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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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15.アルフレッド・サイラス・ユーベル

「旦那、アルフレッドの旦那!」

「っ!?」


 サイラスの声に、意識が現実に引き戻される。


「大丈夫っスか?ボーっとしていましたけど」

「あぁ、大丈夫だ」


 何度か目をしばたかせる。一瞬感じた、めまいのようなこの感触は。


「我々は転移させられたようですな」


 アルフレッドがそういうと、近くにいるサイラスとユーベルもうなづく。


「アルフレッド様、殿下がいらっしゃいません。先ほどまで近くにいたはずなのに……」

「あの女の声の主が、魔法か何かをつかったんスかね?ここはさっきまでいた場所とは違うみたいだし」


 サイラスの言う通り、転移はあの女の魔法によるものだろう。おそらく、あの霧の中にいる任意の人物を、特定の場所に転移させるような。


「一人にされてしまった殿下が危ない。まずはここを抜け出す方法を見つけねば」

「それには賛成なんスけど」


 サイラスが口をとがらせる。


「……装備がないっス」

「!?」


 サイラスが言う通り、三人は荷物をすべて失っていた。

 荷物だけではない。手に持っていたはずのアルフレッドの斧もどこかに行ってしまっている。何が起こっているのだろう。護衛騎士である自分が、意識を失ったくらいで自分の武器を手放すはずはないというのに。それに……


「服装まで変わっているな」


 三人とも、今時奴隷にでも着せるような、麻で編まれた粗末な布を、腰紐で固定しただけの簡単な服を着ている。いつの間に、荷物だけでなく服装まで変わってしまったのだろうか?


「うーむ。ただの転移ではないとすると……?」


 アルフレッドが考え込む中、ユーベルがもじもじとしている。


「あ、あの、私……」


 普段フードを深くかぶっているユーベルは手で顔を覆っている。服が変わってしまったせいで、フードが無いのだ。


「ユーベルさん、なんで恥ずかしがってるんスか?」

「いえ、しばらく顔をお見せしていなかったので……」

「ここには俺たちしかいないんスから、大聖女様の娘さんだってばれないっスよ」


「そ、そうですね……」


 ユーベルが手をどけると、金色の前髪がはらりと顔にかかる。普段隠しているのがもったいない、整った顔立ちには戸惑いが浮かんでいる。


「ユーベルの表情が見えるのも、新鮮で良いものですな」


「へへ。そうっスね」


 三人は少し笑いあった。




***




「殿下を探しに行かねば」


 アルフレッドはそういうと、サイラスとユーベルを連れて進む。


「アルフレッド様。殿下はご無事でしょうか?」


 ユーベルは心配そうだ。


「とりあえず進むしかないですな」


 アルフレッドは歩きながら答える。


「それにしても、これは敵の攻撃なんスかね?今のところ、装備を奪われた以外は異変はないスけど」


 サイラスの言う通り、この攻撃――十中八九、ヴェンパー皇子の護衛騎士によるものだろうが――の正体がつかめない。


「おそらく、ヴェンパー皇子が試練の森から帰るまでの時間稼ぎでしょうな。異空間に相手を閉じ込めるタイプか、あるいは幻覚か」


 ヴェンパーはデューン皇子をはじめとした帝国側が自分の動きを察知していることには気づいていたのだろう。そして、試練の森に入った自分に、デューン皇子が刺客を送ることも。

 だが、差し向けられる戦力がどの程度かまではわからなかったはずだ。もしかしたらデューン皇子が直々に討伐に向かうかもしれないし、帝国兵を差し向けるかもしれない。


「どんな相手が来るかわからない状況で、最低限、試練を邪魔されないようにしたのでしょうな」


「では、殿下もまだご無事かもしれませんね」


 単なる時間稼ぎであれば、ウィルに危険が及ぶことは無いだろう。ユーベルの表情が少し明るくなる。だがアルフレッドはまだ警戒を解かない。


「そうかもしれないが、殿下も同じように丸腰になっているとすれば、何者かに襲われれば危険だ。急ぐぞ」




 歩き続ける三人は、そのうち怪しげな男がいることに気づいた。背はサイラスの半分程度で、茶色くぼろぼろのマントを身に着けている。フードからはゆがんだ醜い顔がみえる。


「今日の相手は三人か。

 ……珍しく女が一人いるなァ。これは楽しめそうだ!ひっひっひっ」


 下卑た笑いをあげる男。


「……」


 アルフレッドは二人の前に立つ。武器や防具はないが、素手でも彼に勝てる者はそうそういないだろう。自分の数倍はあるだろう、アルフレッドを見て、マントの男はさらに下品な笑い声をあげた。


「ぐへへ。そういう正義面した男をズタボロにするのが俺の趣味なんだァ。出てこい!」


 男の声に応じて、未だ晴れない霧から出てきたのは、サイクロプス。背は大柄なアルフレッドと比べてもさらに大きい。腰布を巻いただけの体は人間には到底及ぶことのできない筋肉に覆われている。右手に持っているこん棒は金属でできているようだ。あんなものを振り回されたら、いくらアルフレッドといえど無傷では済まないだろう。

 顔の中心に一つだけ配置された巨大な眼は血走って、目の前にいる小さな三人の人間をとらえている。


「グオオオオオオ!」

「サイラス!ユーベルを連れて逃げろ!!」

「ユーベルさん!こっち!!」


 アルフレッドが叫ぶと同時に、サイラスはユーベルの手を取って走る。サイラスには迷いはない。どうせ武器が無ければ自分はほぼ役に立たないし、旦那が逃げろというならそうするのが正解だ。


「アルフレッド様!」


 叫びながら逃げるサイラスとユーベルを視界にとらえながら、マントの男はサイクロプスを操る。


「あの女を追え!」

「させるか!」


 ユーベルへと狙いを定めたサイクロプスに、アルフレッドが立ちはだかる。サイクロプスは怒りに任せてこん棒を振りぬいた。


「ぐぅっ」


 鈍い音とともに、アルフレッドの左腕がこん棒に打ち据えられる。いくら頑強といえど、鉄の塊とぶつかって無事とはならない。


「くそっ。折れたか」


 せめて何かしら防具でもあれば、多少いなすことはできただろうが、なにせ来ているのは服一枚だ。目の前のサイクロプスとそう変わらない。いや、こん棒を持っているだけ、サイクロプスの方がはるかに有利だ。


「オアアア!」


 サイクロプスがこん棒を振り下ろす。残った右手で何とか抑えようとするが、恐ろしいほどの力で振り下ろされたこん棒をつかむことはできず、直撃する。先ほどより真正面から衝撃をうけてしまったせいか、右腕が途中から折れてぶらりと垂れ下がる。


「……おおっ!」


 アルフレッドはひるまずサイクロプスに体当たりをしかける。

 どう、ともみ合いながら倒れこんで、頭突きを食らわせる。だが両腕に力が入らないアルフレッドはサイクロプスを押さえつけることができない。もう一度頭突きをしようと頭を振り上げたところで、サイクロプスが麻の服をつかみ、アルフレッドをいとも簡単に投げ飛ばした。


「アルの旦那!?ユーベルさん、このまま走って!」


「でも、サイラス様は」

「いいから早く!!」


 ユーベルの手を引いていたサイラスは、両腕を折られたアルフレッドを見て、加勢に向かった。


「げひゃひゃひゃ!!まず一人だァ!」


 サイクロプスを操るフードの男は興奮した顔で叫ぶ。


「やれ、サイクロプス!」

「オオォオ!」


「アルの旦那!くそっ!一つ目野郎!!」


 アルフレッドにもう一撃を加えようとするサイクロプスの眼を狙って、サイラスがとびかかる。サイラスのスピードに反応できないサイクロプスだが、顔をそむけたことでサイラスのこぶしはサイクロプスの眼をつぶすことはできなかった。

 そのままサイラスを空いている左手でわしづかみにすると、地面にたたきつける。ドシン、と地面に衝撃がはしり、サイラスはそのまま動かなくなった。


「サイラス!!」


 一瞬、アルフレッドに動揺が走る。サイラスに視線がくぎ付けになり、サイクロプスの右腕に握られたこん棒が恐ろしい勢いで振り回されていることに気づけなかった。


「アルフレッド様危ない!」


 ユーベルが叫んだその瞬間、振りぬかれたこん棒はアルフレッドの頭部へ直撃し、アルフレッドは意識を失った。



「あぁ……そんな……」



「げひゃひゃ!まだ殺しはしねぇ。お前らの目の前で女をたっぷりいたぶってやるぜぇ!!」



 意識を失った二人から興味を失ったサイクロプスが目を付けたのは、ユーベルだ。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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