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8───────────岩波の謎



「うわっ!危ねぇな、ドアの前なんかに立ちやがって!」

岩波が苛立った声を上げる一方、角川はぶつけた頭を抱えてヨロヨロする。



岩波は石頭だ。ぶつかっても涼しい顔をしている。

「おい角川、何でお前がここにいる」



「マ、マドンナさんに頼まれて…」

角川はズキズキ痛む頭を抱えて呻きながら答えた。



「麗奈が?」

岩波が顔をしかめる。

「…──あいつ、お前に何もかも喋ったのか?」



「え?」

角川は涙目になりながら岩波を見た。

「何もかも、ってどういうことですか?」



しかし、岩波は答えなかった。少し角川から眼を背ける。

「…知らないなら、それでいい」



角川にとっては、何だか腑に落ちない言葉だった。「実はね…」と切り出されたのに「やっぱり何でもないよ」と言われた時の感覚に似ている。



しかし、これ以上追及すると岩波の雷が落ちそうだったので、角川は仕方なく話題を変えた。

「ここに、岩波さんの知り合いが入院してらっしゃるんですか?」



その途端。



 ほんの僅かだが、岩波の目蓋が確かにピクッと動いた。



 だが、彼は答えず、そのまま角川に背を向けて歩きだす。その歩き方は、どことなく乱暴だ。



「あ!ちょっと待ってくださいよ、岩波さんっ」

慌てて角川が後を追った。どうやら、岩波が病院にいた理由は聞き出せそうにない…。





「犯行予告…?」

角川の報告を受け、岩波は顔をしかめた。

「随分と大胆なことをするヤツがいるもんだな」



「まったくです」

シロップをたっぷり入れたアイスティーを啜りながら、角川が頷く。



ここは、病院内のカフェテリアだ。ガラス張りの窓から、さんさんと陽光が降り注いでくる。



岩波は仏頂面のままエスプレッソをグイッと飲んだ。そして、再び口を開く。

「…つまり…万が一に備えて患者を移動させた方がいい、と言いたいんだな?」



「はい。その通りです」

 角川が頷く。

「マドンナさんも、そう言ってました」



「だがな、それはムリだぜ」

岩波はにべもなく言った。



「え…な、なんで…ですか?」

角川は眼をパチクリさせながら上司を見る。患者を救う最善策だというのに、どうして否定されなければならないのだろうか。



「バーカ。考えが単純すぎるんだよっ」

岩波はふうっと息をつく。

「患者の中にはな、生命維持装置で生きてるヤツもいるんだよ。それを一朝一夕で安全に外して、他の病院に移すなんて不可能だ」



「は…はぁ」

角川は再び瞬きした。岩波の言葉に、妙な熱っぽさを感じたのだ。だが、それは気のせいだったかもしれない。



 岩波が静かに続けた。

「俺たちにできることは…犯行の前に、被疑者を捕まえることだ」


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