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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
東部遠征編 <Bandit of the East>
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9.第一ラウンド

「”殿下”?アンタ、どこかの貴族か……?」


 殿下、という言葉の何が気に食わなかったのか、サイラスの表情が硬くなる。


「貴族!?フン、舐めないで欲しいわね。何を隠そう、ウィルフォード殿下は帝国の……」

リズがそこまでいったところで、アルフレッドが叫ぶ。

「リズ殿!」


 得意顔でしゃべっていたリズはアルフレッドの大声で我にかえり、左手に持っていた盾を構える。一瞬前まで遥か向こうにいたはずのサイラスはリズのすぐ目の前まで距離を詰めていた。振り下ろしたダガーが盾で弾かれ、ギギィ!と不快な音を立てる。


「貴族って奴には、反吐が出るっスね。力のない市民から、全てを奪っていく」


「いつの間に!?」


 リズが怯んだ隙に、サイラスが後方へとびのいて距離を取る。そして、着地と同時に地面を蹴って斜め上へと跳躍した。脇に生えている木の幹を足場にしたサイラスは、そこからリズに向かって再び一直線に突っ込んでくる。


「くっ!」


 再びサイラスのダガーとリズの盾が衝突する。通常であれば片手に収まるような刃物の攻撃などものともしないはずのリズが体制を崩される。脅威的な速度で繰り出されるサイラスの攻撃は、ダガーを受け止めた盾を弾き飛ばす勢いだ。

 一撃を加えたサイラスはまた跳躍し、並木道の左右の木を縦横に移動している。サイラスの踏み込みによって木の幹がガサガサと揺れる。まるで並木道まで意思を持ってリズやアルフレッドに襲い掛かろうとしているかのようだ。



「リズ殿。殿下は私がお守りします。リズ殿はその者をなんとか抑えてください」


 魔法の使えないウィルに脅威が及ぶ可能性があると判断したアルフレッドは自らがウィルを守る必要があると考えたようだ。だが、アルフレッドの発言でサイラスの攻撃目標がウィルに向かったようだった。


 リズだけではなく、アルフレッドにも――正確にはウィルに向かった攻撃をアルフレッドが防いでいるのだが――サイラスの超高速の攻撃が加えられる。


「アルフレッド様!殿下!」

「場所が悪いですな。上下左右からこの速度で攻撃されては、殿下を守るので精一杯です」


 サイラスを抑えるよう言われたが、リズは手を出しあぐねている。サイラスのスピードは目で追うので精一杯だ。リズに向かってくるとわかっていれば、防ぐことはできるのだが、それが限界だ。他人を……ウィルを庇って動くことはアルフレッドでなければできないだろう。元よりわかっていることとは言え、アルフレッドとの実力さを痛感する。


「一か八か、突っ込もうかしら……?」


 サイラスの攻撃を受け続けているアルフレッドは、じりじりと押されているように見える。一撃をくらってでもサイラスの動きをとめようとリズが考えた時、動いたのはアルフレッドだった。


「今です殿下、教会へ走ってください。魔杖を返してもらうのです」

「よし!」


 ウィルはアルフレッドの合図で教会に向けて走り出す。不意をつかれたのはサイラスだ。教会には神官と、子供たちがいる。貴族なんかを向かわせるわけにはいかない。


 狙いをウィルへと絞り、駆ける。だが、その進路上にはサイラスの軌道を読んだアルフレッドが待っていた。大型の盾でサイラスの全身が叩きつけられる。周囲の空気が揺れるほどの衝撃だが、アルフレッドは微動だにしていない。その結果、サイラスの体と、盾の衝突のエネルギーはサイラス本人が受けることになってしまう。


「ぐはっ!」


 ウィルへと向かっていた時とほぼ同じくらいのスピードで逆方向へ吹き飛ばされるサイラス。いつの間にかウィルと教会が背になるように追い込まれたふりをしていたのも、ウィルを教会へ向かわせてサイラスの気を引いたのも、アルフレッドの作戦だったのだ。


「やっと動きが単調になりましたな。それにしても、私に殴られてまだ意識があるとは、感心感心」


 サイラスが大勢を立て直す前に、ウィルは教会へと入っていってしまった。


「教会の皆をどうするつもりだ!アイツらは関係ない!」


 激昂するサイラス。ウィルへの脅威が下がったせいか、アルフレッドはいつもの余裕のある表情に戻ったようだ。


「どうもこうも、魔杖を返してもらうだけなんだが……。これほど躍起になって我々に攻撃を仕掛ける理由がよくわかりませんな」


 アルフレッドは肩をすくめる。


「しかし、まだ殿下に危害を加えようとするつもりなら……」


 アルフレッドの表情が少し引きしまる。



「第二ラウンドといきますかな」


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