A05「1944」
「はいこれ、アスティからのプレゼント。」
村瀬はそう言うと、鞄から茶色い棒を取り出した。
杖だ。
その杖は腕ほどの大きさで、先が尖っており、根本は茶色い蔓のようなものに何重にも巻かれている。
「…アスティの自作杖よ。名前は『閃光光杖』だったかしら…」
アスティのネーミングセンス…無さすぎじゃない?
が、俺の唯一の武器だ。
もらっておこう。
手にした途端、体が軽くなるのを感じた。
全身に熱がこもり、力を感じる気がする。
村瀬曰く、
『閃光光杖』は
身体強化Ⅱ
跳躍強化I
魔力増加
の効果があるそうだ。
特殊なバフ効果は、Ⅲ型が75%増、Ⅱ型が50%増、Ⅰ型が25%増、となっているらしい。
まぁまぁの強さ、ってことか。
「……とりあえず、あなたを魔界コーヴァへ連れていきたいのだけれど…」
「もう戻るのか?」
「別にあなた、ここの世界に未練ないでしょ。この世界で産まれただけで、友人は大体あっちにいるもんね」
「チッ…」
「図星だったかしら……」
笑みを浮かべながら、ちらっとこちらを見てくる。
腹が立つ野郎だぜ。
「…それで、どうやって戻るんだ?」
「それがね…」
「今の時点では無理なのよ」
どういうことだ?
「今、どういうことだ?って思ったでしょ。顔に出てる」
「チッ…」
「図星だったかしら…」
笑みを浮かべながら、ちらっとこちらを見てくる。
腹が立つ野郎だぜ。
「…話が脱線したわ。どこまで話したっけ?」
「…今の時点では無理ってところまでだ。」
「ああ…そうそう、今の時点では無理なのよ
「なぜだ?」
「必要なのよ。賢者の石が…」
「賢者の石…?」
「魔界と人界、そして天界らを結ぶ、幻の石…と、世間では言われてるわね。」
スマホを開き、咲は画面を見せてくる。
Googleの検索結果だ。
『賢者の石…賢者の石とは中世ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬である。
人間に不老不死の永遠の生命を与えるエリクサーであるとの解釈もあるが、賢者の石が文献上に記述されるのはエリクサーよりかなり後である。
また、日本のネット上では世界を繋ぐ石…とも云われているが、真相は不明である。』
「どこにあるんだ?その石は」
「無いわ。」
「え?」
「無い…正確に言うと、今の時代には無いわ。」
「無いって…どうするんだ?」
「今の時代に無いだけよ。他の時代にはある」
「他の時代って…どうやって?」
「プラスマイナス300年くらいなら私の力で行けるわ」
「…一番近いのが今から80年ほど前のヤマト…日本ね。」
「80年前って…太平洋戦争のど真ん中じゃないのか!?…未来はどうなんだ!?」
「…それか、今から150年後の…………これはダメだわ。」
「未来はダメね。あなたたち人間には見せられない。過去だけしか見せられないわ」
まぁ、想像できない未来を見せられたら、精神が崩壊しそうだ。
しょうがないわな。
「…過去なら他には?」
「430年前、960年前、2450年前が近いわね」
「私の力じゃ、どれにもいけないけれど」
80年前……俺は歴史に詳しいから、分かる。
あの太平洋戦争だ。激戦の。
「じゃあ、行くわよ」
「……!?今からかっ!?」
「何か不都合?」
「…良い?世界の同一化現象は現在進行系で進んでるの。一刻も早く解決しなければならない事項なのよ。下手したら明日にも世界が滅亡するかも」
…世界が同一化したら世界が滅亡するのか…
初耳だ。
「…すまん。じゃあ5分だけ時間をくれ。心と出発の準備をさせてくれ」
……リュックに、懐中時計と乾電池数本、貰った杖らを入れる。
………出発だ。約80年前、1944年に…
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「ふっ……」
「……愚か者が…」
そうつぶやく影がいる。