Lv3 竜刀を制作しよう
「さて…どうしたものか」
俺は腕を組んで現状の整理を始める。
…腕を組むと膨らんだ胸に触れて異物感を感じるな。
「はぁ…」
やっぱり女性の体だと調子が狂う…
どうしてネカマになったしまったのか。
それはレアアバターの容姿と性別が固定で決められているからだと推測する。だから男が獲得しても女性デザインのままだったんだ。
取りあえずこの仮説で納得するしかない。
どうしてこのアバターを男性プレイヤーが獲得できるようにしたのかは謎だ。このゲームがこんなミスをやらかすとか思えないし、ネカマが生まれるのは想定の範囲内なのかも…
もしかしたら俺と同じ境遇のネナベがいたりして。
「いや……もうこのアバターについて考察するのは止めよう」
こんな仮説を立ててもゲームは始まらない。
着眼点を変えよう。
「…」
まず鍛冶場の内装に注目した。
作業台、倉庫、ベッド、小さな掲示板らしき板………攻略サイトに書かれていたマイルームに設置されている物は揃っている。もしかしたらここは、このレアアバター専用のマイルームなのかもしれない。
このゲームはプライバシーがしっかり守られている。所有権のある建物に無断で入れないし、置いてある物を勝手に利用することは出来ない。
試しにアイテム倉庫のような箱に触れてみた。
――――――――――
~アイテムBOX~
何も収納されていません。
収納しますか?
――――――――――
開いた。
使えるってことは、ここが俺のマイルームってことでいいのかな。
「…気を取り直して、初心者らしく動くとするか」
レアアバターの獲得で出鼻をくじかれたが、当初の予定通り公式サイトに書いてあった初心者用チュートリアルに従ってゲームを進めてみよう。
『まずはマイルームでアイテムを制作してみよう』
このゲームのメインはアイテムを制作することだ、アイテムを制作しなければこのゲームは始まらない。
「えっと、この鍛冶場に座ればいいのか」
俺は金床の席に腰を下ろす。
すると目の前にウィンドウが開き、自分の持ち物が表示された。
――――――――――
【作品】
なし
【素材】
ミスリル鉱石×3
不死鳥の涙×3
竜の鱗×6
蜃気楼の秘宝×1
炎魔竜の牙×1
蟲王の爪×1
【レシピ】
竜刀のレシピ×10
竜薬のレシピ×1
――――――――――
公式サイトに書いてあった通り、持ち物には制作に必要な道具一式を揃えられている。お試し用のチュートリアル素材ってやつだ、本当に親切なゲームだよな。
「俺が作れるのは…この竜刀っていう武器か」
竜刀…強いのかな。
いくらレアアバターでも所詮は序盤に作れる武器、性能について過度な期待はしないでおこう。竜刀のレシピは十枚もあるけど、手持ちの素材で作れるのは三本だけ。
「よし…作ってみるか」
まずこの“竜刀・陽華”ってやつを作ってみよう。
俺の名前と偶然にも同じ、なんか運命を感じた。
目の前に表示されたヘルプ機能の制作手順に従って制作に取り掛かる。
えっと…ミスリル鉱石、竜の鱗、蜃気楼の秘宝を金床に置く。大槌を使って素材を叩くと、三つの素材は一つになった。一つになった塊を火床に入れて熱する。
そして熱した塊を、槌で叩く
カン!カン!カン!
おお、なんか刀鍛冶っぽい。
叩いたら不死鳥の涙を注いだ水槽に入れて焼き入れする。
ジュー…
これで完成だ。
作業はかなり簡略化されている。現実と同じ工程で作ることも可能らしいが、今は簡単に済ませてしまおう。
“竜刀・陽華”
「よし、完成!」
俺の初めての作品だ。
刀身の色は黒っぽくて、炎のような刃紋が鮮やかだ。柄と鍔は機能美を体現したようなシンプルなものになっている。飾り気がない方が刀は格好いいよね。
「よし!この調子で残り二本作ってしまおう!」
※
“竜刀・日炎”
“竜刀・蜻蛉”
出来たぞ、二本。
「ふぅ…疲れるな」
ゲームなのに腕は疲れるし息も切れる。
まるで現実の中で一仕事終えたみたいだ。
よし、制作が終わったら次のステップだ。
『誰かと取引してアイテムを交換しよう』
このゲームは協力を推奨し、仲間と手を取り合うことを必須にしている。
武器は竜刀があるけど防具がなければ冒険に出れない。俺は防具を作ることが出来ないから、その手の道を究めたプレイヤーに制作を依頼して物々交換をする必要がある。
一人では決して強くなれない、それがファンタジー・オーダー・オンラインの世界なのだ。
「…」
外に出て、誰かとアイテム交換か…
………怖い。
無視されたらどうしよう。拒否されたらどうしよう。文句を言われたらどうしよう。性別がバレたらどうしよう。
そもそも竜刀なんて珍しそうな武器を取り出したら、自分がレアアバターであることがバレてしまうかも。
オンラインゲームってやっぱり怖い!
俺が小心すぎるのかな…?
『怖かったら無理せず。オークションに出品することから始めて見よう』
チュートリアルさんは初心者の悩みなんてお見通しなんですね。
「オークションか…出すだけなら平気だ」
オークションとはアイテムを出品し、その品を世界中のプレイヤーが入札する競売のこと。出品者と落札者で言葉を交わす必要がないから俺みたいなコミュ障でも簡単に取引が出来る。
俺はマイルームに設置された掲示板の元に向かった。
掲示板では全ての情報が集まる。
レアアイテムの情報、経験値やお金稼ぎを効率的に行えるスポットの情報、“自由界”の攻略進捗情報などなど。オークションなどのアイテム取引もここから出来る。
「そうだな……竜刀・日炎を出品するか」
俺は制作した竜刀の中から、一番大きな大太刀を選びオークションに出品することにした。
「えっと、出品するには期間や開始価格とかを決めないとだな」
――――――――――
名前 []
出品物 [竜刀・日炎]
期間 []
開始価格 []
出品者コメント
[]
――――――――――
名前は匿名にしよう。
匿名にすれば身元を隠せるし、相手からコンタクトがくることもない。コミュニケーションはもう少しゲームに慣れてからがいいな。
出品期間は一週間だ。
出品に気付かれず終わるのは寂しいから、長めにとることにした。
開始価格は5000Gにする。
竜刀の相場が分からないから適当に決めた。落札価格を見れば竜刀の価値が測れるだろう。
最後はコメントか。
無難に“初心者です、よろしくお願いします”とだけ書き込んだ。こうすれば親切なベテランプレイヤーが落札してくれるらしい。
「よし、出来た!」
後は出品するだけだ。
………
手が震える。
この一歩はオンラインデビューの最初の一歩だ。
「すぅ~………はぁ~」
深呼吸をしてから、ポチッとな。
『出品が完了しました』
出品してしまった。
上手くいくといいけど…いや、人事は尽くした。
後は天命を待つだけ。
「ふぁ…」
作業を終えたら眠くなってきた。掲示板に表示されている時刻は、もう深夜の零時を過ぎている。
「明日もあるし、もう寝よう…」
今日はとにかく疲れた、さっさとログアウトしよう。
………
そういえば武器のステータス確認してなかったな。
明日確認しよう。