Lv31 ギルドの結成
しばらくハンナリさんとワカナは、和室で最近の近況を伝え合っていた。
ハンナリさんが活動を再開させたことや、ワカナが氷山の冒険をしていたことなどなど。半年も会ってなかったんだから、積もる話なんていくらでもあるだろう。
「そういえばヨウカさん、ギルドは結成したの?」
するとハンナリさんが俺に話を振ってきた。
「ギルド?」
ギルドって確か複数人のプレイヤーが集まって結成される組織みたいなものだよな。
「結成って…そんな人脈ないですよ」
「ギルドは一人からでも立ち上げることができるんだよ。ヨウカさんは訳ありだから、しばらく他のギルドに所属するつもりはないでしょう?」
「それはそうだけど…」
「だったら今すぐ立ち上げて、私のギルド“和道の装”と同盟を結ぼう。そうすれば素材の受け渡しや装備調整もやりやすくなるから」
なるほど…少数でもギルドを立ち上げるメリットは色々あるんだな。
「ワカナもヨウカさんのギルドに加入してくれるでしょう」
そう言ってハンナリさんは向かいに座るワカナを見る。
「ヨウカさんに渡した“金満の指輪”はもう受け取ってるよね。そこでヨウカさんがオークションで手に入れた大金をギルドの共有財産にすれば魔法の威力も凄く上がるし」
やっぱりハンナリさんはそこまで考えて金満の指輪を俺に渡したのか。
「ギルドを立ち上げなくても、金なら全て私が受け取ったけどね」
そしたらワカナがそんなことをぽつりと呟く。
「…はい?」
ハンナリは信じられないといった反応だ。
「ワカナ…まさかヨウカさんの所持金、全部ふんだくったの?」
「まあね」
「何してんの!あの指輪は二人でギルドを結成する前提で渡したんだよ!」
ハンナリさんは怒ってワカナの頬をつねっている。
でもそのお金はネカマによって起きた事故の謝罪費だから、ワカナが責められるのは筋違いなんだよな。でも今はその事実をハンナリさんに話す時期ではない。
何というか…後ろめたい。
「そ、それよりハンナリさん。ギルドってどうやって作るんですか?」
俺は慌ててギルドの話に戻した。
「まったく…えっと、まずはメニューを開いて」
そのままハンナリさんからギルドの立ち上げ方を教えてもらった。
※
「はい、後はギルド名を記入するだけだよ」
あらかたの設定を終えて、後はギルドの名前を決めるだけになった。
「名前か…どうしようかな」
竜人の俺が立ち上げるギルドだから、やっぱり竜の文字を使った名前がいいな。
「“紅竜の峰”とかでいいんじゃない?」
するとワカナが格好いい名前を提案してくれた。
「竜人の髪は紅いでしょ。そして強い刀をいくつも作れるのに、活動方針は自由界攻略とは真逆のエンジョイ勢。そんな刃先を使わず峰打ちで遊ぶようなヨウカにはおあつらえ向きでしょ」
ほほぅ…それで“紅竜の峰”か。
悪くないかもしれない。
「ワカナってこういう名前を考えるのは得意だよね」
ハンナリは嬉しそうに笑っている。
「じゃあギルド名は“紅竜の峰”で決定だ!」
個人的にも気に入ったしワカナの命名を採用しよう。
ギルド名に紅竜の峰と記入して、これでギルドの立ち上げだ。
「それで…ワカナはうちに入ってくれるのか?」
俺は恐る恐るワカナに確認を取る。
「もうギルドに加入するつもりはなかったんだけど、特別に入ってあげるわ」
ワカナはギルド“紅竜の峰”のホームページから加入申請を送ってくれた。
「そうか、ありがとう!」
俺はその申請を承認した。
おお…メンバーが増えたぞ。まだたったの二人だけど、これは嬉しいものだ。
「あれ?私も申請を押してるのに、反応しない」
アヤもギルドページを開いて加入申請を送っているみたいだけど…
「いや、アヤは入れないんじゃないか?」
「どうして?」
「だってアヤは和道の装に所属してるだろ」
「あ」
アヤはまるで忘れていたかのようなリアクションを取っている。
今日までずっと冒険に同行してくれたけど、アヤはハンナリさんのギルドのメンバーだ。ギルドは一つにしか加入できないと規約に書いてあった。
「別にアヤは今まで通りでいいでしょ」
するとワカナが横から口を出す。
「和道の装とは同盟を結ぶんだから、今まで通りパーティだって組めるし」
「そうだな…アヤは変わらず和道の装のメンバーでいてくれて大丈夫だ」
本音を言えばアヤも紅竜の峰に入ってほしい。
でも数少ない和道の装のメンバーを引き抜くのはハンナリさんに申し訳ないし、本人だって姉のギルドを捨てられないだろう。
「…」
…なんだかアヤの元気がない。
こんなにしおらしい姿、初めて見たかも。
「唐突だけどアヤ、うちのギルドから追放します」
急にハンナリさんがとんでもないことを言い出す。
「え、なんで!?」
もちろんアヤは急な解雇通知に動揺する。
「最近は追放ブームだから、私も乗っかることにした」
「そんな理由で!?」
「もちろん冗談よ」
ハンナリさんは悪戯っぽく笑いながら話を続ける。
「うちのギルドは制作がメインだから、アヤのプレイスタイルには合わないでしょ。ここでヨウカさんと一緒に冒険してる方がいいよ」
「で、でも…」
それでもアヤは迷っていた。
きっとハンナリさんを一人にしてしまうことが心配なのだろう。
「実は前に和道の装のギルドページを更新したらさ、元メンバーが気付いてこっちに戻ってきてくれたんだ。私はもう一人じゃないから、アヤも自由にこのゲームを楽しみな」
「…」
ハンナリさんに優しく諭され、アヤは決心したようにこぶしを握る。
「じゃあ…私もヨウくんのギルドに入る!」
「よし、歓迎しよう!」
こうして俺、ワカナ、アヤの三人でギルド“紅竜の峰”が結成された。




