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絶対防御の魔法使い  作者: スイカとコーヒー
東部遠征編 <Bandit of the East>
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8.サイラスを追う三人

 オルドレスの町はパーセル侯爵邸の周囲を取り囲むように広がっている。ウィル達がその街を南にずっと下っていくと、町はずれに神聖教の教会がぽつんと立っていた。


 町の中央からずっと並んでいた民家が急に途切れると、教会の土地なのか、丈の短い雑草が生えた敷地を挟んで教会の聖堂が立っているのが見える。教会の入り口までは並木道が続いていた。地面からまっすぐ上に伸びた木の幹はなかなかに太く、植えられてから数十年たっていると思われる。


「立派な並木道だね」

「しっ!殿下、あの男に気づかれますよ!」


 声は小さいがすごい剣幕でリズがウィルをたしなめる。一度取り逃がしたことが悔しいのか、リズからは何か何でも捕まえてやろうという気概を感じる。


 神聖教を手掛かりに青い髪の男を探していたウィルたちは、オルドレスには神聖教の教会が1つしかないことを聞き、まずは教会に向かうことにした。

 あまり期待はしていなかった三人だったが、教会に向かう途中であの青い髪の男を見つけ、ここまでつけてきたのだ。


 男は教会へ向かう並木道を進んでいく。慣れているのか、歩くスピードは鈍ることなく教会へ向かっている。


 並木道に三人が差し掛かったところでリズが立ち止まる。


「しばらくここから様子を見ましょう。このまま進むと身を隠せません」


 ちょうど、青い髪の男は並木道を抜けて教会の入口へ着いたようだった。男が教会の扉に手をかける前に、中から五、六人の子供が飛び出してきた。

 年齢は様々なようで、まだ走るのもたどたどしい子供もいれば、もう青い髪の男と同じくらいの背格好の子供もいる。ウィルたちは神聖教について聞きまわっている間に、この教会は孤児院をやっているということも聞いていた。神聖教の教会がこのように身寄りのない子供や雨風をしのげない者たちの避難所的な役割を果たしているのはよくあることだ。


 女神シーラの生み出した人間には、あまねく女神の恵みを受け取るべきであるというのが神聖教の主張だ。信者たちは物資や金品を教会に差し出すことで、女神シーラがすべての人間に恵みを与える協力をしているのだ。


 子供たちと男は知り合いらしく、親しそうに話している。男はマントの中から何かをー-食料などだろうー-取り出すと、一番年長の少年に渡している。


「殿下、やはりあの者が殿下の魔杖を持っていたようですな」


 見ていると確かにウィルの魔杖だ。男は杖を取り出すと、近くの少年に杖を渡した。少年は珍しいおもちゃとでも思ったのだろうか、嬉しそうに杖を振り回しながら、教会の中に入っていった。


「あっ殿下!杖が!教会の中に入っていきますよ!」

「わかってるってリズ。興奮すると見つかるよ?」


 三人が様子を見守っていると、ほかの子供たちも楽しそうに声をあげながら教会の中に入っていった。代わりに出てきたのは、女性の神官だ。


「殿下!今がチャンスでは!?あの青い髪の男ならともかく、杖を持っているのは教会の中にいる少年です。いくら魔法が使えない殿下でも一発カマせば取り返せるでしょう!」

「リズ、それじゃ僕が強盗みたいじゃないか……?」


 むちゃくちゃなことを言い出すリズにウィルが反論している間に、青い髪の男はマントから何やら袋を取り出した。


「コイン、のようですな」


 アルフレッドの言う通り、袋の様子からみてお金が入っているようだ。女性神官ははじめ手を振って遠慮していたようだったが、男が神官に無理やり押し付ける形で袋を渡す。


「しかし……」

「何かあるの?アルフレッド」

「あの男がパーセル侯爵の言う盗賊だとすると、袋の中身が全部金貨だとしても、あれだけでは盗んだ金額とあいませんな」


 公爵の納税が滞るほどの金額だ。革袋の一つや二つに入るような金額ではない。


「どこかに隠しているのではないですか?それより殿下、早く魔杖を奪いに行きましょう」

「”取り戻しに”ね。さっきも言ったけど、こっちが強盗みたいな言い方はやめて」


 リズは相変わらず魔杖のほうが気になって仕方がないようだ。


「それに、パーセル侯爵の依頼もあるんだよ。あの男が盗賊なんだとしたら、盗んだものの場所をなんとか聞き出さないと」

「それが良いですな。パーセル侯爵が言っていた被害額は、とても盗賊一人で持ち出せるような金額ではありません。何かからくりがあるのでしょう。あるいは……」

「あるいは?」


 アルフレッドは何やら意味深な口ぶりだ。ウィルがそれについて問いただそうとしたとき、青い髪の男と話していた神官が教会へと戻っていった。

 青い髪の男は、袋を渡した後に二言、三言だけ神官と会話したようだが、半ば強引に神官を教会の中に返したように見えた。


 教会の扉が閉まると、それを合図にしたかのように青い髪の男が並木道のほうを振り返る。いや、正確にはウィル達のほうに向きなおったというべきか。



「気づかれていたようですな。出ていきましょう」

「ちょっと、アルフレッド様?」


 さすがというべきか、相手は得体のしれない男だというのにアルフレッドは全く躊躇なく並木道を進み始める。もしかすると、あの男のスピードを警戒して、一直線でウィルを狙うルートを自らつぶしに行ったのかもしれない。

 一歩遅れて後ろからリズとウィルがついていく。青い髪の男は三人が近づくまで特に動くことはなかった。神官と話をしていたままの無防備なままだ。



「俺のこと、つけてたんスよね?」


「ああ、そうだ。お前の名は?」


 普段とはトーンの違う声で、アルフレッドが答える。無造作に近づいているが、彼はすでに戦闘態勢にある。


「……サイラス」


 ここにいる四人、アルフレッドだけではなく青い髪の男も、リズもウィルも、ぴりついた空気を感じ取っていた。緊迫させすぎたと考えたのか、アルフレッドはいつもの穏やかな口調で名前を尋ねた。


「サイラス。お前が持っていた魔法杖はここにいらっしゃる御方のものだ。返してもらえないか?」


「へぇ。そーっスか。あれはその辺で拾ったんスよ」


 おどけて見せるサイラスに、リズが食って掛かる。


「はぁ?!あんたが殿下の魔杖を盗んだんじゃない!!」


 リズは剣の柄に手をかける。もしここが帝都であれば、彼女が激怒するのも自然なことだ。彼らのまとっているヴァルキリーと魔法の杖の紋章をあしらった装備をみて、帝国護衛騎士だとわからない者はいないし、帝国護衛騎士に失礼な物言いをするものもいない。


 だが帝国は広い。地方へ行けば護衛騎士の存在は知っていたとしても、一目でそうとわかるものは多くはない。あいにくリズはこれまで帝都を離れたことはなく、そういった者もいることに頭が回っていなかった。


「リズ、おちついて!」


 後ろにいたウィルがなだめる。だが、意外にも剣呑な雰囲気を出し始めたのは、サイラスのほうだった。


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