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Lv33 ハンナリの日常①




 装備専門ギルド“和道の装”は半年前まで有名なギルドだった。

 

 ゲームの序盤はみんな手探りで攻略の道筋を探るので、プレイヤー同士が手を取り合い信用できる仲間と正確な攻略情報を有したギルドが出世する。


 しかし、ゲーム初期は“共闘する環境”ではなく“競争する環境”だった。


 攻略貢献値を多く手にした者に豪華賞品が贈られるので、同じギルドに所属しても周囲のプレイヤーはみんなライバルだ。胸の内では一位の座を狙って情報を出し惜しみする者ばかり。


 だが人に与えない者はいずれ他人から何も貰えなくなる。協力をせず他人を陥れようとするプレイを続けていては、いずれFOOの世界で取り残されてしまう。




 そんな劣悪な環境の中で注目の的になったギルドが四つある。


 “神々しき獣”のリーダーのラグロは早々に一位の座を諦めていた。貢献値のことは考えず幼馴染のベオとリリンと共に楽しむこと重視でFOOをプレイしていたら、知らず知らずのうちに出世していた。


 “七聖戦士団”のヴァルはライバルのベオに負けたくなかった。だが仲間に囲まれながら強くなるベオを見て、自分もギルドを立ち上げることを決意。厳しい条件で信頼できる仲間をとにかく集めた。


 “オズの支援隊”のオズマは人との繋がりを求めて支援に特化したギルドを立ち上げた。最初は娯楽目的で始めたのだが、攻略組から依頼が殺到するようになり協力の重要性を知ることになる。


 “和道の装”のハンナリは優秀な装備を取り揃える、攻略組にとって頼りになるギルドだった。それも常連客だった“六星王”から有力な情報と素材を得ていたからだ。


 真剣よりも娯楽。

 攻略よりも交流。

 貢献値よりも絆。

 ソロよりも仲間。


 このFOOは人と人との繋がりが力に変わる。攻略組の精鋭たちは自由界50層という壁にぶつかってようやく、その事実に気付くことになる。




 そんな大手ギルドの一つだった和道の装だが半年前の事件で活動を停止させた。

 目まぐるしく環境が変わるFOOは常に全盛期で、いなくなった和道の装は瞬く間に人々から忘れ去られてしまった。





 和道の装の店内。


「今日も客こないな~」


 和道の装の店長であるハンナリはガラガラの店内を見て苦笑する。

 半年ぶりに活動を再開させてギルドページを更新したのに、やって来るプレイヤーは一日で十人いけば多い方。かつて大人気ギルドだった活気は見る影もない。


(ま、かえって好都合だけど)


 そんなことよりとレシピの束を取り出して一枚一枚確認する。


(あの三人に合う装飾品…何がいいかな)


 今のハンナリが熱中していることは、ヨウカたちに似合う装備を検討することだ。デザインを重視しつつ竜刀の個性を生かしたスキルを探すのは容易ではない。


(やっぱり目的があるとのめり込むな、このゲーム)


 ハンナリは最熱してすっかりFOOにハマっていた。

 その時、来客を報せるベルが鳴る。


「ハンナリさん、こんにちは」


 やって来たのは常連客でありレアアバターという稀有な存在であるヨウカだ。華やかな着物を可憐に着こなす彼女は、誰がどう見ても正真正銘の美少女だ。


「ヨウカさんいらっしやい」


「失礼しますっ」


 ヨウカは軽やかな足取りでハンナリがいるカウンター席に座る。


「今日は客いないですね~」


「うちなんて普通のプレイヤーなら見向きもしないからね。たまにヨウカさんみたいな初心者が迷い込んでくるくらいかな」


「こんなにいい店なのに、勿体ない」


「ヨウカさんがそう言ってくれるだけで十分だよ」


 二人で他愛のない雑談をする。

 これも攻略に特化しないエンジョイ勢だからこその楽しみだ。


「それで何かご用件でも?」


「ああ…実は探している素材があるんだ」


 ヨウカはアイテムボックスから竜刀のレシピを取り出す。


「竜刀を作るのに必要なんだけど、ハンナリさんは持ってませんか?」


「ふむふむ」


 竜刀のレシピを一枚一枚確認するハンナリ。


「…どれも希少素材だねぇ」


「やっぱり持ってないかぁ」


「いや、いくつか持ってるよ」


「ほんとですか!?」


「全盛期だった頃に手に入れた数少ないお宝だよ」


 ハンナリはギルドのアイテムボックスからいくつかの素材を取り出す。


「はい、どうぞ」


 それらを何の躊躇いもなくヨウカに渡した。


「貰っていいのか?」


「今の私にはもう必要ない代物だからね」


「うーん…」


 ハンナリから希少素材を受け取っても、ヨウカは素直に喜べなかった。


(あ、そうだ)


 ここでヨウカはあることを思いついて立ち上がる。


「ちょっと待っててください、また来ます!」


 そう言い残して転移石でどこかに行ってしまった。





「お待たせしました」


 しばらくして再び来店してきたヨウカの手には、桜色の美しい刀が握られていた。


「ハンナリさんから貰った素材で刀を作れました」


「へぇ~どれどれ」


 ハンナリは新しい竜刀のステータスを覗いてみる。


―――――――――

【竜刀・千本桜】

階級    一級作品

種類    打刀

攻撃力   1000

切れ味   1000

耐久力   1

重量    30


【スキル】

・開花

[鞘に戻すと耐久力が回復する]

・春一番

[抜刀速度と抜刀威力が上がる]

―――――――――


(軽量で高火力…一見するととんでもない武器だけど、耐久力が無いから一振りで折れちゃう。でもそれをカバーするのが居合特化のスキルね。使いこなせたら面白いことになりそう)


 最近の流行を調べていたハンナリは、すぐこの刀の特性を見抜いた。


「それハンナリさんにあげます」


 するとヨウカから予想外の一言が飛び出す。


「え、私に?」


「武器として使うなり、着物の小物に使うなり、取引に使うなり、インテリアにでもしてください」


「それじゃあ宝の持ち腐れだよ」


「いつもハンナリさんには世話になりっぱなしなので、受け取ってくれると嬉しいです」


「…そこまで言うなら」


 ハンナリは仕方なく竜刀を受け取るが、内心では嬉しかった。


(薄桃色の刀身が綺麗…これは映えるね)


 そもそもハンナリは和系の装備は何でも好きだった。

 だからこそ着物専門店のギルドを立ち上げ、性能よりも見栄え重視で装備を制作している。なので見た目も性能も言うことなしの竜刀は大好物だ。


「ありがとね、ヨウカさん」


 過去の栄光を失くしても今のハンナリは充実していた。

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