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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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12.悲しい出発

 あわただしくヴェンパーの討伐準備が進められている。すでにデューン皇子は配下を連れて、ヴェンパーの護衛騎士の動きを抑えに出ている。オクタスも近いうちには帝都を発つ予定とのことだ。


 ウィルたち一行もヴェンパーが向かったという試練の森へ向かおうとしていた。あれからウィルは何度もリズと会話していたようだが、結局今のところ彼女は心変わりしていない。



 リズは日課になった素振りをしている。修練場には他の護衛騎士や、護衛騎士の候補生もちらほらと見えるが、各々自分の鍛錬に集中している。

 もう何日か両手剣を使って素振りをしているので、扱いには慣れてきた。剣筋はぶれることなくリズの頭上からまっすぐ地面へと直線を描く。だが、「慣れてきた」程度では帝国の護衛騎士としては何の意味もない。数百の兵を前にしても、ひとりで皇族を護るということは、簡単ではないのだ。


「こちらです」


 半ば自棄になって素振りを繰り返しているリズの後ろから、聞いたことのある声が聞こえる。ユーベルだ。リズが動きを止めて振り返ると、思った通りユーベル……とサイラスがいた。


「あっ、本当っスね。リズ姉さん、おはようございます!」

「……何よ」


 あからさまにうんざりとした声で答えると、リズは元の方を向いて素振りを再開する。


「訓練のためにこんな広い場所があるなんて。皇族って本当すごいっスね!」

「リズ様は毎日こちらで訓練されているのです」

「そうっスか!やっぱりリズ姉さんに一緒にいてもらった方が、殿下も安心だろうな~!!」


「……」



 サイラスとユーベルのしらじらしい会話を、リズは無視する。道場にはリズの振り回す両手剣が空気を切り裂く音だけが響いている。しばらくの沈黙の後、サイラスが口を開いた。


「リズ姉さん。本当に一緒に来てくれないんスか?」



「……」


「リズ様」




「……私は」


 素振りを止めたリズが、振り向かずに答える。


「私には、もう護衛騎士の資格はないわ」


「でも、リズ様」


「もう、いいから。ユーベル、サイラス。時間が無いのでしょう?ウィルをよろしくね」


 リズは再び素振りを始める。片腕を失い、戦闘能力が著しく落ちた自分に何の価値があるというのだ。いつの間にか、サイラスとユーベルは宮殿へと帰っていた。




****




 翌日。

 こんこん、とドアをノックする音でリズは目覚める。いつも修練場に行く時間よりも早い。


 まだ空が白み始めたところで、こんな時間に活動しているのは夜番の守衛かメイドくらいなものだ。だがドアの前にいたのはそのどちらでもなかった。


「リズ」


「ウィル……殿下」


 ドアをノックした人物はウィルのようだ。最近はウィルも皇族として忙しい日々を送っている。ヴェンパー討伐の準備だけではない。真エスタリアなどという国家が勝手に出来上がってしまったため、周辺国家や周囲の貴族たちとも意思統一が必要だ。ウィルだけではなく皇族全員が、毎日毎日会談に明け暮れている。

 こうして声を交わすのも何日かぶりだったのだと、リズは気づいた。


「すみません。今は……ちょっと」


 起きたばかりで皇族と顔を合わせるような身支度もできていないうえ、気まずい。やんわりと扉を開けるえことはできないとリズが答えると、よいしょ、とウィルの声が聞こえた。どうやらドア越しに座り込んだようだった。




「今から出発なんだ」



 ウィルがついにヴェンパー討伐に出発する。それを聞いてリズの体がこわばる。ウィルはリズが聞いているかどうかを気にしていないのか、ひとりごとのように話し続ける。



「リズ。僕のせいでその。左腕を失うことになってしまって……。

 本当に申し訳ないと思ってる。僕の魔力が回復していないのに、二人だけで行動してしまった、僕のミスだ」


 ウィルは自分のせいで、と言っているがそれは違う。私は護衛騎士で、ウィルは護衛対象の皇族だ。帝国の護衛騎士であれば、皇族の魔力があろうがなかろうが、対象を護り切る必要がある。



「少し、浮かれていたんだ。最初のときのように、リズと二人だけで旅ができるから」



 私も、と言おうとしたリズの口はひらかなかった。

 冷静な自分が、「私も浮かれていて殿下を危険にさらしました」とでも言うつもりかと自らを責め立てる。



「帝都に帰ってから、ずっと考えてたんだ。アルフレッドと合流して、サイラスが仲間になって。ユーベルと一緒に旅をするようになって。シェリルと結婚して。

 ずっと、リズに守ってもらってばかりだった」



 守ってもらっていたのは私の方だ。どれだけウィルの障壁に守られて、救われたかわからない。ベッドの上で、リズは涙を流す。ぽつ、ぽつ、とシーツに染みが広がる。



「ううん、もっと前から。小さなころから、ずっと僕を護ってくれて、ありがとう。

 本当は一緒に行きたいけど」


 ウィルは立ち上がったようだった。


「リズに頼りきりは良くない。僕は皇族として、務めを果たさなければ。だから、行ってくるよ」



 ウィルの気配がドアの向こうから消える。リズは毛布に顔をうずめて、声を殺して泣いた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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