Lv20 攻略組とオークション
プレイヤーたちの中心拠点となるワールド“ゼニス”の集会場。
初心者からベテランまで多くのプレイヤーが行き来するその施設に、異様な雰囲気を放つ五人が集まっていた。
「…なぁ、あれって五大攻略ギルドのリーダーたちだよな」
道行くプレイヤ―はその五人に注目する。
「ああ…自由界の難易度が急上昇した頃から、ああして集まるようになったんだ。あれで五回目くらいになるな」
「あんな凄いプレイヤーたちが手を取り合うなんて、頼もしい限りだな」
「どうかな。ああやって協力しないと、自由界の攻略が困難ってことだし」
「そんなに難しいのか…俺たちアマチュアの出る幕はなさそうだな」
FOO最大の要素である自由界。
そのダンジョンを攻略できるかは、彼ら五大攻略ギルドに委ねられている。
※
集会場に集まった、五大攻略ギルドのリーダーたち。
「いや~今日は集まってくれてありがとう」
まず口を開いたのは“神々しき獣”のリーダー、ラグロだ。最も構成員の多い大型ギルドのリーダーだが、その風貌は黒髪に平民服とどこにでもいるモブのような青年だった。喋り方も軽いノリで、1000人をまとめるリーダーには見えない。
「こういう集まりは大歓迎ですよ?もっと頻繁に集まってもいいくらいです」
次に“六星王”のリーダー、シナトが楽し気に微笑む。いや…黒いフードから覗かせるその笑みは、微笑むというより嘲笑しているかのように見えた。妙に嫌味を感じさせる喋り方といい、胡散臭さがにじみ出ている男だ。
「…56層のボス戦が間近だ。戦力の確認をしたかったところだ」
“七星戦士団”のリーダー、獣人族のヴァルは荒っぽい口調で呟く。こういった話し合いの場でも戦闘用の鎧を纏い、戦う準備はいつでも万端。その自信とプライドに満ちた面構えからは、真の攻略組と呼ばれるに相応しい威厳が感じられる。
「あら?“愚者の集い”の代表はナユタくんなのに、またシシンちゃんなのね」
攻略組の中で数少ない女性である“オズの支援隊”リーダー、オズマは首を傾げる。まるでおとぎの国のお姫様のような衣服ととがったエルフ耳は、いかにもファンタジーといった見た目だ。そのお上品で穏やかな物腰は、支援に特化するギルドの長らしい姿と言える。
「だからナユタが来るわけないだろ。うちのエースは、お前らが死ぬほど嫌いだからな」
最後にもう一人の女性、シシンが呆れた様子で答える。和風というよりどこか中華系な男装をした彼女は、集まった五人の中で唯一リーダーではない。そもそもライバル同士で構成されたギルド“愚者の集い”に上下関係などほとんどない。
この五人が代表となり、こうして自由界の攻略会議を開いている。
ボス戦が間近になれば作戦を立て、珍しいレシピを発見したら素材交渉を行い、イベントが発生すれば攻略情報をシェアする。
こうした集会が開かれるようになってから、いつの間にか彼らは“五大攻略ギルド”と呼ばれ世間から注目されるようになった。
この五大ギルドの誰かが、攻略貢献値一位でゲームをクリアしてくれると。
※
「ていうかこの集まりに好意的なのって“愚者の集い”の中でもうちくらいだぞ」
椅子にもたれかかりながらシシンは話し始める。
「うちのメンバーの大半は、あんたたちに因縁があるから」
「くだらん…ただの逆恨みだろ」
するとヴァルが興味なさそうに口を開く。
「お前らは少数で粋がって一方的に俺らの妨害をしてきた。難易度が上がり攻略がままならなくなったからと、手のひらを返して協力を求めているんだ。哀れで見ていられないな」
愚者の集いに対してヴァルはかなり辛辣だった。今はこうして同盟を組んでいるが、争いの遺恨はまだ残っているようだ。
「再犯がないよう、ちゃんと手綱を握っておけよ」
「大丈夫よ…うちらは人格はあれだけど、根は真剣に攻略を目指すプロゲーマーだぞ。それに取り決めだってちゃんとしたし」
「どうだかな。愚者共のやることは信用ならん」
「ぐぬぬ」
シシンは自分たちが加害者側であることを自覚しているので、返す言葉もない。
「まあまあ、喧嘩しないで仲良くやりましょうよ。みんなで一致団結しないとボスには勝てないのでしょう?」
そんな二人の間に割って入るオズマ。
「そうだよ。いつまでも足を引っ張り合ってる場合じゃない」
オズマの仲裁にラグロも加わる。
「難易度が急上昇した50階層…その最後に待つ59層の大ボスがどれだけ強いか想像もできない。内輪揉めして攻略がままならないとか、いい笑いものだよ」
攻略組の大目標は自由界を制覇することであり、貢献値や過去の因縁は二の次にしなければならない。だから五つの攻略ギルドは手を取り合うことを決めた。
「…信用はしないが、協力関係にケチをつけるつもりはない」
「うちらの目標は自由界の攻略だからね」
ヴァルとシシンも、この口論が不毛であることはわかっている。
「この竜刀も、攻略の役に立ってもらおう」
ラグロはテーブルの中央に竜刀のステータステキストを表示させた。本日の集会の最初の議題は、もうすぐ落札される竜刀・日炎についてだ。
「それにしても…いったい誰がどんな魂胆で、この竜刀をオークションに出品したんでしょうね~」
シナトは被っていたフードを取り、みんなに意見を求めた。
「噂だと、金満シリーズの指輪を多く所有してる人が出品したんじゃないかって」
集めた情報の中から有力なものを選ぶラグロ。
金満シリーズとは所持金に応じてステータスが上昇する装備のことだ。それならば使い道の少ないお金を集める利点になる。
「仮にそうだとしても、この刀を売る判断に至ったのは解せませんね。それだけこの竜刀は強い」
「そうだね……これは俺個人の想像だけど、この竜刀は運営からの救済アイテムかもしれない」
「ほう?」
「オークションという廃れた要素を利用して、回りくどいながらも確実に竜刀を攻略組に渡す。攻略の進捗が良くなりオークションも盛り上がる一石二鳥の手段だ」
「なるほど…竜刀の出品はプレイヤー視点で考えれば不可解ですが、運営視点で考えると腑に落ちますね」
「今後もこの竜シリーズがオークションに出品されるようなら、この説が濃厚かな」
ラグロの仮説に一同は納得している。
掲示板では様々な情報が行き交っているが、今のところレアアバターの手によって制作された武器だという情報は有力視されていない。それだけレアアバターの存在はこのゲームにおいて不確かなものだからだ。
「おっと、そろそろ時間だね」
ラグロはステータステキストを閉じて、オークション画面を表示させる。まもなくオークション終了の時刻だ。
『こちらの品は落札されました』
そしてついに結果が出た。
この場にいるオークションの勝者は、すぐ落札した竜刀をアイテムボックスから取り出す。
「ということで、竜刀は我ら“神々しき獣”のものだ」
落札したのはラグロのギルドだ。
「やっぱり人海戦術で金稼ぎされたら敵わないか…」
シシンは羨ましそうに竜刀を見つめる。
ラグロたちのギルドの特徴は構成員の多さだ。しかも各々の所持金をギルド資金として寄付してくれなければ成功はなかった。
この団結力こそが“神々しき獣”の長所だ。
「私のところで落札できれば、レンタル武器としていろんなプレイヤーが使えたのに~」
「今回はうちの強みが生きたということで」
残念そうにしているオズマを横目に、ラグロは手に入れた竜刀を鞘から抜いた。
「やっぱり刀ってかっこいいね。着物装備を揃えて和風スタイルで冒険したくなる」
「…」
着物と聞いて微妙な反応を見せるシナト。
「それで、誰が使う予定なんだ?」
ヴァルは竜刀の使い道についてラグロに尋ねる。
「基本はうちのエース、切り込み隊長のベオに装備させるよ」
「ち…」
ライバルのパワーアップは頼もしく思う反面、厄介に思うのは仕方のないことだ。
「この武器の使い心地については使用後に報告するとして、次の議題に移ろう。そろそろ56層にいるボスに挑むんだけど、情報ギルドによると…」
ラグロは竜刀を鞘に収め、話し合いを再開させる。
自由界攻略に特化した彼らが織りなす物語は、ヨウカたちと同時進行で続いていく。




