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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
護衛喪失編 <Lost Guard>
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8.護衛喪失

「はっ、はっ、はっ……」


 石畳の廊下をリズは走る。ユーベルによれば保護されたウィルは宮殿の看護棟にいるという。訓練場から宮殿はそれほど離れていない。いざというときに宮殿にいる皇族たちを守るために、訓練場は護衛騎士の詰め所としても使われているからだ。


「ウィル……」


 うわごとのようにウィルの名前をつぶやきながら、リズは看護棟の中でも身分の高い者のために用意された一室にたどり着く。鼓動が早いのは走ったせいなのか、それとも不安か。


「ウィル!」


 ノックもせず不躾にガチャリとドアノブをひねり、扉を開ける。

 部屋の中には背の高い大きな体格をした二人と、二人の間に一目で高貴な人物とわかる雰囲気を漂わせる女性がいた。


 突然の訪問者に、部屋の奥のほうを向いていた高貴な女性ーーフェブリア皇女ーーはこちらを振り向いた。そう、リズよりも先にフェブリア皇女が部屋を訪れていたのだ。皇女の両脇に立つ二人こそ、エスタリア帝国No.1、No.2の実力と名高い護衛騎士、アルフレッドとウルムガルド兄弟だ。


「リズ、体はもう大丈夫?」


 フェブリア皇女とアルフレッドの隙間から懐かしい声が聞こえる。ここ一週間、聞くことのできなかった声。あの時守り切れなかった声だ。

 リズがふらふらと部屋を進む。そこには、命を懸けて守るべき主人の姿があった。


「や。また会えたね」


 ベッドから上半身だけを起こした状態のウィルはすこし恥ずかしそうにそういうと、頬をかいた。


「ウィル……殿下……よかったぁぁ」


 力の抜けたリズはぺたりとその場に座り込み、号泣した。




****




「さて、私たちは行きましょう。ウルムガルド。アルフレッド」

「御意に」

「はっ」


 リズが少し落ち着きを見せると、フェブリア皇女は気を使ってか護衛騎士を連れてウィルの収容されている部屋を出ようとする。


「姉上。改めて、ありがとうございました。おかげ様で命拾いを」

「いいのよ。お礼ならあなた達を見つけ出したこの子たちに言ってちょうだい」


ウィルの礼にフェブリアは護衛騎士の働きだと返す。


「いえ、私どもはフェブリア様のご指示に従ったまで」

「その通り。すべてはフェブリア様のご采配ですな。人探しは苦手なもので、少し手間取りましたが!」


 ウルムガルドとアルフレッドは主人への忠誠の言葉を忘れない。普段よりも丁寧な言葉遣いのアルフレッドは少し新鮮だ。


「ウィル。まだ本調子ではないでしょう。ゆっくり休んでくださいね」


 そういってフェブリア皇女とその護衛騎士は部屋を出ていった。気を使って二人だけにしてくれたのだろう。


「……ウィル!」


 フェブリア皇女たちが部屋を出たとたん、リズはウィルへと駆け寄った。


「無事でよかった……ごめんなさい、私が力不足なせいで……」


 リズはまだ泣いている。ウィルが無事帰ってきた安堵感と、改めて己のふがいなさがこみあげてきた。


「リズ」


 ヴェンパー皇子の護衛騎士に襲われてから数日間、どのような生活を送っていたのかはわからないが、ウィルは少し痩せこけているように見える。体力が失われたのか、疲れからなのかはわからないが、声にも元気がない。


「僕のほうこそ、ごめん。その、左腕を……」


 ウィルはベッドの上で上半身を起こしたまま、駆け寄ってきたリズへ手を伸ばし、リズの失われた左腕へと目線を落とす。自分を守るために、リズは片腕を失ってしまった。ウィルの表情には疲れだけではなく、後悔の念がにじみ出ている。


「いいのよ。護衛騎士としての職務を果たしたんだから」


「リズ……」


 リズは努めて、明るい表情をしようとしている。そして、残った右腕でウィルを抱きしめた。


「本当に、無事でよかった」


 ウィルとリズは、お互いの無事を確かめ合うように抱きしめあう。体を通して伝わってくる体温が、大切な人が生きているという実感を与えてくれる。


……。


「あー。ごほっごほっ!ん”んっ!」


「!?」


 急に聞こえてきた咳払いに、リズは驚いてウィルから離れる。周囲をきょろきょろと見回して見つけたのは……


「サイラス!?」


 ウィルのことばかり気にしていて全く視界に入っていなかったが、部屋にはベッドが二つ並んでいた。入り口側のウィルが寝ているベッドの奥に、もう一つベッドがある。

 初めて視線をそちらに向けると、ウィルと同じように上半身を起こしてサイラスがベッドの上にいるではないか。


「あんった……なんで……?」

「なんでって、あの時アルの旦那がリズねぇさんを助けて、俺は殿下を保護してたんスよ。

 それにしてもリズねぇさん、殿下にくっつきすぎじゃないスか?俺のこと忘れているみたいだったし……」


 からかうようにサイラスがいうと、リズは顔を赤くする。


「は、はぁ?私は護衛騎士として!」

「いや、まぁ俺は別にいいんスけどね?」

「よくない!何か勘違いしてるわね!」


 久しぶりに元気のよい二人のやり取りに、ウィルは少し懐かしさを感じてしまう。これをなだめるのも久しぶりだ。


「まぁ、まぁ。リズ、サイラスのおかげで僕は帝都まで帰ってこれたんだ。あんまり怒らないであげて」

「そうっスよ。殿下と俺はヴェンパー皇子の兵士に追われて大変だったんスから!」


 サイラスが魔力が枯渇したウィルを無事送り届けてくれたのは事実だ。アルフレッドと同様に、彼がいなければウィルとリズは生還できなかっただろう。


「ぐっ……」


「本当に。サイラスとアルフレッドのおかげだよ。ありがとう」

「いやー。殿下に正面からお礼言われると、なんかテレますね」

「僕の魔力も戻ってきているし、体力が戻ったらまた五人で帝国を回ろう」


 ウィルとサイラスは笑って、次は北部に行ってみたいとか、まずは帝都周辺地域から回ってみようなどと言い合っている。

 だがそれを聞いたリズの反応は二人とは違っていた。


「そのことなんですが、殿下」


 うつむいて深刻な声色で話すリズに、ウィルとサイラスはきょとんとしている。そしてリズが言い放った一言は、ウィルを驚愕させた。


「私……殿下と一緒には行けません」


「えっ?どういう……」



 リズは下を向いたまま目線を合わせない。


「今回、私は殿下をお守りできませんでした。アルフレッド様がいなかったら殿下の命が危なかった。護衛騎士失格です。」


 しん、と静まった部屋にリズの言葉だけが広がる。リズは淡々と言葉をつないでいく。


「それに、今回の戦いで私の護衛騎士としての能力は大幅に下がってしまいました」


 リズは左腕を失った。そのことを言っているのだろう。

 これまでのリズは左手に盾、右手に長剣を持つスタイルだった。防御のかなめである盾を扱えなくなってしまったのだ。


「殿下をお守りするには、私は十分ではありません。」


「で、でも」


 ウィルが口を挟もうとするが、リズはそれを許さない。


「ですから!私は殿下の護衛騎士をやめます!」


リズは立ち上がりながらそう叫ぶと、部屋を出て行ってしまった。


「リズ……」

「ねぇさん……」


 部屋に残された二人は、突然の宣言に混乱してそれ以上話すことができなかった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます


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