Lv36 イベント
大人気VRゲーム“ファンタジー・オーダー・オンライン”を始めて一ヶ月が過ぎた。
最初はのんびり3Dのバーチャル空間を堪能するはずだったんだけど、レアアバターの竜人を手に入れたり、ネカマになったり、レアアイテムを出品してオークションを騒がせたり、様々な出会いがあったり、森の中を大冒険したり、ギルドを立ち上げたり…
思い返すとすごく濃密な一月だった。
それでも高校の夏休みはまだまだ終わらないぞ。
「さて、二人が来るまで拠点でのんびりしよう」
俺はログインしたらまず冒険用の装備を脱いで下着姿になる。
竜人という唯一無二のレアアバター。
顔はやや幼さを見せるがしっかり整っていて、スタイルもスレンダーでとても魅力的だ。こんな綺麗な女性が裸で現れたら男なら誰だって興奮する。
それが自分の体でなければね。
「はぁ…」
ため息を漏らしながら黒い和服に着替えて鍛冶場の椅子に座る。
ここはレアアバター専用のワールドである竜の里だ。
この広大な空間に足を踏み込めるのは俺と、俺だけが許可したプレイヤーだけ。なんだかレアアバターの恩恵を独り占めしているみたいで気が引けるけど…色々と事情があるから、まだレアアバターの存在を公には出来ない。
でもいつか公表して、世界中の人を竜の里に招待してみたいな。
「今日は何をしようかねぇ」
取りあえず掲示板を開いてみる。
やれることはいくらでもあるけど、期間限定のイベントとかもあるから掲示板は逐一チェックするべきだ。
――――――――――
・第十三回ファッションコンテスト
毎月開催の服飾コンテスト。性能とスキルばかり重視する攻略組よりも、美しくて格好いいアバターを作ろう!
テーマ 夏の花
賞品 大賞 月光蝶のシルク
金賞 人魚の化粧水
銀賞 白銀スライムの体液
参加賞 赤い羽
※追記
モデル参加歓迎。
匿名で写真参加の場合、受賞は銀賞のみ。
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ファッションコンテストねぇ…刀鍛冶の俺には関係のない世界だな。名刀コンテストだったら負けない自信あるのに。
「でもハンナリさんなら出場したりするのかな」
ハンナリは俺の装備を手掛けただけでなく、ゲームの遊び方や助言をくれた大恩人だ。本人はこっそり活動したいと言っていたけど、こういうイベントが好きそうな人柄ではある。
「面白い情報でもあった?」
すると和室の奥からワカナが現れた。
赤い着物がよく似合う大人の黒髪女性だけど、髪質は綺麗に魅せるつもりがないほど短く乱れている。笑う時はそれなりに可愛いけど、その表情は基本的にムッとしている。
いかにも近寄りがたいオーラを放っているけど悪い人ではない。
「このコンテスト、ハンナリさんなら出場するのかなと思って」
掲示板の画面をワカナに向けてみる。
「あら、懐かしいわね」
「懐かしい?」
「だって第一回の大賞受賞者、ハンナリだもの」
「そうなのか!?」
やっぱりすごいセンスの持ち主だったんだ、ハンナリさん。
「お、過去作品の写真とか見れるのか」
コンテストのページには過去の受賞作品が閲覧できる。
第一回の大賞受賞者は…これだ。
「おぉ…すごいな、これ」
モデルとなっている黒い長髪のお淑やかな女性に、上品かつシンプルな着物がすごく似合っている。さらに着物の雰囲気に合うように背景や小道具も考えられてるから絵になっている。
金賞の作品も見事だけど大賞作品は次元が違う。
「…ん?でもこの美少女、どこかで見たことあるような」
さらさら髪の笑顔が眩しい美女…会ったことないはずなのに、何故か見覚えがあるぞ。
「っ!」
急にワカナが画面を閉じてしまった。
「な、なんだよ」
「別に…」
理由は分からないけどすごく不機嫌そう。
こういう時は深堀せず、そっとしておくのが一番だ。
「おーい、ヨウくんとカナちゃん」
そうこうしているとアヤがやって来た。
アヤトリの詳しい年齢は知らないけど容姿は俺よりも少し年下くらい。いつも明るくて愉快な女の子で、この集まりが賑やかなのも彼女のおかげだ。
この場に集まる三人がギルド“紅竜の峰”のメンバーだ。そして俺がネカマであることを知っているのはワカナとアヤの二人だけだ。
「アヤ、和道の装に寄ってたのか」
「うん!それでお姉ちゃんがね、ヨウくんとカナちゃんに来てほしいんだって」
ハンナリさんからの呼び出しか。
新しい装備の案でも閃いたのかな?
「嫌な予感がするわね…」
ワカナは曇った表情で呟く。
「今日はお店を開けないから、他のお客さんがくる心配はないよ」
不安がっているワカナを見てアヤがそう付け加える。
ワカナは事故でPKを起こしてしまい、ユーザーネームが赤く染まっている。だから事情を知らないプレイヤーからは犯罪者扱いされてしまう。
それが竜の里を公開できない理由の一つでもある。
「他に客が来ない設定なら大丈夫だろ」
「まぁいいわ…身代わりもいることだし」
「身代わり?」
「いえ、何でもないわ。さっさと行きましょう」
妙に引っかかることを言い残して、ワカナはアヤと一緒に鍛冶場の外へ向かった。それにしてもハンナリさんの要件って何だろう?




