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Lv7 竜の里 □




 俺はマイルームを出て崖の下にある街を覗いてみた。


 遠くから見た感じ江戸時代の写真で見た和風の街みたいだ。

 小さい家が道なりに並び、中央の広間に掲示板っぽい物が設置されている。あの木々に囲まれた大きい城が一際目立っているな。


 なかなか探索しがいのある広さだ。




挿絵(By みてみん)




 早速街に下りてみよう。

 




 名も知らない和風の街。

 建物は沢山あるけど、ほとんどが空き家っぽい。


 防具屋はあるかな…


「…」


 俺は道行く人を警戒する。

 今のところNPC(ノンプレイヤーキャラ)…プレイヤーではないキャラとしかすれ違っていない。プレイヤーとNPCの見分け方は簡単、もしプレイヤーなら頭の上にユーザー名が表示されるからだ。表示されないキャラはゲーム側が用意したNPCだと分かる。


 NPCは打ち水をしていたり野菜が積まれた荷台を引いていたりと、良い感じでこの世界を演出してくれている。


「ん?」


 しばらく歩いていると、和風の街並みに似つかわしくない奇妙なアイテムが売られている店を発見した。

 足を運んでみよう。


「いらっしゃいませ~!」


「!?」


 店員さんが声をかけてきた。


 この人は…NPCか。

 だったら緊張することもないな。


「この店は素材屋か」


 店ではアイテムの制作に必要な素材が売られていた。

 見たことがない素材ばかりだけど………あ、不死鳥の涙が売ってる。竜刀を作るための必須素材だから何個か買っておきたい。


「…値段が高いな」


 売ってる素材はどれも高額。

 今の俺じゃ買えないぞ。


 竜刀をオークションに出品したのは正解だったかもしれない。いくらになるかは分からないけど、ここの素材を買うにはどうしてもお金が必要になる。

 ここでの買い物はオークションの結果次第だな。


 今は街の探索を続行しよう。


 ………


 それにしても妙だな…さっきからNPCとしかすれ違わないぞ。一千万人のプレイヤーがいるこのゲームで、こんな偶然があり得るのか?


 …思い返してみれば、このワールドってどこなんだろう。


 そもそもゲームを開始して、ゼニスのマイルームからスタートしなかった時点で疑問に思うべきだった。ゼニスでもない世界にマイルームがあり、俺は外に放り出されていた。


 もしかしてこの世界…


「…」


 誰かと関わるのが怖かったけど、今は一人でいることが怖くなってきた。





 俺はこの街の広場に向かい、設置されている掲示板で地図を開いた。


「このワールドの名前は……“隠された竜の里”か」


 そんな名前のワールドは攻略サイトでも見たことがない。

 ファンタジ・オーダー・オンラインには四種族で四つのワールドが存在するけど、地図を見るかぎりこの竜の里はそのどれとも交わっていない。


 ここは竜人のワールドだから竜の里…だが竜人は未だに周知されてないレアアバターだ。じゃあ俺が想像した通りこのワールドは、竜人以外のプレイヤーがいないレアアバター専用の空間なのか?


「…自分を知れば身の振り方が分かると思っていたけど、これは俺一人の手に余るな」


 この世界に誰もいないと分かった途端、一気に心細くなってきた。


「とにかく誰かに頼りたい…」


 俺は掲示板でギルド検索ページを開いた。

 ゲーム内の悩みは支援ギルドに相談するのがこのFOOのセオリー。掲示板のギルド検索機能を使って、初心者を支援してくれるギルドを探してみよう。


「えっと、“初心者歓迎”“支援”で検索っと」


 キーワードを入力して検索すると、掲示板には数百万ものギルドページが表示された。


「多い…検索ワードが広すぎたな。じゃあ“防具”も追加しよう」


 防具は遅かれ早かれ必要になる物だしな。

 これで検索しても数百万が数十万になっただけか…どれだけのギルドがあるんだ、このゲーム。


「防具専門で人気なのは、この“天の衣”っていうギルドか」


 数あるギルドページの中でまず目に入るのは、この“天の衣”というギルドの宣伝画面だ。なんでもこのゲームで一番優秀な防具制作ギルドのようで、ファッション面にもかなり力を入れているらしい。

 初心者、攻略組、美しいアバターも大歓迎とのこと。


「人が多すぎるギルドには行きたくないな…」


 この手の大型ギルドは目立つからダメだ。

 もっとピンポイントに検索ワードを絞って探そう。


 そうだな…和服専門のギルドとかあるかな。

 このレアアバターに似合う防具といったら和服だ。それと俺は攻略組のように強くなろうとは思っていないから、見た目重視で遊び心のあるプレイヤーに会いたい。信用できるかも重要だから、なるべく活動実績の長いギルドがいい。


“和服”

“まったり勢”

“ベテラン”


 そうこう検索していたら、なんとか数十くらいのギルドに絞れた。この中に理想のギルドがあればいいが…


 ………


 ……


 …


「おお…これいいな」


 この紹介ページに掲載されている着物、すごく綺麗だ。

 ギルド名は“和道の装”っていうのか。


 設立は約一年前、ゲームが発売した当初からあるこぢんまりとしたギルドだ。長らく活動してなかったみたいだけど、最近になって活動を再開させたらしい。専門は着物や甲冑といった和物だし、初心者も大歓迎と書かれている。評判は古いものがほとんどだが好評だ。


 俺の要望を全てクリアしている。


「よし、ここに決めた!」


 このギルドに支援や防具制作の依頼をして、相手が信頼できそうなプレイヤーならレアアバターの悩みとかも相談しよう。


「俺が用意しないといけないのは、防具依頼の取引に使うアイテムか」


 取引は物々交換が基本だと攻略サイトに書いてあった。だから俺が作った三本目の刀“竜刀・蜻蛉”を取引に使おう。


 数少ない刀をばんばん取引に使うのは軽率かもしれないが、俺はこの竜刀・陽華があればいい。それに竜刀のレシピは十種類もあるけど、その全てを独り占めしようなんて考えてない。自分の作品を他のプレイヤーが使ってくれるからこそ、このゲームを楽しめるんだ。


“独占欲は身を滅ぼす”


 FOOの名言だ。


 良い防具が欲しいなら、良い武器を提供しなければ筋が通らない。竜刀が良い武器なのかは知らないけど、今の俺が作れる最高の武器には違いない。


「さて…行くか」


 いよいよ他のプレイヤーがいるワールドに旅立つ時。

 ワールド間での移動はデフォルトで持っている転移石を使えば自由にワープできる。俺は転移石を取り出し、行き先を和道の装があるワールド“イスト”にセットした。


「…念のためマントを羽織っておこう」

 

 自分の正体を隠すため、店で買った安物マントを羽織る。ここまでする必要はないと思うけど念には念をだ。


 俺はフードを深く被り、転移石を起動した。

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