34───────────*エピローグ*
Mr.Justice第一部は、これにて完結です。(^^)
ヨーコちゃんと“あの人”との関係は、どうなるのか…!?
引き続き、第二部も連載します。
第二部では、第一部で触れられなかった恋の要素をふんだんに取り入れる予定、です!!
が…私奥山メイは、大学受験のシーズンを迎えてしまいましたw(°O°)w
そのため、第二部連載は三月〜となります。
それまでは番外編のみの連載となりますが、そちらも是非!読んでみてくださいね(宣伝中。笑)
本編より三年前の、切ない恋物語です。
では、本編でまた会う日まで…忘れないで下さいね〜(笑)!!
「山川さーん」
受付で、ナースが呼んでいる。
「はーい」
のんびりとした返事。
彼は、読みかけの雑誌を長椅子に置いて、立ち上がった。
これから、全てが始まる。
*
「無事に終わったのかなぁ…」
春限定・苺クリームフラペチーノを口にしながら、ヨーコが呟いた。
ここは井の頭公園に程近いスターバックスコーヒー。ヨーコは、角川と並んで、窓際のカウンターに腰掛けていた。
「大丈夫ですよ、彼は」
角川は呑気にエスプレッソを啜った。
「額に怪我したあとなのに、桐原さんを抱えたまま、天窓から天使の館に侵入する体力の持ち主ですからね。
手術くらい、なんてことないですよ」
「そうだったらいいんだけど…」
ヨーコは表情を曇らせた。
山川が、怪我の手術を受けることになったのは、つい昨日のことだ。
一般人である山川の事件解決への協力を知った佐倉長官が、手術費用を出すと申し出たのだ。
山川は、最初は丁重に断った。
こんな大金、貰うわけにはいかない、と。
しかし、佐倉長官は引き下がらなかった。
「君は文春の命を救ってくれたんだ。
何か君にお礼をしなければ、私は落ち着けないよ」
「…」
「…費用のことが、そんなに気になるのかい?」
「はい」
山川は口籠もりながら、しかしはっきりと長官を見つめた。
「俺の力じゃ、とてもじゃないけど、こんな大金返せないっす」
長官は苦笑いした。
「返さなくていいんだよ。お礼なんだから」
「…でも…」
山川は、居心地悪そうにモゾモゾした。
今まで、こんな風にお金を貰ったことなど無かった。ましてや、弟妹の養育のためではなく、自分のためのお金。
「そんなに、気になるのかい?」
長官が優しく声をかけた。青年は、小さく頷く。
すると、長官はチラッと横にいたヨーコに目をやり、ほほえんだ。
「じゃあ、こうしよう。
もし、また何か桐原くんが悩むような事件があったら…今回のように、君が支えてやってくれないか。
これなら、君も“お金を貰った”という気はしないだろう?」
こう言われてしまうと、山川も拒めない。
たどたどしく「ありがとうございます」と告げた。
ヨーコは、安心していた。山川が痛みをこらえてムリしてでも、治療を拒み続けていたのが気に掛かっていたからだ。
けれど、安心すると同時に深い不安も、ヨーコの心を覆っていた。
怪我して以来、ずっと無茶して動いてきた山川。
すぐに治療しなかったせいで、悪化してはいないだろうか。
治らない、ということはないだろうか。
ひょっとして、麻酔をかけられたまま、二度と目を覚まさなかったら…!!
そこまで大変な怪我ではないのに、ヨーコの心配はつのるばかりだ。
さっきから何度も腕時計に目をやるのも、その気持ちの表れ。
「もう、二時間が経ってる…」
ピンクのルージュをひいた唇で、呟いた。
「そういえば、桐原さん」角川がエスプレッソのマグで手を暖めながら口火を切った。
「…岩波さんのこと。気にしてましたよね。怒ってるんじゃないかって」
「…う、うん…」
いきなり話題が苦手な岩波のことになり、ヨーコはちょっぴりうろたえた。
「やっぱり、怒ってるでしょ…?」
おそるおそる、訊ねる。
ミスを犯した時、ヨーコを怒鳴り付けた岩波。
天使の館では、怒鳴るばかりではなく、ヨーコの頬を叩いた。
…わたし、岩波さんに嫌われてるのかな…。
事件が終わった今も、そう感じずにはいられない。
しかし、角川は氷柱のような凜とした眼で、ヨーコに笑いかけた。
「大丈夫。岩波さんは、ぶっきらぼうなだけですから。本当は、桐原さんのこと大切に思ってますよ」
「……」
信じられない、という顔で、ヨーコは角川を見つめ返す。
岩波が、ヨーコを大切に思っている?
そんなことが、有り得るんだろうか?
「ウソじゃないですよ!」あわてて、角川が言った。「ホントですって!私、聞いたんですからっ」
「何を?」
ヨーコは、訝しげに角川を見た。
角川が岩波とペラペラ喋るというだけで、信じがたい話だ。
ヨーコの表情に、角川が言い訳した。
「もちろん、天と地がひっくりかえっても、岩波さんは自分からそんなこと言ったりしませんよ?
私が聞いたのは、そのぅ…岩波さんの、うなされ声で」
「は、はぁ!?」
ヨーコは吹き出した。
「何それっ」
しかし、角川は真顔だった。
「井の頭公園で、岩波さんが気を失ってた時のことです。彼、悪夢でも見てたみたいで、すごくうなされてたんです」
「あらあら。岩波さんでも悪夢って見るのねぇ」
「ちゃんと聞いて下さいよぉっ!」
角川が膨れた。
「岩波さん、必死に叫んでたんです。
『桐原、早まるな!桐原、戻ってこい、桐原!!』
って。
何度も、何度も」
「…」
ヨーコはぱちくりと瞬きした。
「本当に嫌いな人の名前を、あんなに必死に呼ぶなんて…ありえませんよ」
角川が言った。
「岩波さんは、桐原さんを嫌ってなんかない。
本人も気付いてないかも知れませんが、大切に思ってるはずです。
だから、一人前の刑事に育てるために、厳しくあたるんですよ」
「…」
ヨーコは、ぼんやりと聞いていた。
…今の話は、本当なんだろうか?
角川の思い違いではないのか??
けれど、角川が嘘をついているとも思えない。
第一、彼は上手に嘘をつける人間ではないのだ。
じゃあ、今の話は、真実?
そう考えると、不思議に呼吸が楽になった。
重くのしかかっていた胸のつかえがとれたようだ。
何だか元気が湧いてくるような気さえする。
「…信じるわ」
ヨーコはフフッと笑った。「岩波さん、そんなこと言ったんだ…」
「はい」
角川がニッコリした。
「あ、でもこのことは岩波さんには内緒ですよ?」
「わかってるわよ」
ヨーコがニヤッとした。
その時。
握っていた携帯電話が鳴った。
着メロは、電子音の『ムーン・リヴァー』だ。
ヨーコは、パッと電話に出た。
…一瞬強ばっていた表情が、みるみるうちに輝きだす。
まるで、太陽のごとく。
「山川圭司のバカァっ!」
叫ぶなり、彼女は思わず立ち上がった。
こらえていた涙が、安心と共にあふれでる。
それを拭おうともせず、彼女は泣き笑いしながら怒鳴った。
「ドアホっ!マヌケ!
許さないからぁ!こんなに心配させてぇっ!!」
『あれっ、ヨーコが心配してくれてたんだ?意外だなぁ』
青年の明るい声が、通話口からもれて角川にも聞こえた。
まるで、ニヤッと笑った顔が思い浮べられるような、そんな声だった。
Mr.Justice 完
第二部に続く!!