表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/45

7───────────角川の憂鬱


吉祥寺本町総合病院。


 最先端の医療技術を取り入れた、都内でも有数の大病院だ。


 6階建ての建物で、3階部分までが全面的にガラス張りになっている。そのモダンな外観は、テレビドラマの撮影にも何度か用いられた。



今、その病院に向かってトボトボと歩く男がいる。中肉中背で、いかにも真面目そうな雰囲気を漂わせているのだが、メガネが僅かに傾き、背中も少し曲がり気味だ。



「はーぁ…」

その男───角川は、深い深いため息をついた。



火災が起きたとき。ヨーコを守りたかったのに、逆に足を引っ張ってしまった…。



その思いが、彼をションボリとさせる。



…────桐原さんは、私のことをどう思っただろうな────…



考えれば考えるほど、自分が情けなく感じられた。しかし、いつまでも憂鬱な気分でいる訳にはいかない。角川は、「犯行予告」の内容を病院に伝えるためにやってきたのだから。



 病院のエントランスへと足を進める。



そこは、空港を連想させるような、解放感溢れる巨大なフロアだった。看護師や医者が忙しそうに行き交い、点滴を刺した患者達がのどかに談笑している。


 生死の境を彷徨う急患も受け入れている救急病院だが、昼下がりの穏やかな空気が満ちていた。



角川はマドンナに教えられたとおり、エレベーターで真っすぐ五階に向かう。その一室に岩波がいる、と言われたのだ。病院内なので携帯の電源は切っているだろう、ということで角川が出向くことになった。



「岩波さん、体調でも悪いのかな?…いや、それはないか」

誰もいないエレベーターの中で、角川は呟いた。いつも現場にいる鬼上司・岩波が、病院にいるとは珍しい。それに、彼は体調を崩すような男ではなかった。

「ってことは…誰かのお見舞い、かな?」



  エレベーターが緩やかに止まり、ゆっくりと扉が左右に開く。



五階に降り立った角川は、病室が等間隔で並ぶ廊下をキョロキョロと見回した。マドンナに渡されたメモを頼りに、一番奥のドアまで歩いていく。



509号室。

 その部屋の前まで来た時、突然中から岩波の低い声がした。角川は、ドアに伸ばしかけていた手をピクッと止め、思わず立ちすくむ。



「じゃあな。…また明日にでも来るから。待ってろよ」



岩波の声は、ぶっきらぼうだが、とても穏やかだった。いつもの怒鳴りっぱなしの彼とは全く違う。今の声には、どこか優しさが滲み出ていた。



…────岩波さん!?



角川は驚きに口をポカンと開ける。だから、病室内から岩波本人が出てきた時、反応が遅れた。



 ゴツッ!



 角川は、思いっきり岩波と正面衝突してしまったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ