Lv5 竜薬を制作しよう
次の日の朝。
俺はファンタジー・オーダー・オンラインにログインした。
「やっぱり夢じゃなかったか…」
忘れていたが、このゲームには自分の姿を確認する機能が付いている。装備画面の端っこにある鏡アイコンを押せば目の前に姿鏡が表示される。
鏡に映る自分の姿は、紛れもない女性の姿だ。
「それにしても、綺麗なアバターだな」
改めて自分の姿を確認する。
長くて綺麗な髪、幼さを残しつつも凛として美しい顔立ち、背が高くスタイルも良い。すらっとしたスタイルの方が着物は似合うんだっけ。
流石はレアアバターといったところか。
「…」
今の装備は一張羅の着物のみ。
この着物、脱いだらどうなるんだろう。
…男子なら当然の疑問だよね?
※
結論から言うと、俺の心に残ったものは虚しさだけだった。
このアバターが可愛いことは揺るがないし、最初は嬉しかった。でもいろいろ試している内にどんどん虚しい気持ちが沸き上がってきた。
心のない人形を相手にしているような、ただ一人で自己満足してるだけのような…そう自分を客観的に見たら哀れになってきた。
「気を取り直そう…」
俺はこんなことを試しにゲームの世界へ来たのではない。
服を着直して、昨日作った竜刀・陽華も装備してみた。
「っと…重い」
鞘から抜いてみたが、刀ってこんなに重いのか。
ステータスはどんな感じかな。
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【竜刀・陽華】
階級 一級作品
種類 太刀
攻撃力 480
切れ味 ×××
耐久力 200
重量 100
【スキル】
・陽炎の刃
[この刀による攻撃はガードできず、防御力を無視する]
・華竜の舞
[全てのモーションが特殊動作になる]
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へぇ…
「………」
…比較する武器がないから強いか分かんないな。
もう一本の蜻蛉は同じ竜刀だから比較にならない。掲示板で比較対象を探そうにも、途方もないジャンルと数の武器が存在するから判別が難しい。
試し斬りしたいけど、性能テストは次の機会だ。
「さて…もうちょっと制作してみよう」
昨日は作れるだけの竜刀を作った。
他に俺が作れる物は、この“竜薬”しかない。
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【減の竜薬】
階級 一級レシピ
必要素材 竜の鱗
特性 ステータスダウン(永続)
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と言っても竜薬のレシピはこれ一枚しかないし、素材も竜の鱗だけで作れるからお手軽だ。
……あれ?
竜の鱗×4
手持ちの竜の鱗が一枚増えてる。最初に六枚持ってて、竜刀制作で三枚使ったから残り三枚。なのになんで一枚増えてるんだ?
…そういえば俺のステータスに、竜鱗と書かれたスキルがあった気がする。
ステータスの詳細を確認してみよう。
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【スキル】
・竜化 Lv0
[使用すると竜に変身する]
・竜の瞳 Lv1
[全てを見通す可能性を秘めた瞳]
・竜鱗生成 LvMax
[一日一枚“竜の鱗”を生成する]
【装備】
武器 竜刀・陽華
防具 普通の着物
装飾 なし
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これだ、竜鱗生成。
このスキルで竜の鱗が増えたのか。
きっと日付が変わる直前、俺がログアウトするくらいのタイミングで生成されてたのだろう。まるで俺専用のログインボーナスだな。このペースで竜の鱗が生成されるなら、勿体振らず使ってもよさそうだ。
他のスキルとかいろいろ気になるけど、今は竜薬の制作を優先しよう。いちいち目移りしてたらまた混乱してしまう。
「えっと…あった、作業台」
このマイルームには刀を作る金床とは別に、薬を調合する作業台も設置されていた。
まず作業台に座る。
材料は竜の鱗一枚、置いてあるすり鉢に入れすり潰すだけで完成だ。
ゴリゴリ…
…地味だけど楽しいな。
鱗を削る感触と作業音が心地いい。
よし、出来た!
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【竜の減薬】
階級 一級作品
特性 使用者のレベルが一下がり、ステータスからレベルアップ時に得たポイント分を自由に選んで消す。ペナルティで下がったポイントがある場合、下がったポイントから消える。
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出来た…けど、なんだこれ。
レベルが下がる薬?
強くなる薬ならともかく弱くなる薬なんてどう使えばいいんだ。量産できるからと竜の鱗全部使って四つも作ったのに、まさかの外れアイテムか?
「いや、待てよ」
これはゲーム初心者である俺の主観。
もしかしたらこのアイテムを有効に使えるプレイヤーがいるかもしれない。少なくとも低レベル初心者である俺には間違いなく使いこなせない代物だ。
竜薬もオークションに出して様子を見てみよう。
※
さて、作れる物は作った。
竜の減薬もオークションに出品した。
「次にすることは…取引だ」
昨日は怖気づいてオークションに逃げたが、やはり取引が出来なければ話にならない。
「…」
俺はマイルームの出口に目を向ける。
ああ…でも怖いな。
急に話しかけられても、上手に対応できるだろうか。
「わ、私なら出来る」
女性口調の練習もしといた方がいいかな。
それと頭の角と尻尾は隠そう。
自分の体を弄っていた時に発見したのだが、竜人の特徴である角と尻尾は非表示に出来る。これでレアアバターであることを隠せるんじゃないか?
「はぁ…」
隠し事が多いと苦労する。
それにゲーム内とはいえ嘘をつくのは後ろめたい。もしフレンドを作れてパーティーが組めたら、仲間にだけは自分がネカマであることを打ち明けたいな。
「………よし!」
覚悟は出来た。
行ってみよう、この世界の街へ!