけならば。


「リズ!」


 ウィルは控えていたリズに指示を飛ばす。ウィルの最も信頼する護衛だ。


「僕の部屋にシェリルがいるはずだ。避難させてくれ!僕は書庫によってから向かうから!」


「わかったわ!」


 リズはシェリルのいる部屋へ、ウィルは書庫に向かって走り出した。







ガタガタガタ……。


ガタン!


「ひぃっ!!」


 鍵をかけた扉がきしむ。おそらく体の大きな魔物が体当たりでもしているのだろう。断続的に扉に衝撃が走り、そのたびに令嬢たちからは声にならない悲鳴が上がる。


「動ける方は扉を押さえて!今のうちに力のある方は調度品を扉の前に積み上げてください!」


 凛としたよく通る声でなんとか指揮をとろうとしているのは、シェリルだ。宮殿内が騒がしいため、外に出てきたところを逃げ惑う令嬢たちと出会った。令嬢たちは恐慌状態で、一緒に部屋に逃げ込むので精いっぱいだった。


 部屋にいるほとんどの令嬢たちは腰が抜けてへたり込んでしまっている。何人か、まだ動ける者たちがかろうじてシェリルの指示で動き出した。

 無理もない、とシェリルは思う。ここにいる者たちは高位貴族の娘がほとんどだ。魔物の姿すら初めて見たのだろう。恐怖に足がすくむ気持ちはわかる。


「しっかりしてください!すぐに護衛が助けに来るはずです。だから時間を稼がねば!」


 シェリルの脳裏にリズやアルフレッドが浮かぶ。そうだ。帝国の護衛騎士が一人でもここにたどり着けば、外にいる魔物程度であれば何の問題ないだろう。

 シェリルは今にも開いてしまいそうな扉を押さえながら、次の一手を考える。扉の鍵はねじ曲がり、いくつかの蝶番ははじけ飛んでしまった。近いうちに扉がダメになることを考え、行動に移さねば。


 シェリルが部屋を見渡すと、手ごろな燭台が目に入った。いざとなればあれを使おう。



 ガタン!ミシミシッ……!!



 ついに扉が最期の悲鳴をあげる。限界だ。


「扉が破壊されます!窓際へ逃げて!」


 シェリルが叫ぶと同時に、扉が破壊される。シェリルはその勢いで数メートル吹き飛ばされた。体にけがはない。それに、運よく燭台の下へと飛ばされたようだ。


「グルル……」


 オークだろうか。大柄な人間よりも一回り大きな体躯をした魔物が部屋に足を踏み入れる。暴虐の限りを尽くせる相手が何人もいて満足なのか、オークがニヤニヤと笑っているように見えた。


「さて、ここからどれだけ持つやら……」


 そう呟くと、シェリル燭台を持ち上げ、じりじりとオークと令嬢たちの間に位置取る。燭台をオークに向けると、火が怖いのか多少ひるんだようだった。


「グォォォ!」


「キャァァァァ!!」


 オークが醜い叫び声をあげると、シェリルの後ろで座り込んでしまっていた令嬢が恐怖の叫び声をあげる。叫び声の応酬だ。

 オークが持っていたこん棒を振り回す。


「あっ」


 もともと武術の心得がないシェリルは反応できるわけもなく、燭台の火はろうそくごとこん棒で打ち消されてしまった。


「グルル……」


 また、オークがニヤリと笑ったように見える。警戒していた相手の武器が無力化されたのだ。自分が圧倒的優位に立ったことがわかるのだろう。

 オークは大きく口を開けた。口内は不吉な赤い色をしている。これからあの口で噛みつかれるかもしれないと考えると、さすがのシェリルも身震いした。


 近づいてきたオークに、シェリルは燭台を突き立てる。だが非力な少女ではオークの腹を傷つけることすらできない。オークは燭台を取り上げると、横にほうり投げてしまった。


「ウィル……」


 オークはこん棒を振り下ろす。待望の一人目の犠牲者だ。後ろにいた令嬢たちも、もうだめだと目をそらす。



 ガシャァァァン!


「シェリル!!」


 その瞬間。

 窓を割って飛び込んできた赤い髪の騎士は、そのまま右手に持っていた槍を投擲した。一瞬でオークの頭部に到達した槍は、勢いを減じることなく後ろの壊れた扉に突き刺さった。オークは頭と、それに引きずられた体ごと扉に縫い付けられたかのようだ。


「あなたは!」


 シェリルが振り向いたとき、そこにいたのはリズだった。


「大丈夫!?殿下の命令であなたを保護しに来たわ!」


「リズ卿!か、感謝します……」


 ウィルが護衛騎士を向かわせてくれたのだ。死を覚悟していたシェリルは、さすがに力が抜けた。これで助かる。


「いいえ。お礼を言うのは私のほうよ」


「……?」


 リズの物言いに、どういうことかと首をかしげるシェリル。



「あなたに背中を押してもらえたおかげで、ウィルに気持ちを伝えることができたわ。だから……ありがとう」


 壊れた扉からは次々に魔物が入ってくるが、護衛騎士のリズにとっては取るに足らない相手のようで、皆一撃で始末している。それもシェリルと会話しながらだ。


「そうですか」


 リズ卿が思いを伝えた。ウィルがどう返したのかはわからないが、それでも変わらず自分のことも大切に思ってくれているだろうことは伝わってきた。数少ない護衛を自分に回してくれたのだから。


「やっぱり、あなたがうらやましい。ウィルと、隣で戦うことのできる貴女が」


「お互い戦場が違うじゃない?私は戦いで。シェリルは政治で。それに」


 リズは燭台に視線を向けた。


「それも結構、サマになっていたわ」


「ふふふ」


 シェリルとリズは、微笑みあった。




****




「ルクスが周囲を警戒していたはずなのですが。それすら間に合わないほどの軍勢なのですね」


「えぇ」


 リズの先導で、シェリルを含む部屋に立てこもっていた令嬢たちはほかの護衛騎士が陣を敷いている場所へと合流できた。

 道中のリズは、以前よりはるかに強くなっていた。右手の槍はあらゆる敵を薙ぎ払い、左手の白銀の小手からはウィルに匹敵するほどの魔法攻撃が放たれる。


 宮殿までたどり着いている魔物は移動速度が速い、つまりは小柄な魔物がほとんどだった。それもあってリズが槍を振るうたびに、周囲には魔物の死体の山がわんさかと出来上がった。


「リズ卿、あの」


「リズでいいわよ」


「ではリズ。これを」


 そういってシェリルが取り出したのは、マナポーションだ。しかしこれは並のポーションとは比べ物にならないほどの魔力が込められている。ほとんどマナポーションをのまないリズにすら、最高級の逸品であることがわかる。


「役に立つかわかりませんが、ウィルに渡してあげてください。あの人は、無茶して魔力を使い果たしてしまいますから」


「ありがたく受け取っておくわ」


 リズはポーションを受け取る。


「ウィルにご無事で、と伝えてください。それと……いい返事があると良いですね」


 返事。リズがウィルに伝えた想いのことだ。


「そんなことを言っていいのかしら?あなたの国の王配でしょう?」


「もちろんです。前にも言いましたが、ウィルには帝国での支えが必要です。もちろん、リンドグレーン国内では、私の夫に手出しするものは許しませんが?」


 リズとシェリルはお互いを真正面から見つめた。この戦いが終われば、お互いはウィルをめぐるライバルではなく、ウィルを支える仲間になるだろう。


「さ、もう行ってください。気を付けて」


 シェリルの言葉を受けて、リズはウィルの下へ走り出した。


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