6───────────犯行予告!
間もなく、フロアの火は完全に消火され、静寂が訪れた。くすぶっている灰色のカーペットだけが、騒動の大きさを物語っている。
「とんだ災難だったわね」
マドンナがため息をついた。
「被害がカーペットだけだっただけでも、感謝しなくちゃいけないわ」
「そうですね…」
長髪の高橋刑事が、やれやれと首を振る。
「まさか、署内でこんな事件が起こるとは。早く被疑者を捕まえなければ、警察の恥を世間にさらしてしまうことになりますね」
「もっともだ」
松田が答えた。
「こんな事件の被疑者も捕まえられないんじゃ、市民になんて揶揄されるか」
「大体ね、最近私たち狙われすぎなのよ」
イライラと呟いたのは、ザザだ。
「みんな覚えてるでしょ?四月の事件」
一同、頷いた。
「四月の事件」と言えば、本町署の人間なら誰でもわかる。警察庁長官の息子・文春が何者かに誘拐されたのだ。犯人は警察に恨みを持つ姉弟で、井の頭公園を丸ごと爆破するという凶行にまで及んだ。
「今度の被疑者も、私たちに恨みがあるんじゃないかしら?」
ザザが面倒臭そうに言った。
「そうだな…」
松田が考えこむ。
刑事たちの大半が、ザザの意見に賛同する声を次々に上げた。
しかし、ヨーコが小さく否定の声を上げたことで、そのざわめきもサッと消え去る。
「これ見て…」
ヨーコは、静かにデラックス天丼を掲げた。火災騒動の最中も、実はしっかり天丼を守っていたのだ。あんな騒ぎの中でも自分の食料を確保しようとする辺り、流石ヨーコである…。
が、今ヨーコが刑事たちに見せたいのは「天丼」ではなかった。
天丼の蓋に挿まれていた、一枚の紙切れを見つけたのだ。天丼が発する水蒸気で湿ったそれの表面には、おどろおどろしい赤い文字が踊っている。
「それは…何?」
恐々とマドンナが尋ねる。
「読み上げます」
ヨーコが、厳しい表情で答えた。
「…明日の夜9時、吉祥寺本町総合病院を爆破する。これは、戦いだ。敗戦者は死をもって償え…────要するに、犯行予告です」
「なんだって!?」
刑事たちが騒めいた。署に火を放った者が、犯行予告をしていたなんて。更なる事件の予感に、彼らは皆緊張をみなぎらせていた。
「…早く、総合病院の方に連絡をとらないと。患者を避難させなくては」
高橋が言った。
すると、マドンナが刃物のような視線を刑事たちに向けた。
「岩波さんに連絡をとって。彼は今、総合病院にいるはずよ」