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10───────────“竹内翔”


ヨーコは、「その男」を食い入るように見つめ続けた。知り合いの泥棒によく似た、警視庁の男を。



「初めまして」

その男が軽く頭を下げる。流麗な動きだ。

「竹内翔と申します」

 そして、本町署の刑事たちをぐるりと見渡すと、こう続けた。

「…今回の事件では、第一に患者の安全を守らなくてはなりません。いざという時に備えて、本庁の警官も張り込んでいます。私はその代表として、挨拶申し上げます」



ヨーコは、竹内翔から目を離すことが出来なかった。見れば見るほど、彼が山川圭二と瓜二つに思えたのだ。涼やかな切れ長の目元も、体型も。ただ、歳は10ほど違うかもしれない。竹内には、どこか貫禄が漂っている。



「よろしくお願いします」

竹内が再び軽く頭を下げると、刑事たちも恐る恐る会釈を返した。刑事たちは、普段は本庁の人間と付き合うことなど殆どない。だから、どう付き合っていけばいいかわからずに、誰もが少々戸惑い気味だ。



しかし、竹内はそんなことなど全く気にしていないようだった。リラックスした様子で再度刑事たちを見回す。すると、ヨーコと竹内の視線がピッタリと重なった。



「初めまして。桐原さんですよね」

竹内が微笑んだ。



「え…」

ヨーコはうろたえた。

「どうして…」



「どうして私が貴女のことを知っているか、聞きたいのでしょう?」

竹内はサラッと言う。



「そ、そうです」

何とか気持ちを落ち着かせ、ヨーコは答えた。

「あの…どこかでお会いしましたっけ?」



「ええ。貴女は気付いていなかったかも知れませんがね。また後で、ゆっくりお話しましょう。お茶でもしながら、ね」

竹内は、落ち着いた様子で笑う。


「は、はいっ」

ヨーコは慌てて頷いた。



 その様子を見ていて、面白くなかったのは角川だ。ゆったりとヨーコを誘う竹内が、なぜか憎たらしく感じられたのだ。しかも、二人は以前会ったことがあるという。角川は、焦りにも似た感覚を覚えて、密かにギュッと拳を握った。



「では、皆さん。職務に当たってください」

竹内の声と共に、刑事たちは持ち場へと散っていった。




「…麗奈」

他の刑事たちが離れていってしまうと、岩波がひっそりとマドンナに近づいた。

「俺の張り込み場所は、五階だったよな?」



二人は、本町署の中では一目おかれるベテラン刑事だ。同期ということもあり、互いのことをよくわかりあっている。マドンナのことを本名で「麗奈」と呼ぶのも、岩波だけだ。だが、その分喧嘩もたえないのだが…。


「ええ、そうよ。岩波さんは五階」

マドンナが、書類をクリップボードにまとめながら答えた。

「…それで良かったでしょ?岩波さんの手で、“あの子”を守ってあげられるから…」



「───あぁ」

岩波が頷いた。

「…ありがとな、麗奈」



「やめてよ、もう。岩波さんがお礼を言うなんて気味悪いわ」

マドンナが苦笑しながら肩をすくめる。

「ほら、さっさと持ち場に行って」

 彼女の言葉は、照れ隠しだった。



「…」

岩波は無言で小さく口元に笑みを浮かべると、その場をゆったりと去っていった。




「────…バカね、私ったら」


マドンナはため息をついて、岩波の後ろ姿を見送った。



 その頬は、本当に微かに赤く染まっていた。恐らく、このことに岩波は気付かなかっただろう…。


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