A07「赤紙」
「ごめんくださーい」
ガラガラと音を立てながら戸が開く。
訪問者が現れた。
「はーい?」
おじさんが対応する。
「赤紙でーす」
「赤紙…?」
「ええ、皐月秀一さん宛です」
「秀一…?そんな馬鹿なっ…」
「とりあえずこの紙に書いてある時間に来てくださいよ。お願いしますね、逃げると銃殺刑ですからね…」
そう言って、赤紙をおじさんに渡すと帰っていった。
「……秀一…?なんで?お前は海軍学校に入って戦死したんじゃ…」
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そんなやり取りが玄関から聞こえた。
(はぁ…)
「おい」
おじさんに聞かれないよう静かに、少し強めな口調になる。
びくっと咲の身体が揺れる。
「な、なによ…?」
「…なんですでに死んだ秀一さんの名前を出した…??」
「……はぁ……ちょっとね…賢者の石のために…」
めちゃくちゃ溜息をつかれながら言われた。
少しムッと来て、思わず
「賢者の石ってどこにあるんだよ!」
これまた静かに強い口調で言い返してしまう。
咲は周りを見渡して、
「……ちょっと来て…」
そう呟いた。
庭に行き、会話を再開させる。
「…賢者の石はある兵士が持ってるのよ。
もう死んでるとは思わなかったけど…」
「はぁ…」
溜息をつく。
「…もしかして皐月秀一?」
咲の顔が上下に振れる。
「……おーい、お前ら〜どこだ〜?」
おじさんの声がする。
「……簡潔に話すわ。あんたはあの令状通り動きなさい。皐月秀一として。」
「は?」
「そして皐月秀一の遺品を貰ったら、すぐに帰ってきなさい。そうしないと、多分あんたは死ぬわ」
「…いや、なんで故人になりすまさなきゃならないの?」
「…ちょっと事情がね」
「……」
咲を睨む。
「…ごめんって」
「…まぁいいか…それで、帰ってくるって…どうやって?」
「……傷痍軍人よ」
「傷痍軍人…?……っ…自分で自らの身体を傷つけろっていうのかっ…?」
自傷行為しろっていうのかよ…
「…大丈夫、私の魔術で治せるわ」
(なんだよそれ…)
そう言いかけたとき、おじさんが庭に出てきた。
「…お前ら、そこにいたのか。ほれ、昼飯食うぞ」
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「…ちょっと、いい?」
飯を食い終わり一息ついたときに咲に呼び出された。
「…ちょっと、庭に……はぁ…」
そう言われ、庭に出る。
溜息ばかりついている。
「そんなにため息ばかりついてどうしたんだ?」
「…あんたには関係ないでしょ」
冷たい目で見られた。
いけないことでも言ってしまったんだろうか…
「…ふぅ……まぁいいわ…さっきアスティから通信が来たわ」
また溜息をつく。
「…アスティ……?ああ、アストライアスだったか」
「それで内容は?」
「通信のやり方、聞かないのね。あなたなら聞くと思ってたけど」
「どうせ魔術かなんかだろ」
「フフッ」
笑みを浮かべた。
だが、その笑みはすぐに消えた。
「…今度の夏、大規模な海戦が起きるはずだったわ」
「マリアナか」
即答した。
マリアナ沖海戦…44年の6月21日だったか。
翔鶴、飛鷹、大鳳ら空母3隻と大量の航空機を失い、機動部隊が壊滅した、あの忌まわしき海戦だ。
「よく知ってるわね」
「ああ、その分野は詳しいからな」
「空母3隻と大多数の航空機を失い、敗戦の決定打となった海戦だな…それでマリアナが何だ?」
「…あなたがいるとマリアナ沖海戦は起きない」
「…は?」
「あなたの存在が、本来の歴史を大きく変えようとしてる…」
「現に、あなたがさっき食べた鯛…本来なら食べられることは無かった」
「…はあ…??」
「…アスティの予知眼によると、この80年後の202X年…君の母国である…日本国はすでに存在せず、植民地と化してる…」
「…っ……?!」
「ともかく…余計な行動は慎むこと。
そしてあなたが存在していることによる歴史改変の被害を最低限抑えること。
そのためには私の指示に従いなさい。いい?」
「お、おう…」
妙に強い口調だな…
まぁそうか…俺の行動が、未来の世界を滅ぼすんだから…