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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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11.袂を分かつリズ

 フェブリア皇女の護衛騎士ウルムガルドとアルフレッドが、行方不明だったウィルフォード皇子を保護して数日。応急処置が終わり、さらには配下のユーベルによる奇跡で体力もほぼ回復したウィルは王宮の自室に戻っていた。


 サイラスは一足先に回復し、一般客用の部屋で過ごしている。一般客、といってもエスタリア帝国の宮殿に招かれる客だ。平民の一軒家よりも広い部屋をあてがわれてしばらくはしゃいでいたらしい。


 ウィルの自室はさらにその上を行く。第四位とはいえ皇位継承権を持つ人物だ。”自室”はいくつもの部屋に分かれていて、ウィルが今いる応接室もその部屋の一つ。

 広い部屋はこれまた広い一枚のカーペットが敷かれており、これだけでいくらするのか想像もつかない。その上に白を基調としたテーブルセットが用意されている。楕円形のテーブルには椅子が八脚ついていて、椅子の背もたれは帝国の威厳を示せとばかりに天を衝く勢いで伸びている。体躯の大きなアルフレッドが座っていても、彼の頭上まで長さがあるほどだ。


 アルフレッドの隣にはサイラス、ユーベル、リズが座っている。向かいにはウィル。今日は帝国風の貴族然とした服装をしている。いわゆるエスタリアン・スタイルという伝統的な帝国貴族服は、ベースとなる濃いめのカラーに豪奢な金色の装飾が特徴だ。


 これまで旅をしてきたときは皆と大して変わらない服装だったが、こうして貴族の服をまとったウィルを正面から見ると、新鮮な気持ちになる。

 ウィルと間隔を少し開けて座っているのは、デューン第一皇子だ。これまでも皇位継承のための功績をあげられるよう、ウィルに様々な試練を課してきたこの皇子が隣にいるということは、次の指令があるのだということがアルフレッド、サイラス、ユーベル、リズにはわかった。


「まずは、ウィルをはじめ、君たちが無事にこの場にそろったことを祝おう。そして、今帝国がおかれている状況を話しておこうと思う」


 そういって、デューン皇子はウィルを襲ったヴェンパーの反乱、そして帝国南部に存在する、魔界の扉についても打ち明ける。



「つまり、殿下の障壁の魔法で、その『魔界の扉』とやらを封印する必要があるということですな?」

「そうだ。だがその前に、排除すべき障害がある」

「新しい国を作ったって言う、ヴェンパー皇子っスか?」

「そうだ」


 デューン皇子の話は分かりやすく、ウィルに求められていることが良く理解できた。だからこそ、なぜ、という疑問もわいてくる。


「発言をお許しください、デューン殿下。魔界の扉の封印とヴェンパー皇子がどう関係するのでしょうか?」


 ユーベルが尋ねると、デューンが答える。


「本当ならすぐにでもウィルに扉の封印に動いてもらいたいが、ヴェンパーがいるうちは無駄になる可能性が高いからだ。君たちはヴェンパーの固有魔法を知っているかい?」


「いえ、わたくしは、何も」


「ヴェンパー皇子の魔法が、何かあるんスか?」


 サイラスとユーベルは首を振る。アルフレッドとリズ、そしてウィルは知っているようだ。


「そうだ。ヴェンパーは”腐食の魔法”を使う。その魔法を受ければ、どんなものだって腐り落ちてしまう。盾だろうが鎧だろうが……そしてもちろん、ウィルの障壁だって例外じゃない。

 彼を何とかしないと、ウィルの障壁ごと魔界の扉の封印を腐食魔法で解かれてしまうかもしれないんだ」


「ではヴェンパー皇子の討伐が、我々の任務ですかな?」

「ああ」


 アルフレッドにデューンが答える。


「本来ならウィルは魔界の扉を封じるために失うことは許されない。だがヴェンパーが率いる南部諸侯と護衛騎士が動き出している。ヴェンパーだけにかかずらうわけにはいかないんだ。僕としても不本意だけどね」


 デューンは苦しそうな顔をする。


「フェブリアを戦場に送るわけにいかないし、オクタスはヴェンパーについた諸侯を抑えてもらうつもりだ。そして僕はヴェンパーの護衛騎士たちを抑える。ヴェンパーの護衛騎士たちに数と質で対抗できるのは、僕の勢力くらいだろうからね」


 そこまで言って、デューンは今までうつむいて何も発言していないリズを見て命令を下す。


「君たちは、ウィルと一緒にヴェンパーの討伐に向かってくれ」


「わ……私は行けません!!」


 デューンの命令に、リズが大声をあげた。


「リズ……」


 ウィルはうつむいているリズを見る。救護室でのことがあってからも、ウィルはずっと彼女に護衛騎士に復帰してほしいと毎日頼んでいた。しかしリズはかたくなで、「もう実力がおよばないから」とそれを拒み続けている。


「私は……行けません」


 リズは同じ言葉を繰り返す。


「でも姉さん」


「サイラス。いいんだ」


「殿下も。リズ様もそれでよいのですか?」


「ユーベル、ありがとう。でも、もうリズから答えは聞いているから」


 珍しくユーベルも食い下がったが、ウィルはリズの失われた左腕をちらりと見やると、自分に言い聞かせるようにそうつぶやいた。




「ウィル」


 デューンがウィルの方へ手を置く。


「裏切り者とはいえ、君も兄の討伐に向かうのはつらいだろう。こんな役割を押し付けてすまない」


「兄上……」


「討伐に必要な人員や装備はウィルに任せる。準備を進めておいてほしい」


 デューンは立ち上がるとリズの方へ視線をちらりと向け、そのまま部屋を出て行った。



 後には重たい空気だけが残っていた。


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