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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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18.試練を突破したヴェンパー

「そんな!あたしの幻術がやぶられた!?」


 試練の森。入り口は相変わらず深い緑に覆われている。今はさらに周囲に霧が立ち込めていて、森に慣れたものでも自由に歩き回るのは難しいだろう。


 ただ、だんだんと霧は薄くなりつつある。


 距離がはなれたところからも、森の入り口がわかる程度に霧が晴れてきた。その入り口には、胸元の開いたローブを着た女魔導士がいる。


 完全に想定外だ。霧の魔法でウィルフォード一味全員をとらえ、ウィルフォードを護衛どもから切り離すことには成功した。その後発動した牢獄門(プリズン・ゲート)も完璧だ。護衛どもとウィルフォードは裸同然であたしの作った亜空間に閉じ込めた。……はずだった。


「護衛ども。どうやってサイクロプスを倒したっていうんだ……?」


 いくら帝国最強といわれたアルフレッドといっても、装備もなしに勝てるはずはない。かといって、一緒に閉じ込めてやった取り巻きなどに、何かできるとも思えない。


「あいつらが出てきたら、もう一度術をかけなおしてやる」


 そうだ。魔法が破られたとはいえ、別の亜空間に送ってしまえばいい。どうせ奴らは、何をされたのかすら理解してはいまい。

 ドリスは詠唱を始める。牢獄門の魔法は強力な分、一定の詠唱時間が必要だ。アルフレッドがこちらに転移してくるタイミングを計って、魔法をかけなおす。



 やがて空間が歪み、亜空間の核を破壊した三人が転移してくる。


「あっ!もとの場所に戻ったっスか?服も元に戻ってる!」

「やっぱり自分のローブが安心します」

「なかなか興味深い体験でしたな!」


 どうなったのかわからないが、全くの無傷だ。癪だが魔力が続く限りなんどだって閉じ込めてやる。


「くらえ、牢獄……うそでしょ!?」


 護衛の三人に再び魔法を放とうとしたドリスは、衝撃に見舞われる。ウィルフォードを一人だけで閉じ込めた亜空間も、崩壊しつつあることを感じ取ったのだ。


「あいつが使える攻撃魔法は、大したものはないはずだ。

 奇跡的に魔法が使えたとしても、ミノタウロスを殺すことなんてできるはずが……」


 あまりの動揺に、アルフレッドに放つつもりの魔法詠唱が途絶えてしまう。魔力は霧散し、ドリスがうろたえているうちに、崩壊したもう一つの亜空間からの転移が始まる。ウィルフォード……と、もう一人!?


「よし、戻れた!」

「殿下、まだ油断はできませんよ」


 亜空間から出てきたもう一人は、片腕の女騎士のようだ。右手にハルバードを持っている。


「殿下!リズ卿!ご無事でしたか!?」

「アルフレッド!それにサイラス、ユーベルも。みんな無事でよかった。僕はリズに助けられたんだ」


「リズ様、来てくださったのですね!」

「リズ姉さん!」

「アルフレッド様、ユーベル。心配かけたわね」


「ん?俺には一言もないっスか?」



 ウィルフォードと護衛たちが合流するさまをドリスは見ていることしかできない。牢獄の魔法を今から再詠唱するのはどう考えても間に合わないが、直接の戦闘ではアルフレッドのいるあの一味には勝てる見込みがない。

 ヴェンパー皇子の命令は、皇子が試練から戻るまでの時間稼ぎだ。あとどれくらい耐えればいい?どうやって?


 思考がまとまらないうちに、試練の森の入り口にいるドリスに、サイラスが気づく。


「あれ、あそこにいるのは……?」


 見つかった。いずれにしろこのままではヴェンパー皇子の命令を遂行することは不可能だ。一か八か、再び牢獄門をつかうしかない。


「おのれ!」


 詠唱を始めるドリス。それに気づいてアルフレッドとリズは戦闘態勢をとる。ウィルは全員に障壁を生み出していく。一番最初に障壁を展開されたのはリズだ。


「そこをどきなさい!」


 ドリスに向かって突進するリズ。だが、リズが一撃を放つ前に、ドリスとリズの間には紫色の魔力の霧が生み出された。危険を察知したリズは距離をとる。


「っ!これは!!」


 ドリスの後ろから、肩に手を置く人物。


「よし、ちょうどいいところで間に合ったな」

「ヴェンパー様!!」


 試練の森から現れたのは、ヴェンパーだった。ドリスの肩に手をかけ、もう一方の手には……黒い卵が抱えられている。


「殿下」


 アルフレッドが普段より低い声でウィルに話しかける。


「わかってる。ヴェンパー兄上はもう帝国に混乱をもたらした裏切り者だ。容赦はしない」


 一度引いたリズも、サイラスも、ウィルの前で戦闘態勢だ。ヴェンパーはそれを上機嫌に見ている。



「よう、ウィル。これを見ろよ」


 ヴェンパーは左わきに抱えた黒い卵をとんとん、とたたいた。


「俺も試練を乗り越えた。お前にできたんだ、俺にできないわけは無いだろう?」


「そんなことはいい、ヴェンパー兄様、どうして帝国を二分するようなことをしたのですか!?」


 ウィルはヴェンパーをにらみつけた。



「まぁ、そう興奮するんじゃねーよ」


 ヴェンパーはへらへらとしている。ドリスは片膝をついて、ヴェンパーに臣下の礼をとっている。戦闘中だというのに、ヴェンパーが負けるはずがないと心から思っているようだ。


「俺は我慢がならなかったんだ。お前がデューン兄貴のお膳立てのうえで、ゆるゆると活躍しているのがな。極めつけはコレだ」


 そういって卵を指す。


「お前はドラゴンを手に入れたんだろう?本当なら、俺が先に手に入れるはずだったと思わないか?なぁ?」


「弟に嫉妬?器が小さいわね」


 リズがふん、と鼻を鳴らす。


「どっちにしても、皇帝になんてなれないんじゃないかしら?」

「黙れ」


 ヴェンパーは殺気とともに冷たく言い放つ。だが憤怒の表情は一瞬で、また先ほどと同じくへらへらとした薄笑いに戻った。


「今の俺は機嫌が良い。それにお前なんぞにかまっている時間はないからな」


 そういって、ヴェンパーは呪文を唱え始める。


「兄上の腐食の魔法だ!みんな下がって!」


 ウィルが叫ぶと同時に、全員がウィルのもとへ集まる。ヴェンパーから放たれた紫色の液体がウィルの障壁にへばりつく。


 しゅぅぅと音を立てて、ウィルの障壁は溶解していく。ヴェンパーの腐食魔法がウィルの障壁を無効化しているのだ。


「で、殿下、あの紫色って何なんスか?殿下の障壁がとけちゃっているような……」


「兄上の腐食の魔法だ。僕の障壁だろうが、護衛騎士の装備だろうが、あれを浴びればなんだって溶け落ちてしまう。もちろん人間だって例外じゃない」


「ひぃ……」


 サイラスが恐怖に身をよじらせる。ウィルの言う通り、ヴェンパーの魔法が触れた個所から障壁は効力は失い、溶けていく。ウィルが何度も障壁を張りなおして、やっと防いでいる状態だ。


「ははは。いつまでもつかなウィル。張り合いがないみたいだからこれもくれてやるぜ。じゃぁな!」


 そういってヴェンパーは周囲に紫の霧を生み出すと、ドリスとともに姿を消してしまった。腐食の霧は最初の液体よりも効果は薄いようだが、ウィルの障壁の全体を覆って、少しずつ障壁を蝕んでくる。



「何か対策を考えないと、死にそうですな」


「アルの旦那、ちょっと冷静過ぎないっスか?」

「サイラス!うるさいわちょっとだまってて!」

「だって!もうすぐそこまで霧が迫ってきてるっスよ!?」


 ウィルは次々とダメになった障壁を解除し、新しい障壁を張りなおしている。だが打開策が無い。


「あの、殿下。霧でしたら雨で薄めたり、風で飛ばしたりはできないでしょうか?」


ユーベルのつぶやきに、ウィルはあることを思い出す。


「そうだ、あれがあった!」


 ウィルは腰のポーチから、スクロールを取り出す。出発前、兄上――デューン第一皇子からもらったスクロールだ。中にはデューンの魔法、周囲のすべてを瞬時に凍らせる強力な魔法が込められている。


 威力が強すぎれば、障壁もろともウィルたちも氷漬けになるかもしれないが。


「ユーベル!スクロールの発動をお願い!僕は障壁に集中するから!」


「はい!」


 ユーベルにスクロールを渡すと、ウィルは障壁をさらに重ねて展開する。


「今だ!」


 ユーベルがスクロールに魔力を込めると、封じられていたデューンの氷結魔法が起動する。ヴェンパーの生み出した紫の霧も、ウィルの障壁も、周囲の木々も……すべてが凍り付いた。


「た、助かった……」


 サイラスが座り込むと、リズとアルフレッドも、ふぅと大きく息を吐く。ウィルの障壁は腐食と氷の魔法によって、あと一枚しか残っていなかった。ウィルは障壁を解除する。

 周囲はヴェンパーの霧が凍り付いて、紫色の氷のように散らばっている。だが時間がたつにつれて効果を失いつつあるようだった。



「いったん、デューン兄上に報告に帰ろう。ヴェンパー兄上が使い魔を手に入れてしまった以上、その対策も必要だ」


危機を脱し、久しぶりに全員がそろったウィル一行は、帝都ランスへと帰還した。

護衛喪失編終了です。次回から新章です。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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