14.ドリスの幻術
「これが試練の森っスか?」
サイラスに「ああ」とウィルは答える。
ウィル、アルフレッド、サイラス、ユーベルは帝都を離れ、試練の森の手前まで来ていた。このあたりは既にリンドグレーン領内だ。ベルフライも近いし、少し足を延ばせばシェリルにも会えるだろうが、今のウィルたちには時間がない。ウィルはデューン皇子からの説明を思い出す。
「ヴェンパーは試練の森にいる」
デューン配下の諜報機関によると、ヴェンパーはラストフォート砦の戦いが終結した後、しばらくベルフライの周辺に滞在していたようだ。そして南部諸侯の蜂起とともに帝国や他の諸国家へ独立の宣言を書いた書簡を送ると同時に、試練の森へ向かったのだという。
「おそらく、ラストフォート砦でのウィルの奮戦、正確に言えばウィルの使い魔の力を見て、自分も使い魔を得ようと考えたんだろう。
使い魔は使役する主人の性質に左右されるからね。猛毒をまき散らす魔獣でも使い魔になったら手に負えない」
デューンはオクタスを派遣しようか悩んだらしい。だが、南部諸侯の動きは早く、軍隊同士の戦争は避けられない。オクタスはそちらの対応をする必要があった。
「本当はウィル。今となっては君を送り出すこともしたくはないんだが」
デューンは顔を手で覆っている。ウィルを送り出して、もしヴェンパー一味に負けてしまえば、魔界の扉の封印ができなくなってしまう。かといってこの状況を放置すれば、ヴェンパーが力をつけ、大陸に混乱がもたらされる。苦渋の決断だったのだろう。
「アルフレッドがいるとはいえ、ヴェンパーも強力な護衛騎士を何人も配下に持っている。ウィルを失うことはどうしても避けたい」
そういってデューンはいくつかのスクロールをウィルに渡した。
「ヴェンパー本人と戦闘になったら使ってくれ。多少は役立つはずだ」
ウィルは荷物袋に手を入れ、デューンからもらったスクロールがあることを確かめた。リズがいないせいでなんとなく不安になっているのかもしれない。
「もうすぐ、試練の森の入り口近くですな。殿下、ご準備を」
アルフレッドが警戒を含んだ声でそういうと、四人に緊張が走る。試練の森を踏破するには、ひとりきりで森に入る必要がある。その間ヴェンパーは護衛と離れることになり、こちらからすればヴェンパーを倒すチャンスだ。
でも、だからこそ、ヴェンパーは森の入り口に護衛騎士を配置しているだろう、とデューン皇子は言っていた。ヴェンパーが森から持ってくる間、帝国からの使者の相手ができるほどの実力者がいるはずだ、と。
「ふふ……お前がきたのか。ウィルフォード皇子。デューンやオクタスじゃぁないのが残念だよ」
どこからともなく、女性の声が聞こえてきた。ウィルの前にアルフレッドが進み出る。すでに背負っていた斧を構えている。
「アルフレッド。相手のことはわかる?護衛騎士だろうか?」
「申し訳ございません。護衛騎士も多くいますからな。フェブリア様の配下以外の騎士はすべて把握はできておりません」
「それにしても、気配が全然しないっスね」
サイラスも周囲を見回しながら声の出元を探っているが見つからないようだ。
「ふふふふ……。いくら探しても、あたしを見つけることなんかできないよ!あははは!」
「えっ!?聞こえてるんスか?」
未だ、その声がどこから聞こえてくるのかわからない。それに、次第に周囲に霧が出てきた。アルフレッドはあちこちに鋭い視線を向けている。
「霧が出てきているね。魔法の気配はしないけど……」
「いえ、すでに攻撃を受けていると考えた方が良いでしょうな。その正体が何なのか、一向にわかりませんが」
「ふふふ……ははははっ……!」
霧が濃くなる。
「殿下。一度森から距離を置くべきです。敵の攻撃手段がわかりません」
アルフレッドにウィルも同意する。
「そうだね、この霧から抜け出したほうがよさそうだ」
ウィル達の会話をどうやって聞いているのか、霧の中から声が聞こえる。
「無駄よ!もうお前たちはあたしの術中にあるのさ!!」
「殿下、いやな雰囲気がします。私もその、先ほどから気配をたどれなくて」
ユーベルも不安そうに周囲を探っている。
「殿下、ちょっと周囲を見てきましょうか?すぐ戻れば大丈夫だと思うんスけど……」
サイラスの申し出はありがたいし、視界をほぼ閉ざされてしまっている以上、ウィルも周囲の状況を知りたい。だが、四人を分断することこそ、敵の目的なのではないだろうか。
「やめておこう。なるべく近くにいるんだ。敵の目的は僕らを孤立させることかもしれない」
お互いが離れ離れにならないよう、体が触れるほどの距離まで近づく。
「あははは!!そうやって無意味な抵抗を続けるといいわ!言ったでしょう?もうあたしの術は発動しているの。じっくりといたぶってあげるわ~。こんな風にねっ!」
「!?」
女の声とともに、ウィルは周囲に人の気配がしなくなったことに気づく。
「ウィルフォード皇子。あなたはヴェンパー様から特に丁寧にもてなすよう言われているの。期待して頂戴」
「アルフレッド!サイラス!ユーベル!どこにいった!?」
ウィルは声を張り上げるが、答えはなく、ウィルの問いかけは霧に吸い込まれていった。
完全に敵のペースだ。孤立した上にこの霧から逃げ出す手段も見つからない。”期待して頂戴”といういい方からするに、さらに何かしらの攻撃をしてくるつもりだ。
「おもてなしの邪魔だからねぇ。手下どもとは別の場所で遊んでやるよ。
皇子サマは特別、ね?」
神経を研ぎ澄ませる。わずかな手がかりでも手に入れなければ。
「ウィルフォード皇子、ご招待~♪」
意地の悪い声とともに、めまいがウィルを襲う。この感覚は……転移だ。ウィルをどこかへ転移させようとしているのだ。倒れないようウィルは足に力を入れた。
世界が暗転する直前、リズの声を聴いた気がした。
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