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Lv4 掲示板の反応①




 このファンタジー・オーダー・オンラインには中心拠点“ゼニス”を除いて四つのワールドが存在する。ギルドを立ち上げたベテランプレイヤーはその四つのワールドから気に入った地区を選び、そこにギルド施設を立ち上げ活動拠点にしている。


 東のワールド“イスト”にある、獣の紋章を掲げた大型ギルド“神々しき獣”の集会場。


「…遅いね、リリン」


「寝落ちでもしたか?」


 マントを羽織った大人しそうな青年のラグロと、大剣を背負う大柄な大男のベオ。二人は退屈そうに雑談を交わしながら相方を待っていた。


「時限ボス、そろそろどこかに行っちゃうよ」


「あいつがボスのレア素材欲しいって言うから付き合ってやってんのに」


「そういえばリリン、今日は全体掲示板の取引をチェックするとか言ってたね」

 

「レア素材の交渉なんて上手くいくとは思えないが…」


 そんな会話をポツポツと続ける二人。


「ラグロ!ベオ!」


 その時。

 ギルド入り口の扉が勢いよく開け放たれ、ブロンドヘアの女騎士が現れた。


「あ、来た。遅いよリリン」


「時限ボスがいなくなる前に行こうぜ」


 その女騎士が二人と約束をしていたリリンだ。


「二人とも大変!今すぐ簡易掲示板のオークションを見て!」


 呑気にリリンを迎える二人とは対照的に、リリンは慌てた様子でギルド内に設置された小さい掲示板を指差す。


「え?まさかオークションにボスの素材あったの?」


「嘘だろ…レア素材を金に変えても得ないのに」


 リリンの不可解な言動を見てラグロとベオは不審に思う。

 しかし、リリンは首を横に振った。


「違うよ!いいから来て!」


 リリンは強引に二人の手を引っ張って掲示板前に連れて行く。そして掲示板を操作し、オークションの出品物が表示された画面を開いた。


「これ!この武器だよ!」


 リリンが指さした出品物は、刀だった。

 

「刀?見たことないやつだね」


「ほんとだ。でもオークションなんかに出品する辺り、大したこと…」


 そう言いながら、二人は刀の詳細を覗いた。


―――――――――

【竜刀・日炎】

階級    一級作品

種類    大太刀

攻撃力   910(+200)

切れ味   300

耐久力   ×××

重量    200


【スキル】

・炎竜の爆炎

[攻撃に爆炎を付与する]

・炎竜の剛鱗

[この刀は折れない]

―――――――――


「…ん?」


「…は?」


 ベテランプレイヤーであるラグロとベオは目を疑った。


「壊れない武器なんて初めて見た…それに爆炎属性ってのも聞いたことがない。合計威力1000超えって、この重量と切れ味で出していい数値じゃない」


「しかも等級一級の武器ってことは、まだ隠されたスキルがあるはずだぜ。なんだこの今までの武器を過去にするようなぶっ壊れ性能」


 数多くのアイテムを見てきた二人は、この竜刀がどれだけ常軌を逸脱した性能を有しているのかを瞬時に理解する。


「全体掲示板の広場ではこの刀の話題でお祭り騒ぎだったよ。もういくつかのギルドは落札に動き出してるみたい」


 興奮気味に語るリリン。


「そりゃそうだ…この武器、性能だけなら特級武器にも引けを取らない。攻略組ギルドは黙ってないぞ」


 攻略組ギルド“神々しき獣”のリーダーであるラグロは顎に手を当てて考え込む。

 この武器は攻略組の均衡を大きく乱す代物だ。どの攻略組ギルドがこの武器を手にするかで、今後の勢力は大きく変わる。


「出品者は何を考えているんだ?この武器を金に変えるなんて、アホとしか思えん」


 ベオがそう吐き捨てているが、その理由はこのファンタジー・オーダー・オンラインのゲーム性にある。


 レアアイテムを手にした数で実力が決まるこのゲームにおいて、通貨の価値は低い。


 まったく使い道がない訳ではなく、駆け出し初心者にとってお金は重要だ。だがお金で高レアのアイテムを入手することは出来ないので、ベテランプレイヤーほどお金を持て余してしまう。

 そのゲーム性故、欲しいアイテムがあれば他のプレイヤーとの物々交換が主流になる。だからこそ素材をお金に変えるオークションは不人気なのだ。


「出品者は誰だろう」


 ラグロがそう言って出展者情報を開く。


――――――――――

名前   [匿名]

出品物  [竜刀・日炎]

期間   [7日]

開始価格 [5000G]

現在価格 [1575000G]

出品者コメント

[初心者です、よろしくお願いします]

――――――――――


「初心者…?」


 初心者という単語を見てフリーズするラグロ。


「謎が多いでしょ…匿名だから出品者が誰か分からないし」


 リリンがそう付け加える。

 誰が何の目的でこのよう暴挙に出たのか、真相は永遠に闇の中かもしれない。ただハッキリしていることは一つ、この竜刀は落札した者の所有物になることだけだ。


「おい!そんな考察は情報ギルドに任せて、俺たちはこの刀を手に入れることだけ考えようぜ!この武器を他の攻略組には…間違ってもヴァルのとこには渡したくねーぞ!」


 考察する二人に、息巻いたベオが行動を促す。


「そ、そうだったね……まず少しでも多くの資金集めよう。勝負は一週間後、今ログインしているメンバーにメールを送るから、ここにいるみんなも今すぐ効率のいい金稼ぎ場に向かってほしい」


 ラグロは集会場にいたメンバーに声をかけつつ、ウィンドウを開きギルドメンバーにメッセージを送る。

 “神々しき獣”は総員数千人を超え、人員だけなら一二を争う大型ギルドだ。こういった人海戦術なら他の強豪ギルドより有利に立ち回れる。


「効率のいいお金稼ぎスポット、もう人で溢れ返ってるらしいよ!」


 掲示板で情報を集めるリリン。

 考えることはどのギルドも一緒、竜刀争奪戦は既に始まっている。


「こっちも負けてられないね。ベオ、リリン、今日から徹夜だぞ!」


「よしきた!」


「やるしかないね」


 時刻は深夜、タイムリミットは一週間。

 彼らの戦いは唐突に始まった。

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