Lv24 竜の里②
お茶を飲んで一息ついた後、俺たちは素材屋に到着した。
「うわ…マジで一級素材まで売ってる」
素材屋の品揃えを見ていたワカナさんは息を呑んでいる。
「それってそんなに珍しいのか?」
「NPCの店で売ってるアイテムなんて、七級以上の消耗品アイテムがほとんどよ。珍しくて便利なアイテムは自分の足で手に入れるのがこのゲームのルールだから」
「努力しないといい物は手に入らないってことか」
「それなのに一級のアイテムが売ってるなんて…信じられないわ」
「…」
どこまでレアアバターを優遇してくれるんだ、このゲームは。
おかげで新しい竜刀を作るのが容易になるけど、やりがいを奪われている気分にもなる。別に俺は楽して強くなりたいわけじゃないのに。
「でも品揃えは少ないし、ポーションみたいな消耗品や汎用性のある素材は売ってない。ここだけで物資を調達するのは厳しいわね」
ワカナさんはこの素材屋の悪い点を上げる。
レア度の高い素材が売っていても、それだけしか売ってないのは確かに不便だ。しかもこの里には他に物を売っている店がないから、足りないものは他のワールドで調達しなければならない。
「じゃあ今度、みんなで他のワールドへ買い物に行こう」
「うーん…」
そう提案するとワカナさんは嫌そうに唸る。
「どうかしたのか?」
「レッドネームの私が外に出ると、正義のヒーローにいじめられるのよ」
「あ…」
「一緒にいるとヨウカとアヤに迷惑がかかるから、物資補充は私一人で行ってくるわ」
ワカナさんは俺たちを気遣ってくれていた。
どうしてこの人が悪人として責められないといけないのか…これが噂に聞く誹謗中傷ってやつか。ネットの闇は深いな。
「買い物は私とヨウくんに任せて!」
そこでアヤが手を上げる。
「お姉ちゃんのギルドにも余ってる素材が沢山あるから、きっと譲ってくれるよ」
「そうだな。ワカナさんに任せるのも忍びないし、買い出し係は俺とアヤでやろう」
俺は正体を知られたくない身分だが、角と尻尾を隠していればレアアバターだとバレないはず。
「悪いわね…迷惑かけて」
ワカナさんは照れくさそうに頬をかいている。
レッドネームはいずれ解除されるらしいから、それまで三人での外出は我慢だな。
※
次が最後の探索ポイントだ。
俺たちは長い石階段を登って、大きな建物の前に到着した。
立派な煙突と旗に書かれたマークを見るかぎり、ここは温泉宿のようだ。木造四階建ての宿は装飾や照明が煌びやかで見ごたえがあり、レトロでモダンなデザインは最新ゲームなのに昭和の歴史を感じさせる。
「このゲームには温泉なんて要素もあるんだな」
これってあれかな…みんな裸になって湯に浸かるのかな。
「ヨウカ、変なこと考えてない?」
ワカナさんから冷たい視線を感じた。
「いや…食事にパワ-アップ効果があるんだから、温泉にも効能があるのかな~と思っただけだ」
別に変なことは考えてないぞ。
ネカマであることを利用して女湯に侵入できるかもなんて、そんな邪なこと考えるわけがない。
「ふーん…残念だけど、温泉に入っても効果はないわよ」
「じゃあ温泉に入る意味はないのか」
「利用したことないから知らないけど、入ればそれなりに気持ちいいんだって。温泉職人ってのもあって、伝説の特級温泉を探す冒険者もいたりして」
「へぇ~」
だとするとこの竜の里にある温泉は期待できるんじゃないか?
これだけの外装をしてるんだ、きっと部屋や温泉も凄いクオリティで仕上がってるはず。温泉に入る意味がなくても、温泉旅行気分が味わえるのは嬉しい。
「行ってみる!?」
アヤは宿の入口前でそわそわしている。
そうだな…
「…いや、今行くのは止めておこう」
「どうして?」
「午後からは冒険に行きたいからな。それに温泉宿を利用するなら下見しないで、ちゃんと予定を立ててから行きたい」
「そっか、下見しちゃうと初見の楽しみがなくなるものね」
アヤは納得してくれたようだ。
宿を堪能するのは後のお楽しみにとっておこう。
「よし、取りあえずこれで竜の里の探索は終了だな」
便利とは言いがたいが珍しい物がある竜の里。この広いゲーム世界に空いた、俺専用のスペースと考えればかなり充実している。
問題は里の外、竜の平原の探索だな。




