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Lv35 ハンナリの日常➂ □




 ギルドは閉店設定にすれば普通の客は入って来れない。この状態で入店できるのはギルドメンバーか、ハンナリが招待したプレイヤーのみだ。


「やっぱり来てるんだ…攻略組の連中」


 ワカナはカウンターで頬杖をついてハンナリの話を聞いていた。


「ラグロくんが謝罪しに来たよ」


「ふぅん…となると営業中はおいそれと行けないわね」


 レッドネームであるワカナは他人の目を気にしなければ外出は出来ない。誰かに見つかれば即座に噂となり、暴言という名の石を投げつけられるだろう。


「まぁおかげでいい取引が出来たんだ」


 ハンナリは攻略組の対応とはうってかわってご機嫌だ。


「ヨウカさんから例の竜刀は受け取った?」


「受け取ったけど…これをどうしろというの?」


 どこか呆れた仕草でワカナは小さな刀をカウンターに置いた。それはラグロとの取引で手に入れた素材で作られた、ヨウカ視点なら六本目の竜刀だ。


―――――――――

【竜刀・暴魔】


階級    一級作品

種類    小刀

魔法力   3000

適合属性  無

耐久力   100

重量    10


【スキル】

・贄

[装備者の体力を1にする]

・飢

[受けた魔法攻撃を吸収して魔力を回復させる]

―――――――――


 それは刀でありながら魔法使い専用の竜刀だ。


「魔法力があり得ないほど強い…適合属性が無いから火魔法の威力は下がるけど、それにしたって破格よ」


「そうだよね」


「でも体力が1になるデメリットが論外、ピーキー過ぎよ」


 ワカナはこのデメリットのせいで竜刀を装備していない。自分の体力を1にしてしまったら、最弱モンスターの攻撃でもゲームオーバーだ。


「でもワカナは後衛だし、遠距離からの魔法攻撃は吸収できるんだよ」


「遠距離からの物理攻撃だってあるし、うちのギルドの前衛はもれなく初心者よ。この前だって平原で撃ち漏らしたウルフに噛まれたんだから」


「まぁまぁ、ワカナに渡す装備は他にもあるんだ」


 次にハンナリは紅色の着物をカウンターに置く。


「新作の着物…?」


 ワカナはすぐ着物のステータスを確認する。


―――――――――

【和装・紅葉】


階級    特級作品

種類    着物

防御力   0

魔法耐性  0

耐久力   100

重量    10

属性耐性  なし


【スキル】

・五重障壁

[物理攻撃を五回まで無効にする。魔力を消費して障壁を回復できる]

・万能属性

[相手の属性耐性を無視する]

―――――――――


「この着物なら物理攻撃を無効にできるよ。障壁回復にどれくらいの魔力と時間が必要か分からないけど、ヨウカさんの援護があればなんとかなるでしょ」


 魔法攻撃は竜刀が吸収。

 物理攻撃は着物で無効。

 防御力と体力が無くても、その欠点を補い合う相性の良いスキルの組み合わせだ。


「いやいや、それよりも最後のこれ!」


 しかしワカナが注目したのは別のスキルだ。


「万能属性ってハンナリ秘蔵の特級スキルじゃない!」


「そうだよ」


「そんな気軽に使っていいの?」


「いいんだよ」


 ハンナリは穏やかな表情で続ける。


「半年引退して思ったけど、勿体ないからってアイテムを使わないのは勿体ないんだよ」


「ああ…ハンナリはエリクサー症候群だったものね」


「それにもう私はヨウカさんのギルド“紅竜の峰”に全てを投資するって決めたの。だからもう他のことを考える必要はなくなったわけだ」


 昔は多くのプレイヤーからの依頼で装備を制作していたハンナリだが、愛着が湧くようなギルドは一つも巡り合わなかった。でも今は心の底から支えたいと思えるギルドがある。


「にしても…この私をこんなピーキーな魔法使いに改造するなんて」


 ワカナは呆れながら武具のスキルを見直す。


「最初から火力重視の個性派だったでしょ」


「それはそうだけど…」


「その装備たちがあればステータスに体力を振る必要はないから、ヨウカさんから減の竜薬を貰ってポイントを振り直せばバッチリ」


 そのままワカナの改造計画を進めるハンナリ。


「レベルは下がるけどヨウカさんたちと足並み揃っていい感じでしょ」


「そうね…二本目の竜刀のオークションで所持金も増えたから、金満の指輪の効果も合わさってとんでもない火力になりそう」


 何だかんだ言いつつもワカナは新たな可能性に胸を躍らせていた。


「これで和道の装のレアアイテムも底を尽きた…正真正銘、廃れたギルドだよ」


 仕事をやり終えたハンナリは気持ちよさそうに伸びをする。


「何言ってんの。輝くのはむしろこれからでしょ」


「え?」


 ワカナの言葉にハンナリはきょとんとする。


「この装備で紅竜の峰の冒険も本格的になる。竜人専用ワールドでレア素材なんかを見つけたら、装飾の材料として真っ先にハンナリに相談するからね」


「…」


 冒険ギルドがダンジョンで素材を調達して、制作ギルドがそれを元にアイテムを制作する。それこそがギルドの理想の関係だ。


 これまでハンナリがやっていたのはただの準備、通過点に過ぎない。ヨウカたちのゲームはこれから本格的に始まっていくのだ。


「ワカナぁ」


「なによ」


「楽しいね」


「…そうね」


 廃れてしまったギルド“和道の装”の物語は、ヨウカたち“紅竜の峰”という新しい風に吹かれながら続いてゆくのだった。




挿絵(By みてみん)

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