10.エスタリア帝国建国話と魔界の扉
「次期皇帝が決まっている!?」
「それでは、今の皇位継承戦は一体……?」
デューンが打ち明けた「次期皇帝はウィルフォードに決まっている」という内容に、オクタスもフェブリアも驚きを隠せない。
「いえ、そもそも、ウィルの話と大陸の存亡にかかわる危機とは、何か関係があるのですか?」
フェブリアはさらに疑問を投げかける。
「二人の疑問はもっともだ。そしてフェブリアの言った通り、この二つの話は関連しあっているんだ」
デューンは続ける。
「二人とも、エスタリア帝国の建国史は知っているね?」
「無論。初代皇帝ジュリアスと、腹心ヴァルキリーによる大陸統一と建国の歴史は、貴族であれば常識だ」
「もちろんです。私も、一般的な範囲であれば」
オクタスもフェブリアも皇族だ。幼少のころから歴史、政治は学んでいる。
今から数百年前、大陸における人間の支配地域は北部のごく限られた領域だけだった。大陸のほとんどの場所は平地はもちろん、山間部であろうと森であろうと魔物のあふれる未開の地だったのだ。
大陸統一に至るまでにも、当時の有力者によって何度か領土の拡張を試みた記録が残っている。しかし大陸の南へ進めば進むほど、魔物は強力になり数も増えていった。人間の暮らす領土と魔物の跋扈する地域の堺は、長い間寄せては返す波のように、南へ進んだり北へ戻ったりを繰り返していた。
記録によれば約五百年ほど前、突然人間の支配地域が広がり始める。森は切り払われ、畑が開墾され、町や村ができる。周囲を支配する強力な魔物を次々と討伐していったのは、のちに初代皇帝となるジュリアスだ。
「大陸北部から周囲の魔物を退け続けたジュリアスは、だんだんと南進していった。そして南に行くにつれ、しだいに魔物は強大になり、戦いは激化していった」
それが”ジュリアスの南征”だとデューンが説明する。
「ジュリアスが南征を成功させた立役者の一人が、腹心ヴァルキリー。
彼女は白銀の鎧をまとい、空を駆けて魔物から初代皇帝を守り討ち取ったといわれているね。
これが今の護衛騎士の始まりだ」
皇族を命を懸けて守る護衛騎士は、ジュリアスを生涯にわたって守護したヴァルキリーがもとになった。魔物がほとんどいない今日でも日々研鑽を積み、実力を高める護衛騎士たちは今ではエスタリア帝国の軍事的なよりどころにもなっている。
「ヴァルキリーの奮闘もあって、ジュリアスはついに大陸南端まで到達し、人類は大陸全土を支配下に置くことになる。
その後ジュリアスとヴァルキリーはとある港町で定住し、それが今の帝都ランスになっている」
ここまでのところは、オクタスもフェブリアも知っている。いや、帝国の貴族であれば全員が知っている内容だ。デューンが話そうとしていることは、さらに先にあるのだろう。
「ジュリアスは強大な魔物をすべて打ち破った。それほど強かった初代でも、ひとつだけできなかったことがある。」
「初代皇帝すら勝てなかった魔物がいるということか?」
「そういうことさ。ジュリアスが南へ進むにつれ、魔物の強さは増していった。
そうしてどんどんと強い魔物を倒していった先に、彼はあるものを見つけた。……魔界への扉だ」
「扉……ですか?」
「そう。おそらく、大陸にはびこっていた魔物たちは、すべてその扉から出てきていたのだろう。
そして、扉はそれまでと比べ物にならない強さの人型の魔物……魔人によって守られていたんだ。
ジュリアスは結局、その扉だけは破壊することができなかった。でも次々と魔物が現れる扉をそのままにしておくことはできない。
当時の魔法使いを集めて、魔人ごと封印を施した。扉は、ヴェンパーが反乱を起こした南部地域にある」
オクタスとフェブリアはなんとなく、デューンの懸念していることが分かりかけてきた。鍵になるのは、その「魔物を生み出す扉」だ。
「ヴェンパーが扉の封印を解こうとしていると?」
オクタスがそういうと、デューンは困ったような表情を見せた。
「ヴェンパーがそれほど愚かでないことを祈るけどね。
それに、ヴェンパーが何もしなくても、扉の封印は消滅寸前なんだ」
かつて大陸の大部分を覆った魔物の群れが、再び扉を通して出現するかもしれない。どれほどの犠牲が出るのかと想像して、フェブリアは身震いした。
「そこでだ。扉を再び封印する必要がある。
もともとは僕の氷の魔法を使う予定だったんだ。扉ごと、周囲を凍らせてしまおうとね。
でも、少し前にもっとおあつらえ向きの魔法が見つかった」
「ウィルの障壁か」
オクタスが反応する。ウィルの強固な障壁であれば、並大抵のことでは破壊されることもないだろう。確かにデューンの氷の魔法よりも、堅牢さで言えばより適している。
「そうだ。でも障壁の魔法を使えることが分かったとき、彼は十歳にも満たなかった。圧倒的に実力も、経験も足りなかった。
それで計画されたのが、皇位継承戦さ。もともとこの争いは出来レース。ウィルに経験を積ませて、扉の封印が外れる前に、一人前になってもらおうというわけだ」
ウィルはデューンの支持で帝国内を旅していたが、行く先々で戦闘に巻き込まれていた。それらはデューン皇子の計画通りということなのだろうか。
「オクタスはあまり皇帝に興味がないことはわかっていたし、僕はこの通り、父上――現皇帝陛下から秘密裏に内情を知らされていたからね。
本気で……帝国を割ってまで君主になろうとしたヴェスパーには、少し悪いことをしたとは思うよ」
はぁ、とため息をついたデューンは、少しすっきりとした顔つきをしているように見えた。
皇帝の第一継承権を持つ長男としての体面を維持しながら、裏ではウィルフォードを皇帝に押し上げるための策をめぐらせていたのだ。精神的にもプレッシャーがあったのだろう。兄弟に懺悔することで多少は肩の荷が下りたのかもしれない。
「その、お兄様」
ふいにフェブリアが問いかける。
「魔界の扉の封印は、大丈夫なのでしょうか?」
「そう。目下の関心ごとはそれだ。正直な話、もういつ封印が解けてもおかしくはない。時間はないんだ。そもそも封印が解けて魔物が湧き出す前に、ヴェンパーの件を決着させないと。」
多少は気が楽になった表情を見せていたデューンだが、フェブリアの不安が当たっているとでも言いたげに、再び緊張した表情に戻る。
「魔界の扉を確実に封じるためには、ウィルフォードの戦力強化が必要だ。本人自身もそうだが、彼の護衛騎士は重傷を負っているだろう?」
そういってデューンはオクタスへと目を向ける。
「オクタス。君はウィルの護衛騎士君のサポートをしてやってくれないか?まずは一度会ってみてくれ」
「了解した」
「フェブリア。君にはまた護衛騎士を借りることになるかな」
「はい。アルフレッドですね。本人もウィルの護衛であれば喜んで従うでしょう。それで、お兄様は?」
フェブリアの問いを待っていたかのように、デューンは答える。
「戦力強化が必要だって行っただろう?僕はウィルのサポートさ」
そういってニヤリと笑うデューンは、いたずらを仕掛ける少年のような顔をしていた。
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