13.決意
「つまり、リズ様はあの初代ヴァルキリーと戦った、ということでしょうか?」
「まぁ、正確にはヴァルキリーの装備に宿った、残滓だけどね」
ユーベルが首をかしげるのも無理はない。リズから聞かされた話は、皇族であるウィルも知らない、突拍子もない話だった。
帝都の近くにあった立ち入り禁止区域がヴァルキリーの住んでいた城だったこと。これまで何度もヴァルキリーの装備を回収に向かったものの、誰もが失敗していたこと。乙女の戦斧を持ったリズが、ヴァルキリーの甲冑に勝ったこと。
「何とか勝ったには勝ったんだけど。ヴァルキリーの装備は粉々になっちゃった」
残念そうに肩を落とすリズに、明るい声で話しかけるモノがいる。
「なぁに、わしがおるじゃろ?」
……小手だ。どう見ても。
「それで?この小手は一体、何なんスか?」
「失礼な!今この者が説明したじゃろう?」
サイラスが小手を指さすと、まるで目が見えているかのように憤慨した。
「わしこそ、ヴァルキリーなんじゃよ!」
「…………?」
全員、いや小手だろう、と思いつつ、意思を持ってしゃべる装備など見たこともない。皆どう扱ってよいか迷っている。
「本人?がそういうから、そうなのかな、とも思うんだけど」
「そう言われてみれば、神聖な気を感じなくもないような気がしますわ」
「強者の思念は強いもの。それがヴァルキリーともなれば、装備品に意識が宿っても、不思議ではありませんな」
ウィル、ユーベル、アルフレッドは各々、目の前の不可思議な状況を受け入れようとしている。
「そうじゃろう。そうじゃろう。わしの魔法はつよいぞ?」
声をあげるたびに、小手がカチャカチャと勝手に震える。
「さっきの魔法は、ええと、あなたの」
「わしのことはヴァルキリーと呼んでよいぞ?皇帝の血をひく者よ」
「ヴァルキリーの力ということでしょうか?」
丁寧に尋ねるウィル。リズは自分の左手が主へ尊大な物言いをすることに気が咎めるようで、「失礼ね」などぶつぶつ言っている。
「そうじゃ。魔法は得意じゃぞ!わしの装備……この小手は魔力の伝導効率も収束力もピカイチでな。
最高の魔導杖と言っても差し支えない!あと体があれば大陸最強と言われた槍術もみせてやれたのにのう」
「しゃべる杖ってわけね」
「えらくつっかかってくるのう。主に出会えてそんなにうれしいのか?」
「なっ!?」
リズは動揺する。だが、小手……ヴァルキリーはさらにとんでもないことを言い出した。
「そう恥ずかしがるな。主に結婚を申し込むのではなかったか?あっ言っちゃった」
「えっ?」
「ちょっ!あなたね!!!」
先ほど以上におろおろするリズ。ウィルも硬直してしまった。たしか、結婚、と聞こえた気がする。アルフレッドは聞こえていないふりなのか反応がない。ユーベルとサイラスはあらあらといった風体で口に手を当ててにやりとしている。
「……っ」
ごまかしきれないと覚悟を決めたのか、リズはウィルの正面に立つ。
「ウィル」
「えっ!?ははははい」
リズの顔は真っ赤だ。しかし視線はまっすぐウィルをとらえている。
「私は、あなたのことが好き。ウィル。だからあなたのことを絶対守るわ。ううん、あなたの敵になるものはなんだって薙ぎ払ってみせる」
「う、うん……」
驚きに棒立ちになっているウィルの両手をとって、言葉を紡ぐ。
「だから、ヴェンパー皇子との闘いが終わったら、あなたの気持ちを教えてほしいの」
リズの言葉は、愛の告白でもあり、自らの主人へ忠誠を誓う宣言でもあった。いつの間にか二人の視線はまっすぐと向かい合い、瞳の奥のお互いの心まで見ているようだ。
「シェリル女王のことを大切に想っていることは知ってるけど……」
「ありがとう、リズ」
ウィルはリズの言葉をしっかりと受け取った。
「僕と一緒に、戦ってくれ」
「うん!」
「これは、なんとしてもヴェンパー皇子のたくらみを阻止しなければなりませんな!」
アルフレッドはうんうん。と満足そうにしている。
「なんというか、こういうのって良いですわね」
「ユーベルさん、にやけてるッスよ?」
「あら、いけません」
より頼もしくなって戻ってきたリズと再会し、いつものメンバーがそろった。この五人ならきっと、この戦いも勝てるだろう。
……久しぶりの明るい雰囲気が再び緊張に変わったのは、すぐ後だった。
「む、あれはイデア!?」
最初にそれに気づいたのは、アルフレッドだった。あの青い身体はデューンの使い魔、イデアだ。
アルフレッドが指さす方向をじっと見ると、確かに青白く光る獅子がこちらに向かって歩いてくる。だが、その歩みは不安定で、ふらふらとしているようだ。
「変ッスね。使い魔だけがこんなところに……って、あいつの背中!」
次第に近づくにつれ、イデアは全身が傷だらけなのがわかる。ある場所は引き裂かれ、ある場所は黒焦げになり、本来氷のように澄んだ青をした体はくすんだ血でまみれている。それはモンスターの返り血なのか、それともイデア本人のものなのか。
「リズ!追手からイデアを守って!」
「わかった!」
すぐにリズは前に出る。
「ユーベルは一緒に来てくれ!治療を!」
「わかりました!」
ウィルはユーべルと自身に障壁を張り、イデアのもとへと走る。ユーベルはあとからついてきた。さらに近づくと、イデアは力尽きたのか、その場に倒れ伏す。同時に、その背から人が転げ落ちるのが見えた。
「デューン兄上!?」
ぼろぼろになっているのはイデアだけではなく、その背に乗せられていたデューンもだった。防御魔法を織り込まれたはずの彼の正装はずたずたに引き裂かれている。
「出血がひどい。ユーベル、先に兄上の治療をお願い!」
「はい、お任せください」
デューンを仰向けにし、すぐに治療を始めるユーベル。
「兄上!大丈夫ですか!デューン兄上!」
ウィルの呼びかけに、デューンはわずかに反応する。
「……げろ……逃げろ」
「兄上!しっかりしてください!!」
ユーベルの癒しの奇跡はすでに発動しているはずだ。目に見えて回復がわからないほど、傷が深いのだろうか。横ではイデアが倒れ伏したまま、荒い息をしている。主人からの魔力供給が途絶えてしまったのか、こちらも苦しそうだ。
イデアとデューン皇子がやってきた方向から、何度か爆発が起こる。おそらくリズが追手と交戦しているのだろう。やがてリズは元来た道をもどってきた。
「ウィル。近くにいるモンスターは片づけたけど、まだ湧いてくるみたい。追いつかれるまで時間は少ないわ」
「殿下、どうしますかな?」
周囲を警戒していたアルフレッドがウィルに尋ねる。これはウィルにしかできない判断だ。魔界の扉には、ある程度まで近づいているだろう。すなわち、デューン皇子をここに置き去りにしてでも、魔界の扉を封印するのか、それとも……
「一度撤退だ。兄上とイデアの治療をしないと」
ウィルは迷いなく撤退を選ぶ。デューン皇子ほどの実力者すら返り討ちにされる強者がこの先にいる。準備が必要だ。
「絶対、戻ってくる」
そういってウィルは暗い森の先をにらみつけた。
戦乙女復活編、終了です。次回より最終章です!
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