Lv22 竜人の育て方
俺は現実の世界に戻っても、頭の中はゲームのことでいっぱいだった。
こんなネカマの俺が仲間を作れて本当によかった。
多分だけど年下のアヤは、物腰柔らかでフレンドリー。右も左も分からない俺を親切にサポートしてくれた。姉であるハンナリさん共々、今後ともお世話になりそうだ。
そして年上のワカナさんは、自由界攻略にも参加したことがあるベテラン。冒険の時でも頼りになる存在だ。ネカマの件で一悶着あったけど、きっと仲良くなれるはずだ。
頼もしい仲間を作れて、オークションという山場を乗り越えて、ようやく心に余裕ができたぞ。
………
心に余裕ができたからこそ、今更になって思う。
この竜人のレアアバターとは何なんだ?
優れたステータスに固有のスキル、そして世間をあれだけ騒がせる竜刀を生み出し、自分専用のワールドまで所有している。いくら希少な存在だからって、ここまで優遇させる必要があるのだろうか。
ゲーム経験の長いハンナリさんやワカナさんも、そのことについて不可解に思っていた。一人のプレイヤーを特別待遇させてしまうのはバランスの崩壊に繋がり、運営にとっても不利益なはずだって。
運営はどんな意図があって俺にレアアバターを渡したのか…
…と、あれこれ考えても憶測にしかならないんだよな。
竜人に何らかの役割があるなら、その時が来るまでやりたいようにゲームを楽しめばいい。それ以上のことは考えないようにしよう。
※
オークションが終わった次の日。
俺は早朝にログインした。
この連日ずっとゲームばかりしているけど、引きこもりじゃないぞ?俺は高校一年生の学生で、今は夏休み中なんだ。友達からこのファンタジー・オーダー・オンラインはやった方がいいと勧められたから、俺は全財産をはたいてFOOを遊ぶ環境を整えた。元を取るためにと、今は全力でゲームをプレイしている。
「二人はまだ来てないな…」
竜の里の拠点にはまだ誰も来ていない。
ならアヤとワカナさんが来る前に、自分のステータスでも確認しよう。
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名前 [ヨウカ]
性別 女
種族 竜人
職業 鍛冶【竜刀】Lv.2
調合【竜薬】Lv.2
【ステータス】
Lv 29
体力 1000
魔力 50
筋力 150
持久力 10
速度 5
運 5
ステータスポイント(105)
【スキル】
・竜化 Lv0
・竜の瞳 Lv1
・竜鱗生成 LvMax
【装備】
武器 竜刀・陽華
防具 和装・七花繚乱
装飾 なし
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これが今のステータスだ。
ワカナさんとの冒険でレベルが上がったし、ちょっとステータスポイントを振ってみよう。
氷山の戦いで俺もレベル以外に得るものがあった。冒険の中で何が足りなくて何が必要なのか、俺なりの回答は出している。
「もう少し速度が欲しいよな」
あの鈍重そうなクリスタルゴーレムに後れをとって、ワカナさんの魔法の妨げになってしまった。それにアヤほどじゃなくても、もっと素早くキビキビ動きたい。
この前、ハンナリさんからステ振りについての助言をもらった。
“装飾品は考慮しないで、自由にステータスを振っていいよ。ただ必要のないステータスにポイントを振るのはオススメしないな。竜刀を駆使した近接タイプのヨウカさんにとって、魔力と運は不用ね”
前衛として次に上げるべきステータスは体力、持久力、速度だな。
魔法も使ってみたい気持ちはあるけど今は保留だ。まずは竜刀を使いこなし、アヤとワカナさんの足を引っ張らないことを目標にしよう。
※
よし、ステ振りはこんな感じだな。
細かい数値は戦闘の中で微調整するとして、次は竜人アバターが持つスキルに注目してみよう。
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【スキル】
・竜化 Lv0
[使用すると竜に変身する]
・竜の瞳 Lv1
[全てを見通す可能性を秘めた瞳]
・竜鱗生成 LvMax
[一日一枚“竜の鱗”を生成する]
――――――――――
まず竜鱗生成については考えなくてもいい。
一日一枚“竜の鱗”という素材を生み出し、それが竜刀や竜薬の素材になってくれる。他にも用途はあるかもしれないけど、今は深く考えなくていいだろう。
次は竜化についてだ。
試しに発動してみたけど、何も起きなかった。多分だけどレベルがゼロだからだと思う。どうやってレベルを上げればいいのか条件は不明だから、これも考えるのは保留だ。
そして竜の瞳だけど…これならゼロじゃないから、発動できるかもしれない。
“竜の瞳”
発動できたかな?
えっと…瞳だから、視界に何らかの変化があるはず。まずは周囲を見回してみよう。
「…」
変化が分からない。
うーん…相変わらず分からないことだらけだ。全てを見通す可能性とかふわふわした説明じゃなくて、何が見えるのか明確に書いてほしいな。
「おはよう、ヨウくん」
「来たぞー」
首をひねっているとアヤとワカナさんがやって来た。
「あれ?ヨウくんの目、いつもと違うよ」
「…ほんとだ、なにそれ?」
二人は俺の目の変化に気付いたようだ。
変化があるってことは、スキルは間違いなく発動しているんだな。
「竜人のスキルの一つ“竜の瞳”を試しに使ってみたんだ」
「ふーん…」
何故かワカナさんは訝しむような視線を俺に向ける。
「じゃあアヤの下着の色を当ててみてよ」
「……いや、そんな透視能力じゃないぞ」
「そう、よかった」
「…」
ネカマだと知ってから、ワカナさんに警戒されてる気がする。
「正解は上下とも白でした」
そしてアヤが答える必要のない回答を教えてくれる。
「アヤ…そこは女性として慎みなさい」
そう言ってアヤの頬を優しくつねるワカナさん。
下着の話を振ったのはワカナさんだろ……なんて、口に出しては言わないけど。
「それより今後の話し合いをしましょう」
適当に話を切り上げ、ワカナさんは拠点の和室に向かった。
「ん?」
今、ワカナさんの姿がぶれて見えたような気がする。
なんだこの視界のぼやけは。
「…なに見てんの。実は本当に透視能力があるの?」
ワカナさんは足を止めて俺を怪しむ。
今はぶれて見えない…気のせいか?
「ち、違うって!」
ひとまず竜の瞳を解除しよう。
さっき見えたものが少し気がかりだけど、結論を焦ることはない。これから適度に使用していけば分かってくるだろう。




