Lv38 ファッションコンテスト①
「ファッションコンテスト?」
「うん、久しぶりに参加してみようと思うんだ」
ハンナリさんは手際良くウィンドウを開いて、イベント情報が記載された記事を表示する。ああ…やっぱりさっき見たイベントのことだ。
「ハンナリさんって第一回の大賞受賞者なんですよね」
「まぁね…でも当時はファッションを極めようとするプレイヤーは少ないから、ライバルなんてほとんどいなかったんだ」
「それでも優勝して当然の作品でしたよ」
「ありがとう。現環境ではファッション業界がそれなりに盛り上がってて、いくつかのギルドが競い合ってるんだ」
「へぇ~」
「その頂点に君臨しているのがここね」
そう話すとハンナリさんはとあるギルドのホームページを見せてくれる。
「装備専門ギルド“天の衣”か…前に見たことあるな」
ここは攻略組御用達の装備制作ギルドだけど、ファッションにもかなり力を入れている。最近のコンテストの受賞者はほとんど“天の衣”のメンバーだった。
「天の衣のデザインは確かに悪くないんだけど、ちょっとマンネリ気味に見えるんだよね。だから私の作品で一発ぎゃふんと言わせようと思ってね」
ハンナリさんは自信満々に語る。
「表舞台にはもう出ないんじゃないの?」
すると横からワカナが口を挟んでくる。
「もちろん匿名で参加するから大賞を取るつもりはないよ。でも大賞を超えるような作品が下にあるって、ちょっと愉悦じゃない?」
「また妙なこと考えるわね」
「落ちぶれギルドらしい活動でしょ」
「卑屈なんだか傲慢なんだか…」
呆れたように苦笑するワカナ。
「久しぶりにお姉ちゃんの本気作品が見れるんだね!」
対してアヤは無邪気にイベントを楽しんでいた。
「それなら我ら“紅竜の峰”も全面協力しよう」
ハンナリさんの“和道の装”とうちは同盟関係にある。
デザインでは力になれないけど、必要な素材があれば調達に行ける。竜の平原で手に入れた珍しいアイテムも役に立つかもしれない。
「その言葉を待ってたよ~」
ハンナリさんは嬉しそうに俺の手を握る。
「それじゃあ早速、この服に着替えてみて」
そして一着の装備を渡された。
「なんですこれ?」
「試作品。ヨウカさんにはモデルをお願いしたいの」
「モデル!?」
なんで男の俺が女性服のモデルなんて…と言いそうになったけど、ハンナリさんはまだ俺がネカマであることを知らない。
「いいと思う!」
「いいんじゃない」
アヤとワカナは即決で俺の背中を押した。
く…身代わりってそういうことか。
「いや…ほら、他にも適任がいるでしょう」
「確かにアヤは可愛いけど、変な男に目を付けられるのが怖いからね。ワカナはレッドネームがあるからコンテストに出せないし」
「だけど…」
「それにレアアバターの美貌、利用しない手はないでしょう」
「…」
ダメだ、反論の余地がない。
「まずは基本形の一式を着てみて、それからアイデアを絞ってみよう」
「…了解」
まさかネカマの俺が女性モデルを引き受けることになるなんて…だがこれも嘘をついた者の報い、甘んじて受け入れよう。




