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Lv29 竜擬き




 森の探索を終えた俺たちは徒歩で拠点に帰ることになった。

 転移石を使えばすぐ帰れるけど、ワカナいわく帰り道でしか見つからない要素もあるにはあるらしい。でも新たな発見がないまま森の外に出てしまった。


「平原は何もないでしょうし、転移石で帰りましょうか」


 そう言ってワカナは転移石を取り出す。

 今日の冒険は大収穫だったけど、ボス戦に手ごたえがなかったから戦い足りないな。


「あ、ちょっと待って」


 転移石を取り出そうとすると、アヤが静止させる。


「あそこに妙なモンスターがいるよ」


 アヤが平原の先を指差す。

 そこにはボロ布を羽織った二足歩行の人型モンスターがいた。姿は布で隠されてるから見えないけど、なんだか妙な気配を感じる。


「もしかしたらレアモンスターかもね…ちょっかいでもかけに行きましょうか」


 それを見てワカナがそう提案する。


「ボスに歯ごたえがなくて不完全燃焼だったし」


「そうだね、私も暴れたりないよ!」


 二人も俺と同じことを考えていた。

 なんかみんなして戦闘狂みたいになってるな。


「それじゃあ戦ってみるか」


 俺たちは武器を構え、そのボロ布のモンスターが佇む平原に向かう。

 どうせただの雑魚モンスターだと思うけど…


 竜擬き(りゅうもどき) Lv.60


 ボロ布の敵、竜擬きは接近してくる俺たちに気付いて急に襲い掛かってきた。


「…」


 その手には刀が握られている。

 まさかとは思うけど、あれは竜刀?


「ヨウカ」


「まかせろ!」


 ワカナの指示でまず俺が前に出る。


“青の舞”


 俺は和装を青色にして竜擬きの攻撃を待ち構えた。

 氷山や森のボスでさえ寄せ付けない鉄壁の衣だ、どんな攻撃でも防いでやる!


「…」


 竜擬きは俺に向けて刀による三連撃を繰り出す。


 大丈夫、耐えられる。

 耐えられるが…体力の四分の一を持ってかれた。


 何度も受けられないし青以外で受けたら即死級だぞ!


「やあっ!」


“50連スラスラッシュ”


 俺の体力の減りを見てアヤがカバーに入ってくれる。高速移動による飛ぶ斬撃、回避なんてできるはずがない。


「…」


 だが竜擬きはとんでもない速度で後方に下がり斬撃を回避した。


 今の攻撃を躱すなんて…だが、俺たちとの間合いを空ければワカナの魔法の的だ。


“豪炎華(改)”


 後方から小さな魔法の火種が飛ぶ。

 いくら速度があっても、ワカナのリニューアルされた豪炎華の爆発範囲からは逃げられないぞ。


「…」


“竜化 Forme1”


 豪炎華は間違いなく直撃した。

 それなのに…奴の体力はまったく減っていない。


「なんだあれ…?」


 竜擬きの刀を持っていない左腕が、巨大な竜の腕に変形している。まさかあの竜の鱗で豪炎華を防いだのか?


「二人共、撤退するわよ」


 背後からワカナの指示が飛んでくる。


 当然の判断か…こっちの自慢である攻撃力、防御力、速度の全てが竜擬きには通用しない。今まで戦ってきたモンスターが可愛く思えるほどの力の差を感じた。


「アヤ、前に出て時間を稼いで。ヨウカは私のところに戻って盾になって」


「了解!」


「お、おう」


 逃げる時のフォーメーションは事前に決めてある。ワカナがエスケープの魔法を唱える間、アヤが前に出て時間を稼ぎ、俺は詠唱を妨害されないように下がって盾になる。


 アヤ一人に戦闘を任せることになるけど、大丈夫だろうか。


「…」


「…」


 アヤと竜擬きは間合いを詰めず睨み合っている。

 相手は襲ってこないのか?


「―――」


「え?今なんて」


 …よく聞こえないが、アヤが竜擬きと何か会話をしているように見える。里にいるNPCの住人ならともかく、襲ってくるようなモンスターに言葉が通じるのか?


「よし、準備できた」


 そうこうしている内にワカナの詠唱が終わったようだ。


“エスケープ”





 俺たちは無事、拠点の鍛冶場に転移した。

 

「なんだったんだ、あの強すぎるモンスターは!?」


 緊迫した戦場から離脱した俺は、安心して腰を抜かしてしまった。


「私も迂闊だったわ…こういう平原に強いモンスターが徘徊しているなんて、オープンワールドのテンプレだもの」


 ワカナは冷静にあのモンスターを分析している。

 森で戦ったボスより強いモンスターが、気軽に足を運べる平原にいるなんて…しかもそれもゲームのテンプレなのか?


「強くなれたと思ったのに、まったく歯が立たなかったね~」


 アヤはスライムのスラゴンを撫でながら苦笑する。


 ボスを倒していい気になっていたけど、俺たちの実力なんてこの程度なんだ。きっと攻略組の精鋭はあんなのを相手に戦っているんだろうな。


「…そういやアヤ、あのモンスターと何か話してなかったか?」


 そこで俺はエスケープする前に気になったことをアヤに尋ねてみた。


「えっと…ううん、何でもない」


 だがアヤは首を横に振る。

 会話をしてたように見えたのは気のせいか?


「取りあえずあの竜擬きとやらに関わるのは保留ね」


 ワカナは腰に手を当てて息を吐く。


「今は最初に決めた通り平原の冒険に専念しましょう。残り三つの探索ポイントを制覇する頃には、私たちもそれなりに成長してるでしょ。リベンジするとしたらその時ね」


「そうだな…」


 負けたのは悔しいがいい目標ができた。

 今は勝てる気がしないけど、俺たちの成長はまだまだこれからだ。いつかあいつを倒せるくらい強くなってやる!

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