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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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9.次期皇帝は決まっている

 豪奢な廊下には大きな窓から日の光が差し込み、明るい。日光に照らされた大理石の床をしとやかに歩く女性がいる。この帝国で最も高貴な人物の一人、皇女フェブリアだ。


 今日のフェブリアは機嫌がいい。

 行方不明だった愛する弟であるウィルフォードは無事見つかり、看護棟で治療を受けている。命に別状もなく、大きなけがもないようだ。先ほど様子を見たが、数日あれば元の暮らしに戻れるだろう。護衛が重傷を負ってしまったようだが、襲撃してきた相手を考えれば、被害は最小限と言えるだろう。


 ウィルフォードが見つかったことで、彼女の数少ない護衛騎士であるウルムガルド、アルフレッドも彼女のもとへ帰還した。数少ないといってもこの二人の護衛騎士は実力で言えばトップ1,2と言っても過言ではない。アルフレッドはしばらくウィルフォードのもとへやっていたが、今はフェブリアの傍で本来の主人を護衛している。


 無敵ともいえる護衛を両脇半歩後ろに従え、フェブリアはとある部屋へやってきた。これまで何度も足を運んだ部屋だ。中には兄たちがすでに待っているだろう。


「二人とも、外で待っていて」

「御意」


 ウルムガルド、アルフレッドを待機させたフェブリアは扉を開ける。護衛騎士すら入れないこの部屋には、この宮殿の将来の主候補ーー第一皇子デューンと、第二皇子オクタスがフェブリアを待っていた。


「よく来てくれたね。どうだった?」


 フェブリアがまだ席に着く前に、デューン皇子がウィルの様子を尋ねる。抜け目のない彼のことだから、すでにウィルの無事は確認しているだろうに、挨拶がわりなのだろう。


「元気なようでしたわ。数日もすれば、回復するでしょう」

「そうか。それはよかった」


 着席しながらフェブリアが答える。部屋は長方形をしていて、入り口から奥までが長辺側にあたる。部屋の形に合わせて長方形の会議机が置かれていて、デューン皇子は短編側に入り口側を向いて座っている。オクタス皇子はデューン皇子の右に腕を組んで座っていた。


 勢い、フェブリアは机の左側へと進む。ちょうどオクタスと正面に向かい合って座った。もちろん着席したフェブリアの左にはデューンが座っている。本当ならもう一人座っているはずの第三皇子がいるはずだが、今日はいない。いや、もう今後この会議室に入ることはないだろう。

 なぜなら……


「二人とも、もうわかっているとは思うが、ヴェンパーが反乱を起こした」

「……」


 二人とも表情は動かない。ヴェンパーから皇帝への書簡が届いたのは、ウィルが見つかったと連絡が入るのとほぼ同時だった。ヴェンパーは帝国南部の複数の貴族を従え、真エスタリア帝国と称する独立国家を建国。初代皇帝にヴェンパーが就任するとの宣言が書かれていた。


 事前に準備を進めていたようで、宣言に呼応するようにオリエンス王国から真エスタリア帝国を国家として承認する旨の書簡も同時に届いた。オリエンスからすれば、大陸最大のライバルが内部分裂して戦力を削りあってくれるのだから、喜んで認めるだろう。タイミングを見て、消耗した大陸西部に攻め入ればよいのだ。


「俺が征伐に出ればいいのか?」


 オクタスが口を開いた。


「話が早くて助かるよ」


 デューン皇子は疲れた顔でオクタスに応じる。戦術家のオクタスは、すでに南部の諸侯との戦闘を頭に描いているようだ。


「反乱に呼応している貴族の制圧は問題ない。厄介なのはヴェンパーだ」


「そうだね。ヴェンパーの独自魔法はかなり危険だ。できれば直接は戦いたくない。兵士たちを犬死にさせたくはないからね」


 聡明なデューン皇子のことだ。ヴェンパーの独立宣言を受け取る前から、ヴェンパーが反乱を起こすことは予想していただろう。そんな彼ですらヴェンパーとの直接の戦闘は避けようとしている。

 なぜなら帝国において皇族の魔法は比類なく強力だからだ。皇族同士がぶつかれば領土の広い範囲が焦土と化してしまう可能性すらある。


「兵力が問題か?帝国全土から徴兵すればよかろう。北部や東部の貴族も、他人ごとではないのだから」


「今、国内の兵力をむやみに動かすべきではない。ましてやヴェンパーとの戦闘で消耗してしまうことは避けなければ」


 オクタスの提案に、デューンは首を横に振る。


「では、広域殲滅魔法をお使いになられては?ヴェンパーの居住地域ごと破壊してしまえば、問題ないのでは?」


 今度はフェブリアが意見する。広域殲滅魔法は複数名の魔法使いが強調して発動する強力な攻撃魔法だ。通常魔法とは比較にならない長期間にわたる詠唱と、膨大な魔力を消費して放つ一撃は、大陸の地形すら変える攻撃力を持っている。


 もちろんそれほどの魔法を扱える魔法使いは帝都にしかいないうえ、詠唱期間中に邪魔が入れば簡単に発動を妨害することができてしまう。


「うむ……」


 少し悩んだように見えたデューンだが、フェブリアの案も採用するには至らなかったようだ。


「その案もダメだろう。急いでも1か月以上はかかる上に、ヴェンパーに気づかれるだろう。奴の手のものがまだ帝都にいないとは限らない」



 デューン皇子の様子を見ていたフェブリアが、違和感を口にした。


「お兄様は何を焦っていらっしゃるのかしら?」


「そうだな。常に一歩先を読んで行動する兄上らしくない。何か都合の悪いことでもあるのか?」


 オクタスも同じ考えだったようで、フェブリアと一緒にデューンの顔を真正面から見つめる。左右から兄弟に見つめられるデューン。数秒、沈黙の時間が訪れる。


……。


「……はぁ。わかった。話そう」


 デューン皇子はやはり何かを知っている。隠すことをあきらめた様子でため息をつく。


「確かに、僕と皇帝陛下はかなり追い込まれている。その理由は、帝国……いや、大陸の存亡にかかわる危機が迫っているからだ。ヴェンパーの件なんて、どうでもよくなるほどのね」


 ヴェンパーの反乱は大陸の覇者を競うエスタリアとの力学上、かなり慎重に扱わなければならないはずだ。しかしそれをはるかに超える危機があるというのか。オクタスとフェブリアは兄の次の言葉を静かに待つ。

 だが、デューンの口からはさらに驚くべき言葉が発せられた。


「あぁそれと、次期皇帝はウィルフォードに決まっているんだ」


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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