Lv30 再会
森での大冒険を終えた次の日。
今日も俺は朝からゲームにログインしている。
アヤとワカナは昼過ぎにログインするらしいから、午前中は一人きりだ。なら俺も昼から始めればいいんだけど、このゲーム…やれることが多すぎて止められない。
「武器には自由に加工できる通常武器と、強力だけど加工できないユニーク武器がある…俺の作る竜刀はこのユニーク武器に該当するんだな」
昨日討伐した森竜の素材で竜刀を作ろうと思ったんだけど、何気なく制作情報を見始めたら夢中になってしまった。武器作りというものは本当に奥が深い。
このゲームが世界的に人気になるのも分かる面白さだ。
ピコン
その時、何かの通知音が聞こえた。
「ん?」
ステータスを確認して見ると、端っこにある手紙アイコンが点滅していた。
「もしかしてメールか?」
試しにアイコンをタップすると、メールボックスが確認できた。
やっぱりメールが来てる。
しかも二件。
一件目は一週間以上も前、俺がゲームを始めた日時に来てたやつだ。ずっと気付かず無視してたんだな…まぁこれは後回しにしよう。
注目すべきはついさっき来たメールだ。
宛名にはハンナリさんの名前が表示されている。
「ハンナリさんはログインしてるんだな」
早速メールを開いてみよう。
………
なるほど、ハンナリさんがついにその気になったか。
それなら心置きなくお膳立てができる。
※
「おーい、来たわよ~」
時刻は昼過ぎ。
鍛冶場でアイテムを制作していると、予定通りワカナが来てくれた。
「いらっしゃい。アヤはまだ来てないから、和室でお茶でもしててくれ」
「何か作ってるなら手伝うけど?」
「まぁまぁ、今は一人で大丈夫だから」
「…ならいいけど」
少し不審に思われたかもしれないけど、ワカナは隣の和室に向かってくれた。
よし…後は頼んだぞ、ハンナリさん。
「…」
襖を開けた瞬間、ワカナは動かなくなってしまった。それも当然…何故ならハンナリさんが和室で待ち構えていたからだ。
午前中にハンナリさんから貰ったメールには、ワカナとの再会を手助けしてほしいと書かれていた。だから俺はワカナに逃げられないよう、直で合わせる場を提供した。
でも大丈夫かな?
気まずい空気になってしまったら間に入るつもりだけど…
「だははははは!」
そんな心配をしていると、和室からハンナリさんの笑い声が響く。
「ワカナ、なにその目つきと髪型!」
「…久しぶりに会っていきなり見た目のダメ出し?」
「過去にいろいろあったからって、そんなアバターまで闇落ちしたデザインにしなくていいのに」
「これが本来の私だから」
「さらさら髪の清楚系美少女だった頃の方が可愛いのに~」
「ああなったのはハンナリのせいでしょ!」
会話の内容はよく分からないけど、楽しそうに話せてるじゃないか。これまで見せてきた躊躇いは何だったんだ?
「上手くいったみたいだね」
すると鍛冶場の奥に隠れていたアヤが顔を出す。
アヤは一足早くここに来ていたんだけど、二人の再会の邪魔をしないよう奥で隠れていたんだ。
「俺たちが心配する必要もなかったなぁ」
「本当に仲良しなんだね、お姉ちゃんとカナちゃん」
俺とアヤは和室で騒いでいる二人を見て、安堵の笑みを浮かべていた。
※
しばらく二人きりで会話をさせてから、俺たちも和室に入って合流する。
「ありがとうね、ヨウカさん」
俺を見るやハンナリさんは頭を下げてきた。
「別にお礼を言われるようなことはしてないですよ」
「そんなことないよ。ヨウカさんと出会わなかったら、私はワカナにも会えず一人で卑屈してただろうから」
「そうですかねぇ…」
ハンナリさんは活力あるから、遅かれ早かれ俺がいなくてもどうにかなってた気がする。
「私は最初から最後まで駒みたいに動かされて釈然としないわ」
ワカナは不服そうに頬杖をついている。
最初に氷山で俺と会ったのも、こうして再会の場を設けたのも、言ってしまうとハンナリさんの差し金だからな。
「それよりワカナ、やっぱりもう猫は被ってないのね」
するとハンナリさんが妙なことを言う。
「猫を被るってなんだ?」
「昔のワカナはずっと猫を被って周囲と接してたんだ。美人でスタイル良くて、愛想良くていつも笑顔で、攻略組のアイドルだったんだから」
このワカナがアイドル…?
まったく想像できない。
「これ以上昔の話を続けるなら帰る」
詳しく聞きたいけど、ワカナはちょっと怒っていた。
「ごめんごめん。でもワカナの新しい仲間にはいろいろ語りたいじゃない」
「相変わらず私の意思そっちのけで勝手なことするんだから…」
この二人…なんだか不思議な関係だな。ハンナリさんの勢いが強いのはいつも通りだけど、ワカナが言われたい放題なのが意外だ。
「何はともあれ、これで堂々と四人で遊べるな」
俺はここに集まる面々を見回す。
今まではワカナとハンナリさんの間に壁があったから、回りくどいやり取りを続けていた。でもその壁が取り払われたのなら遠慮せずみんなで集まって遊べる。
「いよいよこれからって感じだね!」
そう言ってアヤは勢いよく立ち上がる。
「これからは全力でみんなをサポートするから!」
隣に座るハンナリもやる気満々だ。
「攻略組でもないのに、そんな張り切ることないでしょう」
ワカナはいつも通りクールだけど、笑みを隠しきれてない。
ここにいる三人はレアアバターである俺の事情を知る数少ないフレンドだ。ハンナリさんは俺がネカマであることを知らないけど、タイミングを見計らって伝えたいと思っている。
お互い顔も名前も分からない関係だけど、ネカマの俺にとっては大事な絆だ。




