Lv28 竜の平原(森)④
その後も俺たちは森の探索を続けた。
もっと迷ったり苦戦したりすると思っていたけど、そんなことはなかった。森には順路があってほぼ一本道だし、立ちはだかるモンスターは氷山のボスに比べれば大したことない。
この調子なら問題なく森を制覇できそうだ。
「ん?」
しばらく進むとひらけた空間に出た。
その中央には、氷山で見覚えのある転移台がある。
「これって転移台だよな?」
「そうね。ここにある転移台といったら…」
「転移先にはボスが待ち受けてるんだな」
俺の答えにワカナが頷く。
迷路のようなダンジョンを進み、道中でモンスターと戦い、最終地点にはボスに通じる転移台がある…これが冒険の基本的な流れなんだな。
「ボス戦か…どうする?」
念のため二人の意思を確認しておく。
「挑んでみよう!」
「そうね…モンスターの強さからみて、勝てないボスではないでしょう」
アヤとワカナは挑む気満々のようだ。
三人が同じ気持ちなら迷う必要はない。
「ただ戦う前に、陣形と役割をはっきりと決めておきましょう。今みたいにバラバラで戦ってたら非効率だから」
そこでワカナさんが戦う前の作戦を立ててくれる。
「陣形は大きく分けて三つ…前に出て攻撃の要になる前衛と、後方支援と遠距離攻撃ができる後衛と、状況に応じて前にも後ろにも出れる中衛ね」
なるほど…いよいよパーティーでの戦闘が本格化してきたな。
「まず後衛は言うまでもないけど私がやるわ」
後衛担当は魔法使いのワカナだ。
異論などあるはずがない。
「そして前衛はアヤね。その素早さで、相手を翻弄してやりなさい」
「らじゃー!」
前衛担当は俺よりも竜刀を使いこなしているアヤか。
これも当然の采配だな。
「そんで中衛はヨウカに任せるわ」
「俺が中衛?」
「初心者には難しい立ち回りになるけどね。基本は前に出てアヤの攻撃のサポートに徹して、敵が私をターゲットにしたら後方に下がって盾の役割を果たしてほしいの」
「なるほど…」
和装のおかげで俺は攻めと守りの両方を担える。
攻勢に出るときは和装を赤色にしてアヤと肩を並べ、ワカナがピンチの時は和装を青色にして守勢に回る。確かに忙しい役割だが、俺以外に適任はいない。
「初見のボス相手になるから、いきなり勝とうだなんて思わなくていいからね。ボス戦ってのはトライアンドエラーを繰り返して攻略するものだから」
最後にワカナはそう付け加える。
氷山の時は運よく一発でクリアできたけど、本来のボス戦はそうやって苦労して攻略法を見出していくものだ。ましてやここは竜人専用のワールド、どんな強敵が現れても不思議ではない。
「わかった。それじゃあ行こう!」
俺の合図で三人同時に転移台に触れた。
※
転移した先で俺たちを待ち受けていたのは、大木のように太い緑色の大蛇だった。
森竜・万羅 Lv.30
「グウウ…!」
森竜は侵入してきた俺たちを蛇のように睨みつける。
「でかい蛇だな」
「強そうだね~」
「よく燃えそうね」
巨大な敵を前にしているというのに、俺たちはやけに落ち着いていた。
きっと二人も俺と同じ気持ちだろう。
勝てるかという不安よりも、自分の力がどれだけ通用するか試したくてうずうずしているんだ。最初に勝たなくてもいいと決めたけど、今は負ける気がしない。
「それじゃあやるか」
「うん!」
「さーて、どれほどのものかしらね」
俺たちは武器を構え、巨大な竜に挑むのだった。
※
「………」
森竜・万羅との戦いは一分程度で終わった。
結果だけ言えば俺たちの圧勝だった。
最初に森竜は体当たりからの噛みつき攻撃を仕掛けてきたから、俺は和装を青色にして攻撃を弾いた。それからコンボ数を溜めていたアヤの斬撃と、ワカナの魔法によるカウンター攻撃を放った。攻撃を受けた森竜は仰け反ったように動かなくなったから、俺は和装を赤色に変え、アヤとワカナで畳みかけるように攻撃を繰り返した。
そしたら森竜はいつの間にか消滅していた。
ボスがこんなにあっさり倒せていいのか?クリスタルゴーレムの方がまだ手ごたえあったぞ。
「もしかして私たち、強くなり過ぎたとか!?」
「…どうかしらね」
アヤは無邪気に勝利を喜んでいるが、ワカナは冷静だった。
「どうせこの竜は四体いる内の最弱でしょ。あまり調子に乗らない方がいいわよ」
「カナちゃんは謙虚だねぇ」
「過信したっていいことないわよ」
ワカナはそう言ってるけど、俺たちは確かに強くなってる。拍子抜けだったけど素直に勝利を喜んでいいんじゃないか?
「二人共ありがとう。簡単に倒せたとはいえ、俺だけだったら倒せなかった」
俺はここまで協力してくれたアヤとワカナに感謝した。
「ヨウくんもお疲れさまだよ」
「ま、これでヨウカも初心者卒業かしらね」
この仲間と巡り合えたのは、レアアバターを獲得するよりも幸福なことだと思う。ネカマだからってアバターを削除しなくてよかった。
「そういえば戦利品を手に入れたよ」
アヤがアイテムボックスから一枚の鱗を取り出す。
最後にトドメを刺したのはアヤだったのか。
「森竜の鱗だって」
「あ、その素材があれば新しい竜刀を作れるぞ」
その素材の名前には見覚えがあった。
十枚ある竜刀のレシピの中で、森竜の鱗を必要とする刀が一本だけあった。他の素材は素材屋で買えるから、すぐにでも制作に取り掛かれる。
「それじゃあ本日の探索はここまでにしましょう」
ワカナは肩を回しながら俺たちに告げる。
「それじゃあ帰るかー」
今日の収穫は盛りだくさんだったな。
三度目の冒険にしてようやく、俺はファンタジー・オーダー・オンラインの世界に慣れてきたみたいだ。




