10.使い魔たちの戦い
「ウィル、この辺りで別行動にしようか」
使い魔――青く輝く獅子にまたがっているデューンが声をかけた。
ウィル、アルフレッド、サイラス、ユーベルと、デューン、そしてデューンの使い魔イデアは、魔界の扉へ向かって進んでいた。
帝国から独立を宣言した南西部に入ったあたりではなんともなかったが、南へ進むにつれてモンスターの数は増え、強さも増している。
とはいえメンバーにはアルフレッドやデューンの使い魔がいる。今のところ、現れたモンスターは軽々と討ち滅ぼされていた。
「では、予定通り、僕が扉へ真っ直ぐ向かいます」
ウィルがそう言うと、デューンはうなづく。扉へ向かって進むのはウィルだが、本命はデューンだ。障壁の魔法を持つウィルが扉へ向かい、扉を封じるつもりであるかのように見せかける。
それを察したヴェンパー陣営は、ウィルをなんとしても扉に近づけないよう、妨害に注力するだろう。だが、ウィルは目眩しに過ぎない。
「僕は少し迂回しながら、戦闘を避けて行くよ」
そう言ったデューンこそ、この作戦の成功を左右する。敵の目がウィルに向いている間に扉へと近づき、封印の解けた扉を氷結し再封印するのだ。
「では、なるべく敵の目を引くように暴れるとしますかな」
アルフレッドが斧を構える。
「俺、あんまり正面からの戦闘は得意じゃないんスよね……」
はぁ、とため息をつきながらサイラス。
「サイラス様。殿下の障壁でお守りいただけますし、お怪我されたら私もおりますから」
ユーベルはサイラスを心配している。
「サイラス、大物はアルフレッドに任せればいい。君はアルフレッドが討ち漏らした周囲のモンスターを頼むよ」
「ま、殿下の障壁があるんで、あんまり不安てわけでもないんスけどね」
ウィルがそう言うと、サイラスは答えた。
グォォォォオォォ……
モンスターの気配だ。
「じゃあ、ウィル。無理はしないようにね」
「兄上も、ご無事でいてください」
ウィルと言葉を交わしたデューンが合図すると、使い魔のイデアは恐ろしいスピードで森の中へと消えていった。
「さ、始めてくれアルフレッド」
「は!」
デューンの封印が成功するかどうかは、ウィルがどれだけ魔物とヴェンパーの目を引きつけることができるかにかかっている。敵の反撃が少なければ、このまま進んでウィルが扉を封印してもいい。ここが正念場だ。
「リズ」
彼女はどうしているだろうか。ふと、ウィルは最も信頼する護衛のことを思い出す。彼女がいれば、どれほど心強いだろう。
ドォォォォン!!
アルフレッドが振り下ろした斧が前方に爆発を起こす。戦いが始まったのだ。
****
ドォォォォン!!
音を聞いただけでも命を刈り取られそうなブレスが立て続けに吐き出される。
魔法でもあり、物理的な攻撃力ももつドラゴンのブレスを、翼を器用に動かしてかわす。上下左右の空を自由に動き回る、白く輝くドラゴン――ルクスを、後方のドラゴンは捉えきれていない。
「ちっ。アルビノが。逃げ回るだけの臆病者め」
ブレスが当てられない苛立ちを口から吐き出す黒いドラゴン。主人であるヴェンパーからは、アビスという名をもらっている。
「アビス。お前への命令だ。ウィルフォードの使い魔を殺せ。
そしてラストフォートを攻撃し、壊滅させるのだ」
聞けば主人の弟であるウィルフォードも、自分と同じドラゴンを使い魔としているらしい。同族であればこの力を存分に振るうことができるだろう。
アビスは全力での戦いに飢えていた。生まれてすぐのころ、戯れに周囲のモンスターや人間を小突いてみた。あっけなかった。地上最強種であるドラゴンの爪は、撫でるだけでもなんだって切り裂けたし、鱗はどんなモンスターの牙も通さなかった。
「逃げ回り続けやがって……。最強種のプライドがないのか」
再びブレスを吐く。目の前にいる白いドラゴンがひらりを身を翻すと、目標から逸れたブレスはそのまま地上へと着弾した。
ごう、と炎があがり、人間の悲鳴が聞こえる。
いつの間にか、人間が住む市街地へとやってきたようだ。しかしアビスにはどうでも良いことだ。人間がいくら死のうと、今の自分が追っているのは、同族のアイツだ。
ひらひらと必死に逃げ回っているところを見ると、おそらく自分のブレスが当たればひとたまりもないと分かっているのだろう。同種のドラゴンとはいえ、何せ相手は虚弱なアルビノなのだから。
ブレスを打つ。アルビノが右に避ける。再びブレスを打つ。アルビノが急降下する。ブレスを打つ。アルビノが左に避ける。ブレスを打つ。
どれだけ繰り返しただろうか。
地上に到達したブレスは周囲を焼き尽くし、人間の街はあらゆる場所から煙が上がっている。流石に焦れてきたアビスは、目の前の臆病者を挑発する。
「俺に勝てないからと時間稼ぎのつもりか!残念だったな!!」
するとアルビノのドラゴン……ルクスは初めてこちらへと体を向き直した。
「ラストフォートにはオリエンスの大軍が押し寄せているぞ!お前の帰る場所はもうなくなっているだろうな!」
「……」
ルクスは何も言わずアビスを見据えている。そしてアビスに注意を払いながらも、目下の人間の街の被害の様子を伺っているようだ。ぼろぼろに崩壊した街をみて、満足したようにも見える。
「帰るところがないのはお前だ。邪悪な同胞よ」
「なんだと!?」
初めて、ルクスが口を開いた。
「ここがどこだか分かっていないようだな。この街の名はブラッドリバー。お前の主人である、ヴェンパーが同盟を結んだオリエンス軍の本拠地だ」
「人間の街ごときが一つ燃えたところで、なんだと言うのだ」
アビスは問いかける。
「人間たちはヴェンパーの使い魔が、ブレスで街を破壊し尽くしたと考えるだろう。お前は主人の顔に泥を塗ったのだ」
ルクスの言葉に、アビスは頭に血が昇る。
「知ったことか!お前を殺し、ラストフォートを落とすことが俺の役割だ!!」
叫ぶアビスに、ルクスは冷静に言葉を返す。
「ならば私の役割は、お前をラストフォートから引き離すことだ」
しまった。ラストフォートの人間どもは、おそらく軍を打ち負かせる見込みがあるのだろう。その際に邪魔になるのは自分……圧倒的な力を持つドラゴンだ。
「お前、俺様をだましたのか!」
アビスがいくら破壊を尽くしたとしても、オリエンス軍によって砦を占領しなければ地上の勢力図が変わったとはいえない。軍が敗走する前に砦へ向かわなければ。こいつを殺すのは後だ。脆弱なアルビノなど、いつでも殺せるだろうから。
「覚えていろ!」
そう、捨て台詞を吐いて砦へと向かうアビス。こんどはルクスがアビスを後ろから追う形になった。
「愚かな」
ルクスが翼を広げ、空を打つ。急激にスピードをあげたルクスの体はさらに上空へと上り、少し下にアビスの姿を捉えた。
「相手が自分よりも遥かに強い可能性を考えるべきだったな」
ルクスが力を溜め、ブレスとして解き放つ。避けることができなかったのか、それとも避ける必要がないと考えたのか、ブレスは下にいるアビスへ直撃した。
大きな爆発とともに、先ほどまで空を飛んでいたものが墜落する。大質量が地上へと激突した衝撃で、周囲の地面に衝撃が伝わっていく様子が、空にいるルクスにははっきりと見えた。
「念の為、砦の応援に向かうか」
主人の結婚相手、シェリルのことを考え、ルクスは再び翼をはためかせた。
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