12.リズ、再び主のもとへ
「第一皇子サマの方はうまくいってるんスかね?もういい加減疲れてきたんスけど!?」
モンスターの返り血でべとべとになった軽装鎧を気にしながら、サイラスが愚痴をこぼす。こんなことを言っていられるなら、まだまだ余裕はありそうだ。
ウィル達は魔界の扉を目指し、陰鬱とした森を進んでいる。
「モンスターの数が減らないところを見ると、デューン皇子殿下はまだ扉を封印できていないのでしょうな」
同じく全身モンスターの返り血を浴びたアルフレッドが答える。しばらくは順調に扉の方へ進んでいたが、次第にモンスターの数が増え始めた。今では一歩前に進むうちに次のモンスターが出てくる。
数だけではない、どんどんと強力なモンスターの割合が上がってきている。今ではウィルの障壁を常に張り続けなければ、アルフレッドもサイラスも一撃をもらってしまうかもしれない。
「扉への進行速度が落ちてしまっていますね。私もお手伝いできればよいのですが……」
ウィルのそばで一緒に障壁に守られているユーべルがすまなそうにそうつぶやく。
「いいんだ。サイラスやアルフレッドが怪我をしたら、その時は頼むよ。治療は”神官の”ユーベルしかできないからね」
ウィルがそう答えると、ユーベルは困ったような笑顔を返した。実際、ユーベルが攻撃に転じればこの程度のモンスターであれば早々に駆逐できるかもしれない。ウィルはユーベルと初めて会ったブリストン聖教都市での戦いを思い返す。しかし安易にユーベルの力を借りたくはない。あの戦いのあと、ユーベルは単なるいち神官として生まれ変わったのだから。
「しかし、デューン兄上はまだなのだろうか?このままだと……」
あまり長くはもちそうにない。
前衛にはアルフレッドとサイラスがついているが、二人ともわらわらとわいてくるモンスターを仕留めるのに精一杯だ。本当なら前衛にはリズがいてくれて、サイラスはユーベルを守ってくれる。そうすれば、自分が後衛として魔法を放てるのに。
「ひぃっ!?アルの旦那、少し休憩させてほしいっス!!」
口調はおちゃらけているが、サイラスも限界のようだ。ウィルとユーベルのいる障壁の中へと逃げ込んできた。息は上がり切って、ふらふらとしている。
アルフレッドは何も言わないが、同じようなものだろう。一度体制を立て直した方が良い。
「アルフレッド!一度態勢を立て直す!君も一度こっちへ来るんだ!」
ウィルの叫びを聞きつけて、アルフレッドも周囲に群がるモンスターを蹴散らしながらウィルのもとへ戻ってくる。
「ハァ。ハァ。モンスターの勢いが止まりませんなぁ」
ウィルは障壁を多重展開する。モンスターは周囲を囲んで、思い思いに牙や爪を立てるが、ウィルの障壁は破れない。
「どうすれば……」
アルフレッドとサイラスが呼吸を整えている間にも、続々とモンスターが障壁へと集まってくる。飢えた獣の群れの中に放り込まれたウサギのように、あとは食われるのを待つばかりといった状況だ。
「ど、どんどん増えてくるっスよ……?」
「大丈夫だ。僕の障壁があるうちは問題ない」
実際、ウィルの障壁を破れるほどのモンスターはいないだろう。だがガリガリと本能のままに障壁へかじりつく大量のモンスターを見ていると、まるで自分が嚙みつかれているかのような恐怖が湧き上がってくる。
大丈夫、と言ったものの、ウィルは次の一手を考えあぐねていた。攻撃魔法でモンスターを蹴散らすには一度障壁を解除しなくてはいけない。今障壁を解除すれば、あふれかえるモンスターの集団に一斉に襲われてしまう。
「殿下。敵の目を引き付ける必要があります。私が一度外に出ましょう」
ウィルの考えを察したのか、アルフレッドが進言する。
「でも! そんなことをしたらアルフレッドが!」
「すぐに私に障壁を張っていただければ、問題ないかと。さ、早く!」
「ダメだ。危険すぎる!」
言い合いをしている間に、モンスターはついに折り重なって障壁へと襲い掛かる。小さな、弱いモンスターは下敷きにされ、巨大なモンスターが上から波のように押し寄せてくる。
「くそっ! 他に方法は……」
ゴォォォォォォォ!!!!
突然、障壁の周囲に火柱が立ち上る。我先にと障壁へのしかかっていたモンスターは、黒焦げになってその場に転がった。
「何スか!?」
「これは…………一体!?」
呆然とするウィル達に、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「……ル! ウィル!!」
「リズ……リズか!?」
ウィルの声に呼応したように、黒焦げにされて隙間のできたモンスター大群と障壁の間にリズが飛び込んでくる。
「姉さん!」
「リズ殿!」
「リズ様!」
「お待たせ!みんな無事かしら?」
「リズ……」
久しぶりに見たリズは、少し雰囲気が変わったように見える。オクタスからもらった乙女の戦斧を右手に持ち、失ったはずの左手には白銀色の小手がついている。
「リズ!モンスターの数が尋常じゃない!早く僕の障壁の中へ……」
リズの技なのだろうか?あの火柱によって周囲のモンスターは減ったものの、奥からはさらに湧いてきている。リズはウィル達を背にしてモンスターのほうを向いているが、何か自身に満ち溢れているように感じる。
「大丈夫、私に任せて」
「正確には、このわしに任せておけば、ということじゃがな!」
ウィルはリズの声以外にもう一人、リズの小手から別の女性の声がしたような気がした。
「ウィル。周囲の雑魚は私が片付けます。アルフレッド様とサイラスは残った大型を!」
リズはそういうと左手を前にかざす。
「久しぶりに腕がなるのォ!小手だけにな!」
「ふざけないで!」
小手が淡く光ると、周囲に雷撃が這いまわる。得物を探す蛇のようにモンスターへと向かうと、周囲に放電を繰り返しながら次々と対象を感電させてゆく。稲妻の蛇に嘗められたモンスターは、黒焦げになって絶命した。
二度、三度と小手から放たれた雷撃が周囲を打ち据えたところで、モンスターの気配はなくなっていた。
「これは、いったい……?」
リズに再開できた喜びはあったが、ウィルには戸惑いのほうが大きかった。リズは魔法は使えないはずだ。そもそも、魔法を得意とする護衛騎士ですら、あれほどの広域魔法を連続して放てる者がいるだろうか?
「ふふーん。皆、わしの実力におののいておるのじゃろ?のぉリズよ!」
「調子に乗らないで。さっきの魔法だってウィルに効果が及んだらどうするつもりだったのかしら?」
「わしはヴァルキリーじゃぞ、その程度心得ておるわ」
もっとも戸惑うのはこの声だ。どうやら、リズの小手から聞こえているようなのだが。どうやら幻聴の類ではないらしい。ウィルがユーベルやサイラスに視線を向けると、二人とも同じように困惑した様子なのだ。アルフレッドは年代を感じる小手の装飾が気になったのか、さきほどからじっと小手を見つめたままだ。
「ウィル、遅くなってごめんなさい。」
「いいんだ。それよりもリズ、何があったのか教えてくれないか?」
リズはみんなの目線が左手に集まっていることに気づいて、話し始めた。
「そうね。話すわ。私が帝都を発ってから何があったのか。それと」
リズは左手をみんなに見せる。
「『これ』がなんなのか」
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