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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
帝国防衛編 <Last Battle>
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1.魔人

「兄上の状態は?」


 帝都、エスタリア宮殿。ウィルは瀕死のデューンを連れ帰り、治療を指示した。

 回復魔法が使える魔術師が集められ、交代でデューンの治療に当たっている。


「はっ。引き続き複数の回復術師による治療を続けております。

 いまだ意識はお戻りにならないものの、峠は越したのではないかと」


 治療にはユーベルも参加している。帝都までの道中でユーベルの回復の奇跡がなければ、デューンは命を落としていたかもしれない。


「そうか……」


 峠を越したと聞いて緊張の糸が切れたウィルは、近くの椅子にどっと座り込む。まさか兄上をここまで追い込む存在がいるとは。一体何者なのだろう?


「まずは一安心だな」


 そう言ったのはウィルの近くに座っていたオクタスだ。今、この部屋にはウィルとオクタスしかいない。

 オクタスは珍しく甲冑姿ではない。金色の豪華な刺繍で飾られた帝国皇族の正装に身を包んでいる。オクタスの甲冑はヴェンパーの腐食の魔法を受け、ボロボロになってしまったためだ。今は修理中と言うわけだ。

 第二皇子オクタスと帝国を裏切った第三皇子ヴェンパーの戦いは熾烈を極めた。オクタスの固有魔法である強化の魔法と、デューンやウィルの魔法を封じたスクロールを持ってしても、配下にいる多くの兵士を失ってしまった。だがその犠牲によって、オクタスはヴェンパーを討ち取ることに成功したのだ。



「まだ、一番の問題が残っています」


 そう、ウィルは返した。


 ヴェンパー討伐によって、まとめ役を失った南部の真エスタリア帝国は統率が取れない状態にある。南部の貴族たちは続々と帝国軍に投降を始めていた。

 また、南部の貴族が帝国に恭順を示す理由はもう一つあった。……魔界の扉だ。


 デューンの負傷による撤退以降、魔界の扉からおびただしい数の魔物が湧き出してきている。まるで穀物を食い荒らすイナゴの群れのように、周囲の町や村を破壊し尽くしながら、魔物は勢力圏を広げていた。


「そうだな」


 オクタスはうなづく。彼は軍事に関しては一流だ。今の状況を最も正確に把握している一人とも言えるだろう。


「魔物が湧き出す大元を断たねば。だがそれにはデューンにあれほど痛手を負わせた存在と対峙せねばなるまい」


 デューンが勝てなかった相手に、正直オクタスは勝てるイメージが沸かない。長男であるデューンは、兄弟の中では一番魔法についての実力はあったはずだ。余程実力差があったか、あるいは……


「何かデューンでは勝てないカラクリがあるのか?」


 そうオクタスがつぶやいたところで、突然部屋に兵士が走り込んできた。


「オクタス殿下、ウィルフォード殿下。デューン殿下が意識を取り戻しました!」


 がたっ、と音をたててウィルが立ち上がる。オクタスもほぼ同時に立ち上がっていた。




****




「心配を……かけたね……」


 まだつらそうだが、回復魔法の重ねがけで外傷はだいぶふさがっている。ベッドに横になりながら、デューンは弱々しい笑顔を見せた。


「デューン兄上……」


 傍に立つウィルが声を掛ける。兵士からの報告を受け、ウィルとオクタスは急いでデューンの元へと向かった。

 広いベッドの四方は護衛が立っていて、横では魔法使いが回復魔法をかけ続けている。話せるくらいまで回復はしたものの、やはりダメージは深刻だったようだ。


 ウィルの後ろにはリズとアルフレッド、サイラス、ユーベルがいる。ウィルは途中で声をかけ、この部屋に連れてきた。デューンを痛めつけたものの正体が何なのか、全員が聞いておくべきだと考えたからだ。

 オクタスは腕を組んで壁に寄りかかり、ウィルとデューンの様子を眺めている。


「まだ話すのもつらいとは思いますが、兄上。あそこで何があったのか、教えてください」


 ウィルが切り出す。全員の視線がデューンに集まる。


「僕は魔界の扉までたどり着いた。けれど一体だけ、とんでもなく強い魔物がいたんだ。あれは……魔人とでも言えばいいのか」


「魔人、ですか?」


「あぁ、人型をしていて、魔界の扉を守っているようだった」


「アルフレッド、人型の魔物に心当たりは?」


 ウィルが尋ねると、アルフレッドは首を振る。


「ありませんな。頭や足がいくつもある魔物なら、何度か見たことはありますが」


 デューンはまだつらいのか、少し休んでから、また話し始めた。


「魔人の攻撃はすさまじい。だが護衛騎士が居ればある程度耐えることはできるだろう。

 実際、僕も護衛騎士とイデアが盾になってくれたおかげで、ある程度は攻撃を凌ぐことはできた」


 デューンの使い魔イデアは主人をかばい、自らもボロボロの体で戻ってきた。今はデューンのベッドの近くで丸くなって休んでいる。主人の回復とともに、使い魔にも生気が戻ってきているように見える。



 だが、と言ってデューンは続ける。


「魔人には、魔法が効かないんだ。僕の固有魔法である氷結魔法も、通常の攻撃魔法も、ダメージを負っているようには見えなかった」


「……」


 なるほど、デューンの強力な氷結魔法が効果がないのであれば、そもそも戦いになるわけがない。


「本当に、魔法が効かないのだな?剣で両断すれば死ぬのか?」


 少し距離を置いて話を聞いていたオクタスが問う。


「物理的な攻撃も望み薄だ。イデアが腕をかみちぎったが、すぐに再生しているように見えた」


「では、どうすればいいというの……?」


 リズが怒りをあらわにする。切っても再生する、魔法も効かない、ではなすすべがないではないか。


「魔物でも、ちぎれた腕を再生するのはあまり聞かないっスね。……そうだ、逆にユーベルさんが癒しの奇跡を使ったら、打撃を与えられないっスかね?」


「望みは薄い気がいたします。サイラス様が首を刎ねてみてはどうでしょう?」


「それは……難しそうっていうか、ちょっと怖いっていうか……」


 ユーベルとサイラスも魔人とやらを倒す可能性について、話している。


「何か方法はあるはずだ。そうでなければ、初代皇帝が魔界の扉を封じることはできなかったはずだ」


 デューンは方法はあるはずだ、というが、ウィルには想像もつかない。おまけに自分が使えるのは障壁の魔法と、いくつかの通常魔法だ。兄ですら手も足も出ない魔人とやらに、何かできるとは思えない。

 無理だ、という表情を読み取ったのか、デューンはウィルとオクタスに第一皇子としての言葉を伝える。


「オクタス、ウィル。僕が満足に動けない今、二人が帝国を守らねばならない。

 宮殿の武器庫や書庫を探してみてくれ。

 建国時、初代皇帝が何か特別な武器や戦術を使ったのかもしれない」


 オクタスは、ふん、と言って部屋を出て行ってしまった。早速武器庫にでも行くのだろう。




 それなら自分は書庫に入ってみるか。ウィルは考えた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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